第192話 大阪の災い
――時間を遡って大阪――
近畿支部を離れる事になるので、その手続きやら引き継ぎやらお別れ会やらの為に大阪に来たはいいけれど…
「まさか、こんな事に巻き込まれるとは…」
「ボケーッとしてないで手伝ってもらえます!?私、対モンスターは苦手だって先輩はよく知ってますよね!?」
「分かってるよ…それで言うと、私も苦手だよ?」
迫りくるモンスターの群れを相手に、私達は2人で戦闘していた。
別に他に人がいないわけじゃない。
戦闘に参加してくれる人間はいるけれど、モンスターのレベルが高すぎて話にならないんだ。
だから余計な被害を出さない為にも、別の場所で固まって戦うように言っている。
だから結局私達2人だけ。
ほぼレベル100のモンスターの大群を相手に粘っていた。
「な〜んか凄い勢いでレベルが上がってる感覚はありますけど、このままだとジリ貧ですよ…」
「分かってるよ。『天秤』か『紅天狗』か…どっちかが来るまで耐えるのが私達の仕事だよ。それかもしくは…今飛行機に乗って日本に向かってるらしい大幹部の到着を待つか」
「そっちのほうが現実味が無いね…」
多分、日本に向かう飛行機は急遽進路を変更して別の空港に降りているに違いない。
『青薔薇』と『牡丹』を乗せた飛行機が何処に降りるか知らないけど…あと半日も耐えれば到着するって信じてる。
あの2人なら、最悪海を走って渡って来そうだし。
そんな事を考えながら、2連撃でモンスターを真っ二つにし、追い詰められていた町田を助ける。
「ありがとうございます。やっぱり私じゃ火力が出ませんね…」
「短剣は格闘の次に不遇な武器だけど…格闘戦であり得ない火力を出す紫が居る以上、町田にも何か活路はあると思うんだけどなぁ…」
「それが見つかるまでは雑魚専、もしくは対人に特化しないと駄目ですね」
町田の一番の悩みは、短剣では火力が出ないと言う問題。
支部長の件はなんだかんだ上手くいきそうだけど…如何せん戦闘力で劣るんだよね、短剣。
対人戦ではそこそこ強いけど…リーチで他の武器種に勝てないし、他の武器種には出来ない超接近戦も紫と言う手数・威力・独創性、全てにおいて上を行く人間が居る。
自由で子供っぽく見える町田は、なんだかんだ子供には無い悩みを抱えていることを、私は知っている。
「短剣はなぁ…町田以上の強者が居ないから自分で開拓するか、タケルカミを頼るしかないのよね」
「私、あそこ嫌です」
「知ってる。咲島さんや紫達と比べて、私には認められてないからね。全然相手にされない」
あの3人…特に一葉ちゃんはタケルカミに気に入られていて、色々と修行をつけてもらっているとか?
でも、私達はまるで相手をしてもらえず、露骨に態度に差があるんだよね。
…まあ、私達は紫の恩恵に便乗して強くなっただけだし、認められないのも理解出来るけど。
「支部長になったら、自分の管轄の地域での問題は、基本自分で解決しないといけないじゃないです、かっ!」
「そうね。…ふっ!!」
モンスターを倒しつつ、将来について話す。
「やっぱり私って――しっ!!――他の支部長とか…同僚と比べてもちょっと弱いですし…」
「まあそこばっかりはねぇ…せあっ!!」
「仕方ないとは言え私達には『ジェネシス』の恩恵も無いですし、支部長として戦力的にやっていけるのかなぁって…はあっ!!」
華麗な連撃で急所を的確に攻撃し、モンスターを仕留める町田。
これだけ見ると短剣でも十分に見えるけど…私なら2連撃で倒せるし、一葉ちゃんなら首を一撃で刎ねるだけ。
紫に関してはパンチでもキックでも…とにかく強攻撃が当たりさえすればワンパン。
それに対し、確実に急所を複数回攻撃しないといけない短剣は、パワー不足が否めない。
「まあ、その技術が手に入るまでの辛抱じゃない?それに、レベル100の敵なんてそうそういないし」
「まあ、人間でレベル100なんて数えるほどしか居ませんから…」
これから私達が、支部長になって相手をすることになるであろう人間は、ほとんどがレベル100にも満たない連中。
町田でも、なんら問題はない連中ばかりだと思う。
「配属される場所次第では、スタンピードの対応もしなくていいだろうし、まあなんとかなるんじゃない?」
「だと良いんですけど……っ!?先輩!!」
「分かってる!!」
突然、骨の髄まで凍り付くような冷気を感じ、震えそうになる。
…でも、それは本物の冷気じゃない。
私達のよりも遥かに格上の強者の殺意。
それが冷気のように錯覚して、体が震えているんだ。
「カミ…?でも、既に東京と仙台にあの2体は居るって…」
スタンピードが起こった時に聞いた話だと、東京にヒキイルカミ、仙台にマガツカミが出現したらしい。
今外に出てきて暴れそうなカミは他にいないし…なんだ?
