第196話 究極!無敵の布陣3

何もできず炙られ続けるコワスカミとホロボスカミを眺めること30分。

十分体力を回復出来たので、私達も戦闘に参加したいと言ったけれど、いらないと言われてしまった。


…まあ、もう『天秤』もやる気があるように見えないし、今の状況なら『紅天狗』だけで十分。

私達は、このコワスカミとホロボスカミの2体を倒す方法を探したほうが良いと思う。


「う〜ん…同時撃破で駄目なら、何が条件なの?」

「回数制限か、別に弱点があるかじゃない?」

「なるほど〜。先輩頭いいですね!」

「別に正解かどうかはわからないけどね」


復活できる回数に上限があって、それまで削れば勝ち。

要は残機システムってやつだ。

もう一つは…RPGゲームにありがちな、心臓が別の場所にあってそれを壊さないと死なない的なヤツ。


だとしたらめちゃくちゃ面倒くさい。

だって、こいつらが心臓を預けている場所なんて容易に想像できるから。


「ダンジョンの最奥か、或いはヒキイルカミか…どちらにせよ、私達にはどうにも出来ない場所に隠してあるんじゃないかな」

「だとしたら最悪ですね。こんなの、確実な負け戦だ」


私達じゃどうしようもない。

『紅天狗』に任せようにも、彼にだって限界はある。

こんなの…どうすればいいの?


「撤退…そろそろ視野に入れたほうが良いかもね」


そう呟きながら少し考えるために近くの建物にもたれかかる。

息を抜いて、一旦冷静に考えたいからね。


状況を整理しよう。

まず今の敵は凶悪なカミの劣化版が2体同時出現で襲いかかってくる状態で、レベル100以上じゃないと対処が難しいレベルのモンスターが多数出現するスタンピードが起こっている。


カミを放置する方がヤバイと判断して一旦スタンピードは放置してるけど…それも私達くらいしか対処できないから被害は拡大する一方。

…スタンピードの対応に行っても良いかもね。


「『天秤』。2人でカミを相手できる?」

「なんだよ藪から棒に…まあ、出来なくはないぞ。アイツ一人でカミをハメ殺しに出来てるし、俺は《天秤》を維持してるだけでいい訳だからな」

「じゃあ任せる。そろそろスタンピードに対処しないと…」

「そうだな。余裕があるうちに、スタンピードの方もなんとかしておきたい」


『天秤』はスタンピードの対応を任せてくれた。

この場は『天秤』と『紅天狗』に任せて、私達2人はスタンピード制圧に向かう。

もしかしたらスタンピードの中にこの2体を倒す鍵があるかもしれないし、被害を抑える以外にもちゃんとした意味はあるんだ。

『天秤』は頭が良いから、そのあたりもしっかり理解して送り出してくれたに違いない。


「自分も暇そうなのに私達にだけ任せるって…ヤな奴」


…多分意味を理解できてない子が1人。


「俺だけでこの2体は抑えられる。『天秤』も行ったらどうだ?」


もう一人理解出来なさそうな奴がいたわ。

と言うか、『天秤』がこの場を離れたらスキルの恩恵を受けられなくなってボロ負けすると思うんだけど?

私の予想だと、《天秤》の効果は彼を中心としたそれほど広くない空間にしか作用しない。

それこそ、半径100メートルとかそこら。


「…やっぱり、恩恵が消えた」

「え?なんで?」

「効果範囲がそれほど広くないんじゃない?これが関西圏全域に効果があるとかだったら強過ぎるし」


大体100メートルくらい離れた時点で《天秤》の恩恵が消えた。

この範囲がもっと広かったら、『天秤』がその場にいるだけで大きく戦況が変わるんだけどなぁ…

それこそ、今こうやって私達がスタンピードの対応に行かなくていいくらい。


「あの場を離れるわけにはいかないってわけですか…思ってるより自由はきかないんですね」

「だとしても強過ぎるけどね?」

「1位の座にいる事が納得の強さですもん。もしかしたら本当にあの2人だけでカミを倒せるんじゃ――っ!?」

「っ!?」


背後からとてつもなく大きな気配を感じ、慌てて振り返る。

『紅天狗』の炎から抜け出したコワスカミが、今にも彼を殴り倒そうとしている様子が見えた。


その光景を見て、私はすぐに走り出す。

間に合うとは思ってないけど、多分一発くらいなら耐える。

問題なのはその後だ。

『紅天狗』は破壊の力の乗ったパンチをモロに受け、ビルの壁に叩きつけられる。

そこに私が割って入り、コワスカミの牽制をしようとした瞬間―――


「――っはあ!?」

「なんだと!?」


突然天秤の恩恵が消え、体が重くなる。

『天秤』が本気で驚いている…わざと消したとか、魔力切れの類じゃない。

なら…!


