第197話 究極!無敵の布陣4

『こちらに気づいていない飛行型は、先に倒してしまう』

セオリー通り、空を飛ぶ新顔のカミを一刀両断して倒した。


「何『決まった…!』みたいな顔してるんですか?倒したのはあなたではありません。私です」

「はぁ…少しはカッコつけたいじゃないか?『ヒーローは遅れてやってくる』をやりたかっただけなんだから」

「あっそ。別にカッコよく無いですよ。ただ遅刻しただけなんですから」

「はいはい」


水を差されてすこぶる気分が悪くなる。

こちらに気付いたもう1体のカミが破壊の力を纏って拳を振り上げるが…


「こっちは話をしている最中なので。邪魔しないでもらえます?」


同僚のスキルによって動きを強引に止められ、不格好な姿でその場に固まってしまう。

これを食らうと私や咲島さんでも大きな隙を晒す事になる。


…ん?


「『牡丹』。多分遊んでる暇ない」

「復活するタイプか…同時撃破が条件?」

「いや、そうじゃない。同時は関係無い。俺が保証しよう」


倒したカミが復活した。

同時撃破が条件かとも思ったけれど、どうやら違うらしい。

アレがそう言うならそうなんだろうね。


復活した方は『牡丹』に任せ、私は目の前の敵と向き合う。


「そいつはコワスカミ。レベル300で神威は《破》。まあ、アラブルカミの劣化だ」

「なるほど」

「んで、復活した方がホロボスカミ。同じくレベル300で、神威は《滅》。マガツカミの劣化だが、おそらく神威の効果が即死属性だ。気を付けろ」


即死か…死人が出てないあたり、さっきの魔法以外に使ってないのか?

それに、《天秤》を使っている気配もない。

どうなってるの?


「《天秤》は使わなかったの?」

「使ったさ。最初のうちはそれで完全に封殺出来てた」

「対策されたわけか…コワスカミって言うくらいだし、神威の効果は本来壊せないモノも壊せるようになるとかかな?」


《天秤》は咲島さんでも対処できないし、出来たとしても《神威纏》状態の無尽蔵の魔力で無理矢理効果を弱らせるくらい。

大量の魔力で自分にかかる影響を弱めるとかなんとか言ってた気がするけど…コワスカミの場合、《天秤》の効果そのものを破壊できるみたい。

…となると?


「っ!?《静止》が突破された!?まだ破られるような時間じゃないのに!!」

「やっぱりか…」


『牡丹』のスキル《静止》が突破された。

このスキルは物の動きを止めたり、一時的に相手を拘束できる。

実力によってどの程度拘束できるかは変わってくるけど、カミでさえ10数秒は止められるはず。

けど、もう突破された。


「スキルの恩恵さえ破壊できるようになる神威か…面倒ね」


相手や空間に影響を及ぼすスキルを破壊できるとかそのへんだろう。

なら、私のスキルまでは抑えられないはず。


「コイツの相手は私がする。『牡丹』はそっちを頼む」

「了解。……それはそうと、この不死身をどうやって倒すの?」


真剣な口調の『牡丹』がそう聞いてくる。


「…倒せないかな?」

「ふ〜ん…」


情報をすり合わせ、観察している段階。

ちょうど今さっき気が付いた。

コイツは、倒せないって。


「カミと言えどモンスター。モンスターには決まって魔石が存在する。そうでしょ?」

「そうだね」

「魔石の気配、感じられる?」

「私も今気付いた」

「まあ、そう言うこと」


魔石はモンスターの心臓であり魂であり命そのもの。

そんな魔石が存在しないという矛盾。

これはどういうことなのか?


「方法は知らないけど、どうにかして魔石を手放した。そして魔石を何処かに預けた」

「預け先…何処に行ってると思う?」

「ダンジョン内だと吸収されかねないし、誰かに預けている…ヒキイルカミか」

「早川を吸収して生まれたというカミ?この2体がそれの手下ならあり得るか…」


前衛後衛がはっきりしていて、両方が強く、スキルも有能。

その上不死性を持つため倒されても死ぬことがない。

ヒキイルカミの考えた究極無敵の布陣なのか。


「どうする?倒せない相手に勝つなんて…策なんかあるわけ?」

「ない」

「じゃあお手上げね。おしまい」


『牡丹』はそう言うと、空逃げようとしたホロボスカミをスキルで捕獲。

一振りで首をはねるとまた一度倒したが…


「う~わ。3秒で復活したんだけど」

「復活までが早すぎる。…早すぎる?」


魔石を預けることで命を預け、無敵になるのは別に不思議じゃない。

無限復活できることは何ら不思議じゃない。

でも、この速度で復活できるのはなんか変だ。

明らかに早すぎる。


復活なんて、もっと時間を変えてやるようなもの。

それをこんな短期間で、何度何度も…おかしくない?


「復活は無限でも、即復活までは無限じゃないんじゃないの?」


全員に聞こえるように、わざと大きな声で話す。

すると、コワスカミとホロボスカミの動きが若干鈍ったような気がした。

…あたりっぽいね。


「方針は決まったよ。あと何回耐えられるか知らないけど、復活できなくなるまで倒す」

「了解」


私の言葉を聞いた『牡丹』の剣が万全のホロボスカミの喉元に食らいつく。

相手はレベル300のカミなんだけど…その一撃で倒される。

相変わらずの戦闘力。

最近雑魚相手にイキリ散らして、その国のお偉いさんから『それくらいにしてくれ』って土下座されてるところしか見てなかったけど…私の次に強いだけはある。


「マジか…《天秤》の恩恵すら受けずにホロボスカミを…」

「お前らの上司はそれだけ強いんだよ。正直、スキルなしの戦闘なら俺でも勝てるか怪しい」

「まさに戦闘力の権化…」


外野もかなり驚いてるし…私も負けてられないや。


「さて、お前の相手はこの私がしてやるんだが…これだけのレベル差があって何故私をそこまで警戒する?」


こちらを睨むばかりで攻撃してこないコワスカミ。

一体何を考えているのやら。


「まあでも、正しい選択だとは思う。何故なら――」


私はスキルを使ってコワスカミの背後を取ると、目にもとまらぬ刹那の剣閃で首を討ち取る。


「私はお前より弱いが、お前は絶対に私には勝てないからだ」


私のスキルは《加速》。

誰より速く、私には誰も追いつけない。

もし私に追い付ける奴が居るとすれば、正反対のスキルを持ち、私の加速を相殺できる『牡丹』くらい。

復活後、刹那の時間でもう一度倒せばいいだけ。

一度私に倒された時点で、もうコワスカミは私には勝てない。


「ご苦労様。これで私の経歴にまた一つ箔が付いた。しばらくは序列1位安泰ね」

「そうやって胡坐をかいていますと、すぐに私がその座を盗っちゃいますよ?」

「出来るもならやってみるといいよ。まあ、今じゃないけど」


2度同じミスは犯さない。

…というか、こんど同じミスしたらどうなる事か。


うん、絶対気を抜かないようにしよう。



改めて自分に活を入れると、絶対にこいつを逃がさないように集中する。

もうあの人に怒られるのは御免だからね。


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