「なんて恐ろしい気配…いや、待って?これは…」
「町田…まさかが現実になるかも知れないよ…」
私達の知る、他のカミと比較しても遜色ないモンスターの気配。
それが2つだ。
未確認のカミが2体も同時に現れるなんて聞いてない!!
「町田!有象無象は後回し!最速で『天秤』『紅天狗』と合流する!!」
「わかりました!!」
カミなんて、私達ではどうしようもないくらい手に余る。
レベル100のモンスターが100体攻めてくるよりも遥かに危険で、お手上げだ。
とにかくまずは『天秤』『紅天狗』と合流して、戦力を固めないと…
「幸い、まだ顕現までは時間がかかるみたいね」
「気配の小出しでこれですか…レベル350以上はありますね」
「もっとだよ。400あるって考えたほうが良いかも」
「それ以上となると、ヒキイルカミの言うことを聞かないでしょうし、最大で400…そう思いたいですね」
漏れ出してくる気配からカミの強さを想像する。
レベル400のカミ…考えたくもないけれど、こっちには日本のNo.1とNo.2がいる。
あの二人がなんとか…
「先輩!居ました!」
「ええ。私と見つけた!」
『天秤』を見つけ、そこに駆け寄るとほぼ同時くらいに『紅天狗』も現れた。
流石の『紅天狗』も、1人じゃヤバイって感じたのかな?
「なあ天狗。勝てると思うか?」
「レベル300が2体。厄介だな」
「だな。お前さん達はどう思う?『花冠』の未来の幹部さん」
「わ、私?…推定、350から400のカミが2体なんて…私達のトップでも勝てない案件だと思う」
正直な意見を述べると、『天秤』は苦い表情をしつつも笑って見せた。
その笑みがなんなのかはわからないけど…別に悪いものには見えないね。
「レベル400か…だとしたら終わりだな。だが、それは無いだろう」
「どうして?」
「あいつら、魔力を放って気配を増大させてやがる。冷静になってしっかり観察してみな?」
『天秤』にそう促され、深呼吸をして改めて気配を探ってみると…確かに魔力を放っているのがわかった。
「なんで、そんな事を?」
「選別だろ?アレだけの気配を放ってなお向かってる奴だけ相手するってな?」
「その理由は?」
「そこでビビって逃げるようならモンスターに食われる。向かってきたら自ら手を下す。対抗するために俺達が中心になって人を集めたら一網打尽。考えられるのはそんなとこじゃないか?」
…なるほどね、
実際、私達以外はほぼ逃げただろうし、そいつ等は1人じゃモンスター1匹倒せず食われるような雑魚。
そんな雑魚をいちいち追い回すくらいなら、自分に立ち向かってくる強い奴だけ相手したほうがいい気がしないでもない。
モンスターのくせに頭が回る。
「…まあ、作戦会議はここまでだ。鬼が出るか蛇が出るか」
「出てくるのは神だぞ?」
「そう言うことは言っていない」
『紅天狗』が気を引き締めるように話を切り上げる。
それに対し『天秤』がまたボケて呆れられていた。
…まあ、それはそうと本気でやらなきゃいけない。
さあ…こっちはもう覚悟してる。
かかってこい…カミ!
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