「まじかよ…俺の《天秤》を破壊しやがった…!」

「ずっとされるがままだったのは、《天秤》を破壊するため…その解析をしてた…?」


私達がこの2体を相手に優位に立ち回れる理由。

それが、それこそが《天秤》だった。

その事をよく理解し、煩わしく思ったコワスカミは自分の不死性を利用して解析。

空間に広がる《天秤》の効果を破壊して私達の有利を奪った。


「くそっ!すぐに《天秤》を貼り直す!それまで耐えろ!!」

「わかった!」


『紅天狗』は町田に回収してもらうとして、私は2体のカミの懐に飛び込む。

さっきと同じ要領で剣を振るうが…容易く避けられ、かすりもしない。


(魔力強化が無くなったから、動きが鈍い…)


私達を強化していた《天秤》が無くなった事で、カミを相手するには心許ない強さまで落ち込んでいる。

見てからの回避が出来る程には弱まってる。

それに、《天秤》を貼り直したところでどうせすぐに破壊されるんじゃないかな?

多分、コワスカミは《天秤》の壊し方を学習してる。

貼り直した瞬間破壊される可能性が拭えない…


(『天秤』はスキルに集中してる、『紅天狗』は負傷、町田は私がこの調子だと考えると接近戦をさせたくない。駄目だ、勝てる見込みが無い…!)


現状、まともに戦えるの人間が私しか居ない。

『天秤』は可能かもしれないけれど、破壊されるとしてもほんの僅かな時間でいいから《天秤》の効果が欲しい。

だから、タイミングを見計らっていつでもスキルを使える状態でいて欲しいんだ。


『紅天狗』は本当にギリギリ生きているだけ、戦線離脱となっても全然不思議じゃない重傷だ。

魔力は十分に残っているけれど、戦えるかと言われればNO。

無理に戦闘に参加させるくらいなら、しっかり全回復してから参加させたい。


町田は…《天秤》の効果が無くなったから不意打ちがしやすくなったけど、もし不意打ちをしてすぐに離脱できなければ一発アウト。

私もそうだけど、《破壊》を使われると即死なんだ。


その上、敵は1体だけじゃない。


「くっ!?面倒な!!」


降り注ぐ岩の雨。

ホロボスカミの魔法攻撃だ。

コワスカミが前に立ち、壁役となっていることをいい事に魔法でやりたい放題。

攻撃は私だけにとどまらず、後ろに控えている3人にも届く。


「チィッ!あ〜!めんどくせぇ!!」

「こんな重たい荷物背負ってる時にッ!!」


『天秤』は建物の下に転がり込んでやり過ごし、町田は魔法の届かない場所まで走って逃げようとしている。

周りにちょうどよく飛び込める建物が無かったから、『天秤』と違って逃げるのが遅れたんだ。


――っと!そんな事呑気に考察してる場合じゃない!!


「私の相手は随分暴力的じゃない……それじゃモテないよ!!」


攻撃を仕掛けてきたコワスカミ。

なんとか攻撃を皮一枚で回避すると、カウンターを叩き込む。

――当然のように無傷。


『紅天狗』のように高火力の魔法が使えれば良いんだけど…私は剣一筋。

魔法を扱う器用さなんて持ち合わせてない。


この絶望的な状況に、かつてない程私の心拍が上がる。

このまま心臓が破裂して自滅するんじゃないかってくらい。


「先輩!上ですッ!!」


突然、町田が叫ぶ。

回避行動を取りながら上を見ると、ホロボスカミが炎の魔法を構えてこちらを見ていた。

爛々と紅く輝く炎は、明るいのに何故か真っ黒に見える。

黒いのに明るい、明るいのに真っ黒。

そんな矛盾した炎。


…神威の効果。

ホロボスカミ…滅ぼす…死滅……即死攻撃!?


「やばいっ!!」


即死攻撃。

即死属性と言って、成功する確率こそ低く運が試される属性を纏った攻撃だ。

彼我の実力差、纏う属性の強度、使った魔力の量次第で即死の確率が上がる攻撃。


その全ての条件をクリアしたあの攻撃は、かすりでもしたら私は即死する。

なんてえげつない神威を…!!


マガツカミの劣化だと思ってたけど…マガツカミとは別方向でヤバイ!!


「避けられな――かはっ!?」


上を見過ぎていた私は、迫りくるコワスカミの攻撃を避けることができず、モロに攻撃を受けてしまう。

とんでもない衝撃が私を襲い、ジェットコースターにでも乗ったかのような速度で飛ぶ私。

地面に叩きつけられ、即死していない事に安堵するが……


(駄目だ…頭と背骨以外のほぼ全部の骨が折れてる…!)


《破壊》の効果と神威の効果で、直接殴られていない部分の骨まで砕けた。

背骨と頭が無事なのが不思議なくらい。

もうまともに動けない。

ホロボスカミの即死攻撃を避けられない。


死を覚悟し、目だけを動かして周囲の状況を確認する。


血の気を感じられない程白くなった町田。

絶望的な表情をする『天秤』。

いまだ動けない『紅天狗』。

もう私から興味を失ったコワスカミ。

後は魔法を放つだけのホロボスカミ。


……そして、地に伏す私と――こちらへ高速で向かってくる気配の感じられない2つの影。




……まだ死ねない。

ポーションを口で取り出し、ガラスの瓶を噛み割って中の液体を摂取する。

あの2人の邪魔ないならないように。

せめて、私は足を引っ張らないように。


最後の意地を振り絞ってまだ治りきっていない体に鞭を撃って起き上がると、町田を呼ぶ。

そして――


「すいません…後は頼みます……」


ホロボスカミの真上に現れた2つの影に託して私は崩れ落ちた。

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