第180話 お説教
「ホントねぇ…一体何回やったら懲りるの?あなた達は」
「学ばない人間って、あなた達のような人を指す言葉よ?前回の件で反省しないとか…相当怒られたいようね?」
あの後、私は杏に事情を説明してこっちに来てもらった。
そして、まるで反省していない2人を叱る。
「ねえかずちゃん。この前私にあれだけ怒られて…なんだったら私達の関係が終わりかけたのに、まだ学ばないの?」
「神林さんなら許してくれると思って…」
「まあ許すけど…それでもやっていい事と悪い事があるって、学ばなかったのかって」
「ごめんなさい」
私はもちろんかずちゃんを叱る。
杏がかずちゃんを叱ってかずちゃんを泣かせたら、私は杏を殴る自信があるから、杏には町田さんを任せている。
ちなみにこの話をしたら杏が私の事を信じられないモノを見るような目でドン引きしていたので、この件とはまた別でぶん殴ろうと思う。
私の心を傷つけたバツだ。
「私はね?本気で焦ったんだよ?かずちゃんが不安定になるのはもちろん、町田さんが殺されちゃうって。数少ないかずちゃんの親友が減っちゃうって」
「…もしかして、私の事バカにしてます?」
「でも友達が少ないのは事実でしょう?」
「うっ!」
叱っていると、言い方が悪かったのかかずちゃんに不快な気持ちを抱かせてしまった。
馬鹿にされていると勘違いしたかずちゃんが頬を膨らませていてかわいい。
そんな可愛いかずちゃんを私はこの後も叱らないといけないのだ。
本当はこんなことしたくないけれど、今回に関してはやっている事が事なので叱らないわけにはいかない。
辛い気持ちをぐっとこらえて、私は引き続き説教をする。
「私はね?かずちゃんがどんなことをしても許しちゃう。どうしようもなくかずちゃんの事が好きだから、何があっても許しちゃう。でも、それは優しさじゃないって事を、知っておいてほしいな」
「優しさじゃないなら…何なんですか?」
「ん~…下心?」
「え、ひど…」
かずちゃんを甘やかして私に依存させたいという下心。
それが私がかずちゃんを甘やかす理由の一つでもある。
「まあ、下心でかずちゃんを甘やかして、何でも許してるんだから…」
私はそこで話を切ると、じっとかずちゃんの顔を見つめる。
かずちゃんも私の顔をじっと見つめてきて…その顔を私は引っ叩いた。
「…えっ?」
パンッ!という乾いた音が鳴り、かずちゃんは自分の頬に手を当てる。
「私の言うこと聞けないなら、何度だって手をあげるよ。私は、どこまでも完璧な人間じゃな――っ!?」
呆然とするかずちゃんに説教を続けると、突然私も頬を引っ叩かれた。
もちろん、それをしたのはかずちゃんだ。
かずちゃんは涙のにじんだ目で私を睨み、顔を真っ赤にしている。
「神林さんのバカっ!」
「…はあ?」
え?なんで私が怒られるの?
今怒られてるのはかずちゃんで、かずちゃんは怒られて当然の事をした。
その結果私に頬を引っ叩かれて…それで逆切れしてる。
…もう少し強めに怒った方がいいかな?
「かずちゃん。流石にそれは間違ってる。こればっかりは私も怒るよ」
「ふん!」
「かずちゃん!」
「ふ~んだ!」
私が強く怒っても反省する気配なし。
これは駄目だね。
数日口聞いてもらえないやつだ。
ほんと、こういう時はとことん子供なんだよね、かずちゃんは。
仕方ない。これは、本気で泣かせちゃうこと覚悟でもっと厳しく怒るか…
「かずちゃん、私の言うこと聞きなさい!」
「ふんっ!!」
「一葉ッ!!!」
「っ!?」
いきなり怒鳴られて、かずちゃんは大きく体を震わせる。
…なんだったら、私が本気で怒鳴った事で杏や町田さんもびっくりしてる。
「いい加減にしなさい!私が怒らないからって調子に乗って…何でもかんでも自分の思いどおっりに行くと思ったら大間違いよ!」
「あ…」
「そんなに自分がいちばんがいいならもう家から出ていきなさい!あなたの財布を考えれば一人暮らしなんて簡単にできるでしょ!」
「ごめんなさい…」
私の鬼の形相にかずちゃんは小さくなって素直に謝ってきた。
でも、ここで許しちゃうと次同じ怒り方が効かないんだよね。
だから、もう少しだけ怒らせてもらうよ、かずちゃん。
「さっさと出て行って!荷物は後でまとめて送ってあげるわ。町田さんと一緒に出ていきなさい!」
「ごめんなさい…」
「早く出て行けって言ってるの!」
「っ!?ごめんなさい!」
「黙れ!」
すり寄ろうとしてくるかずちゃんを突き飛ばし、きびしい言葉をぶつける。
「早く出て行けよ!おい!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「寄るな!鬱陶しい!」
何度も私に抱き着こうとするかずちゃんを振り払い、何度だって怒鳴る。
次第にかずちゃんは本気で泣き始め、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっている。
「さっさと出ていきなさいよ!あんたの欲しい自分が一番の生活!自分で探して来いよ!」
「ごめんなさい!もう悪いことしません!」
「あぁ!?なんて!?」
「もう悪いことしません!ごめんなさい!」
私に抱き着いてきたかずちゃんを、今度は振り払ったりしない。
流石に効いたはず。
もう許すことにして、私はかずちゃんの頭を撫でる。
「うわああああああん!!!」
「泣くな鬱陶しい!」
「ごめんなさい!」
一応、かずちゃんが泣き止むまではこのままでいよう。
これで少なくともこの一週間は私の言うことに何でも首を縦に振るようになるはず。
明日から掃除洗濯朝昼晩のご飯とその片づけを全部押し付けよう。
最近まったくやってくれないし、ちょうどいい。
とりあえず説教を終えた私は、かずちゃんを落ち着かせることに目的をシフトした。
その横で、町田さんが小さくなっている事に、私は気づかなかった。
「…町田もあんな感じに怒られたくなかったら、いい加減学べよ」
「はい…」
どうやら知らないうちに町田さんも反省させることに成功したみたい。
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