第182話 力の使い方

タケルカミにボッコボコにされた後。

私達は回復能力がるので数分で復活。


それをいいことに、速攻で修行をさせられることになった。


「素振りなんて…何回やっても大して変わんないし…」


修行の内容は素振り。

とにかく素振り。

いつだって素振り。


地道な積み重ねが大切な事は知ってるけど…もっとほかの修行がしたい。

でもタケルカミはそれを良しとしないし、基礎的なことをどこまでも突き詰めていくタイプだ。


まあ、確かに素振りに勝る修行ないし、結局は積み上げてきたものの重みと量が勝敗を分ける。

何より、私の剣術はスキルに頼っている節が強い。

だから、体になじませて慣れる必要がある。


「この修行も、あんまりキツくなくなってきたなぁ」


ひたすら素振りをさせられる。

しかも1セット10000回だ。

前は神林さんに泣きつきに行きたいくらいだったけど、慣れれば大した事は無い。

それに、スキルの補正を抜きにしても私の剣術の腕が上がってきた。

そのうちスキルレベルも上がるだろうし…そうなったら私はもっと強くなれる。


技術面ではそんなところ。

私には、もう一つ修行で身に着けたい力がある。

それはかつてカイキノカミと戦った時に起こった謎のパワーアップ。

刀の《吸血》のスキル効果ではなく、全く別の何かによるパワーアップだ。

未だにあれが何なのか分からないし、どうしたら起こせるのかも分からない。

もし意図して起こせるようになれば大幅なパワーアップは間違いないし、カミのような化け物相手でも戦える。


もしもの時、私だって大切な人を守りたい。

守られるだけの人間でいるのは嫌だし、守る人間になりたいんだ。

神林さんだけじゃない。

愛や浅野さんだって、私が守りたい人間。

そういう守るべき人を守れる力を持っていたい。


…まあ、それはあくまで漠然とした目標。


「《神威纏》これさえ習得できれば…!」


私が知る中で最強のスキル。

これがあれば私は本当の本気の咲島さんとも渡り合えるし、相手がカミでも戦える。

それに、《神威纏》を習得できればあの謎の力に近づけるかもしれない。

高い目標を掲げ、私は少し離れたところで修行している神林さんの事を意識しながら素振りを続けた。





            ◇◇◇





「………ふぅ」


休憩を挟むため、いったん息を吐いて体の力を抜く。

長時間の瞑想は意外と疲れるもので、魔力を練りながらでは思っている以上に心身共に疲労が激しい。


用意していた水筒のお茶を飲んでいると、咲島さんがこっちに歩いて来た。


「頑張ってるみたいね。…短期間での成長速度で言えば、一葉ちゃんよりも上かも」

「そんなに成長してます?」

「ええ。もともと10だったのが、10.1になった感じ」

「微々たるものじゃないですか…」


そんな成長、微々たるものだ。

そんな様子じゃ、来たるべき日にかずちゃんを守れない。もっと強くならないと!


「十分凄いわよ。数時間でその成長速度なら、一ヶ月も修行したら《神威纏》のスキルレベルが私を越すわ」

「…確かに」

「一葉ちゃんには剣術を鍛えてもらうとして、あなたは魔力制御を鍛えるべきね。一回ステータス見せなさい」


咲島さんにそう言われ、私はステータスを開く。



――――――――――――――――――――


名前 神林紫

レベル110

スキル

  《鋼の体》

  《鋼の心》

  《不眠耐性Lv3》

  《格闘術Lv8》

  《魔闘法Lv9》

  《探知Lv8》

  《威圧Lv8》

  《物理攻撃耐性Lv2》


――――――――――――――――――――


いつの間にか物理耐性を獲得していた。

まあ、レベルは低いし、私にはもともと《鋼の体》があるからほぼ意味はないけどね?


それよりも、大切なのは《魔闘法》のレベルだ。


「9、か…《神威纏》を習得する日は近そうね」


咲島さんも太鼓判を押してくれている。

もう少し修行すれば、《神威纏》を習得できるだろう。

これでまた、かずちゃんを守れる程度が上がった気がする。


となるともっと魔力制御を頑張りたい。

ただ瞑想しながらやるだけじゃなく、意識した魔力の使用を練習しないと話にならないだろうね。

こういう時、何かわかりやすいイメージがあればいいんだけど…魔力の制御のイメージか。


(魔力は魂から湧き出すエネルギーで、それをグルグル回して体全体に行き届かせる。まずはその回転からだね。回転…洗濯機の中の水と洗濯ものなんてどうだろう?)


洗濯機の中のイメージでグルグル魔力を回す。

最初は少しずつ、しかし力強く。

そして慣れてきたら速度を上げていく。

鍋を洗う時のような、大して早くもない動きを、卵をかき混ぜるくらいまで早めるんだ。

そこまで来たら人の力の域を超える。


覚醒者として、ギフターとして強くなった後の超人的な力をもってとにかくグルグルと…そうだ、ハンドルを回そう。

何かを開いたり閉じたりするときに使うハンドル。

壊すような勢いで回すんだ。

そうしたら…ほら、服が千切れそうな勢いで回ってる。


ここまで来たら今度は…ミキサーだね。

冒険者として成長した私が、一番成長を実感した瞬間がミキサーだった。

それまでなんか回っているようにしか見えなかったミキサーが、歯が回転しているのがよく見えるくらいには動体視力がよくなっていたこと。

それが一番成長を実感したんだと、私は思ってる。


そうしたら…ほら、服がミキサーにかけられて散り散りになってる。

もっとペースト状になるまで、混ぜるんだ。

…ついでに咲島さんの靴も。


「…なんか今邪念を感じた」

「気のせいじゃないですか?」


察しのいい咲島さんにバレそうになったけど、大丈夫。

ペースト状になった服をさらに回して回して回し続けて…そうして、まるで銀河のように渦を巻き始めたころ…


「…あなた、今何してるの?」

「服と靴を洗濯機に入れてミキサーにかけて回したら、銀河が出来ました」

「はあ?」


咲島さんが怪訝な表情でそんな事を聞いてきたものだから、正直に答えたら『何言ってんだこいつ』って目で見られた。

解せぬ。


「ちょっと意味の分からない話は置いておくとして、あなたの魔力の練りがとんでもない速度で上がっっているのだけど…」

「ああ、洗濯機パワーですね!」

「…神林さんにまともな答えを求めた私がバカだったわ」


え?なんで?

かずちゃんはともかくなんで私なの?

私、自分でも常識人枠だと思ってるんだけど…


「まあいいわ。神林さんの私にはよくわからない感性で魔力制御の練度が上がっているのは事実。そのまま頑張って」

「はい…?」


疑問形で首を縦に振ると、気を取り直して魔力制御の練習を始める。

次はこの高速回転する魔力を全身に送りたいんだけど…イメージは何にしよう?

分かりやすく…かつ繊細な動き…クリームを絞り出すみたいな?


試しに高速回転する銀河のような魔力の一部を絞って血管の中に流す様子を想像してみると…思いのほかうまくいった。

それに手応えを感じた私は、そのままの勢いでそれを全身でやってみる。

すると、みるみる魔力制御の練度が上がっているような気がして嬉しくなった。


…その横で私を見て咲島さんがドン引きしているのは、私の知らぬところだ。

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