第181話 ガチンコ
がずちゃんを本気で叱った後、私達は咲島さんに頼んでタケルカミの世界に来ていた。
「ま~た変なことやって…それで絶交なんてされたらどうするの?」
「うぅ…神林さ~ん!」
「よしよし…咲島さん、かずちゃんは私に沢山怒られているので、もうあんまり怒らないであげてください」
「…本当に大丈夫なんでしょうね?」
咲島さんは、かずちゃんを甘やかす私の事を心配している。
いつか本当に大変なことになった時、私が無事でいられるのかを心配してくれているんだと思う。
そう言うことにしておこう。
「タケルカミ、今日は私に何を教えてくれるんだろう?」
「まるで聞いてないわね…全く、この子は変わらなそうね」
「私は変わりませんよ。えっへん!」
「かわいいなあ」
「えへへ~」
呆れた様子の咲島さんと誇らしげなかずちゃん、そしてそんなかずちゃんを甘やかす私。
そんなメンツで歩いていると、強烈な殺気を感じて全員臨戦態勢をとる。
そして、咲島さんが呟いた。
「なるほど、今日はその日だったか」
「ん?どういうことですか?」
その日…どういう意味だろう?
まあ、状況から考えておそらくは…
「タケルカミはたまに、私達で試し切りをするの。本気でやらないと、普通に死ぬよ」
「試し切りって…」
「大丈夫。死ぬ気で粘れば殺されはしないから」
…まあ、そんなとこだろうね。
この殺気はタケルカミのもの。
つまり、タケルカミが私達に襲い掛かってくるっ!?
「くっ!?」
「神林さん!!」
突如として稲妻が走り、私の体を貫かんと衝突してくる。
猛烈に嫌な予感がした私は、《鋼の体》を最大出力で使って守りを固めていた。
そのおかげで無傷で済んだものの…これが挨拶だというのなら、耐えられる気がしない。
戦いの中で学べってか。
「かずちゃん!全力で攻撃を察知すること!そして受け流しだけを考えて!反撃は隙を作るだけになる!!」
「了解です!」
素直なかずちゃんは私の言うことを聞いて探知に全力を注ぐ。
そして、こちらへ向かってくる稲妻をすべて刀で弾いて受け流している。
まったく、凄い技術だ。
「気を抜かない事ね。こんなのただの挨拶でしかないんだから」
「分かってますよ。本体が現れたら本番ですからね。気を緩めるつもりはありません」
稲妻に対応しつつ、咲島さんと話す。
何度か稲妻を防いでいると、全身に氷水を浴びたような殺気を受け、タケルカミが現れたことを知る。
そして、その気配が私の真後ろに出現し、今にも刀を振り下ろそうとしたその時――
「舐めるなぁっ!!」
「「っ!?」」
どうせ背後に現れると踏んでいた私は、準備していた裏拳を放ち、初撃を阻止する。
タケルカミは私の裏拳を受け止め、攻撃を断念。
そこへかずちゃんが飛びついた。
「日頃の恨み!!」
そう叫んで斬りかかったかずちゃんの刀は簡単に防がれるが、私がカバーに入る。
タケルカミがかずちゃんの刀をはじき返す前に正拳突きを放ち、無理矢理防御させるんだ。
何故そんなことが出来るのかというと、タケルカミからしても私のパンチは威力が高いから。
咲島さんでさえ《神威纏》を使っていないと大ダメージを受ける私のパンチ。
タケルカミはそれを食らわないために、私の攻撃は基本防御する。
それがかずちゃんが次の攻撃を仕掛けるための時間稼ぎになるんだ。
「シィッ!!」
素早い二連撃。
両方とも防がれるが、私が一歩引いて攻撃を放つには十分な時間。
まずは武器を無力化ずるべく、タケルカミの手を狙って蹴りを放つ。
これは狙いを読まれて回避されてしまうが…そのままの勢いで一回転すると今度は胸を狙って蹴りを放つ。
頭は簡単に躱されるから、回避のしにくい胸。
或いは腹を狙うのがおすすめ。
タケルカミは私の蹴りを片手で受け止めると、もう片方の手で刀を振るい、かずちゃんを弾き飛ばした。
そして私に刀を振り下ろそうとするが…
「私も負けてられないわね!」
咲島さんが攻撃を仕掛けてくれたおかげで、難を逃れる。
タケルカミから距離を取って一旦様子見をしようとすると…タケルカミの纏う闘気が大きくなった。
手加減をする時間は終わりだと、そう言われているような気がする。
「さすがにこの状態のタケルカミの相手を2人に任せるのは酷だね。私のフォローを頼むよ」
「分かりました」
「了解」
咲島さんは《神威纏》を発動し、ステータスを一気にレベル330相当にまで上げる。
そして、まるで巨大なトラのようなオーラを放つタケルカミと正面から対峙している。
その様子はさながら、虎対竜。
これからすごい激戦が始まるんだろうとつばを飲んだ矢先――
「せあっ!!」
かずちゃんが突然攻撃を仕掛けた。
「何やってるのよ!!」
私も距離を詰めて攻撃を仕掛けると、タケルカミは完全に私の事を無視してかずちゃんに狙いを定める。
そして、雷を彷彿とさせる剣閃を飛ばし、かずちゃんのこげ茶の髪を少し切った。
それにかずちゃんは冷や汗を流し、咲島さんは首が飛んでいないことに安堵。私はというと…
「何してくれとんじゃこのクソボケがぁぁあああああ!!!」
「「えっ!?」」
もちろんキレた。
ガチキレである。
一気に刀を触れない至近距離まで近づくと、魔力武装した手で寸勁を放つ。
それをモロに食らったタケルカミは2,3メートル吹っ飛び、警戒の対象を私へと切り替える。
「よくもかずちゃんの髪を…!ダダで済む思うなよこの兜坊主が!!」
防御や回避なんて一切考えない突進を仕掛ける。
当然そんな事をすればタケルカミに狙われ、攻撃を食らいそうなものだけど…あんまり私を舐めないでほしい。
「遅い!」
ヤマ勘で刀を回避し、また懐に潜り込むと全身を使って拳を振り上げるが…刀を手放したタケルカミによって攻撃は容易く受け止められた。
そして、私がやったような寸勁を受け、今度は私が4,5メートル吹っ飛ぶ。
タケルカミはさらに追撃をしようと動いたが…そこに咲島さんが割って入る。
「そうはさせない。刀を手放したのが敗因よ!」
強烈な足払いでタケルカミの動きを止めた咲島さん。
直前でブレーキをかけて足払いを回避したタケルカミは、間髪入れない咲島さんの攻撃を受けて鎧にダメージを受けた。
いける!
そう確信した次の瞬間――
「ぐはっ!?」
「うっ―!?」
「きゃん!?」
真力の爆発のような錯覚を感じるほどの膨大な魔力を一瞬使ったタケルカミによって、全員一撃でダウン。
そのまま動けない私達を引きずって道場まで帰った。
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