第179話 過ち(?)
プレゼントを渡し終えた後、私達は盛大に乾杯をして2人のレベル100到達を祝った。
沢山のお酒を飲み、おいしい料理を貪るように食らう。
そんな中、私と町田さんはとある勝負をしていた。
「うぅ~…ま、まだまだぁ~!」
「往生際が悪いのよ…さっさとつぶれなさい、このちんちくりんが…!」
「むっ!絶対あきらめませんよぉ!その余計な一言をせいぜい後悔することですねぇ!」
それはお酒の席の定番。
どれだけ飲めるかの勝負だ。
もちろん、そのまま勝負すると私が絶対勝つから、あえてスキルのアルコール耐性を下げて町田さんと勝負している。
まあ、それでも私の一族は元々アルコールに強いから、負けることはないと思っていたけれど…流石は暗殺者。
アルコールに対する免疫をつける訓練でも受けているのか、なかなかつぶれてくれない。
「バカバカしい勝負ですね」
「そうでもないわよ?一葉ちゃんも、お酒が飲めるようになったら分かるわ」
「毒物をどれだけ飲めるかなんて勝負、何が楽しいんですか?」
「楽しいものよ。意外と」
お酒が飲めず、一人だけ取り残されているかずちゃんが強がっている。
まあ、自分だけ取り残されてイライラする気持ちは分からなくはないけれど…それで杏に当たるのはよくないだろう。
…まあ、その事を咎められるだけの力が今の私にはない。
「うっぷ…吐きそう…」
「おやおやぁ~?大口叩いていた割には大したことありませんね?神林さん?」
「酒飲んでるくせに青ざめた顔しながら煽られても効かないね…」
「くっ!」
流石に沢山飲みすぎて、お腹がチャプチャプと音を立てている。
それくらい胃の中に大量のお酒があるものだから…とにかく気分が悪い。
まだまだ酔えるけど…その前に胃が満杯になってしまいそうだ。
「まったく…酔っ払いの世話なんてしたくないんですけど?」
「そんなひどい事言わないでよかずちゃ〜ん」
「私、酔っ払った神林さんは嫌い」
「むぅ〜…かと言って、私があの生意気な町田さんに負けていいの?」
「…それはもっと駄目です。絶対に勝ってください」
文句を垂れるかずちゃんを黙らせて、机に置かれたジョッキのウイスキーをイッキ飲みする。
「あのねーちゃんまじか…」
「ウイスキーのストレート。死ぬぞ」
「流石は冒険者だな…しかもいい体してるよなぁ」
周りの席からの声に鼻を高くし、町田さんにドヤ顔を見せる。
すると、顔を真っ赤にして店員さんを呼びつけた。
「ウイスキーのストレートをジョッキ!」
「はい。かしこまりました」
「あとついでに枝豆のおかわりください」
「ネギマも!」
町田さんの注文に便乗し、杏が枝豆を、かずちゃんがネギマを注文した。
そして、一分も経たずにウイスキーが運ばれてきた。
「枝豆とネギマ少々お待ちください」
「じゃあ、ビール追加で」
「オレンジジュースも」
「かしこまりました」
オレンジジュースか…どうせ私の奢りなんだから、もっと高いモノを頼めばいいのに。
杏もビールで遠慮して…
「…あっ!やっぱりビールなしで」
「は、はい」
「代わりにこの『大杉』ってお酒をお願いします」
「かしこまりました」
杏が注文したお酒。
『大杉』はこの店で一番高いお酒だ。
一杯三千円とか言う、居酒屋ではそうそう見ない価格設定。
中々攻めているとは思うけど…その分美味しいことは知っている。
私を見て手を合わせる杏に笑い掛けると、町田さんが手を叩いた。
破裂音にも似た音が響き、他のお客さんや店員さんの視線が集まる。
「私だって…飲めます!」
「へぇ…?やってみたら?」
軽く煽ってあげると、ムッとした表情を見せながらジョッキを持つ。
そして、震える手で口元まで運ぶと…目を瞑って飲み始めた。
ゴクゴクといういい音が鳴り、ジョッキのウイスキーが消えていく。
顔はとても苦しそうで、無理しているのが見て取れる。
それでも…途中苦しそうな声を出しながらも町田さんはやりきった。
ウイスキーを飲み干した。
その勇姿に敬意を払ってか、店中から拍手が鳴り響く。
その音に町田さんは感動したのか、涙を流してしまった。
それで満足したのか、『もう飲めない』と諦めて背もたれにもたれ掛かり、死んだ目をしてグッタリしていた。
「神林さんの勝ちですね」
「ええ。まあ、試合に勝ったけど、勝負で負けたわ」
「愛はやりきりましたよ。また今度、褒めてあげます」
町田さんの勇姿はかずちゃんも素直に認めているらしい。
グッタリしている町田さんに珍しく優しい視線を向けると、届いたネギマを頬張る。
その姿がとっても可愛くて、いつものように頭をなでてあげた。
ちなみに、お会計は凄いことになっていた。
「う〜ん…」
…頭が痛い。
昨日、お酒を飲んだきり《鋼の体》を使うの忘れていて、思いっきり二日酔いになった。
人生初の二日酔いは、かなりお酒を飲んだこともあってかなり酷い。
かずちゃんに頼んでシジミ汁でも作ってもらおうかな?
そんな事を考えながら、裸の体を起こし――違和感に気が付いた。
「…かずちゃん?」
かずちゃんにしては少し背が高い気がする。
それに…肌も質感も違う。
もっとこう…スベスベ感やもちもち感が足りない。
その上かずちゃんにしては髪の毛も長いような…
そんな事を考えていると、何者かが寝室の扉を開く。
私とかずちゃんしかいないはずのこの家に一体だれ、が…
「ふふっ…昨日はお楽しみでしたね?」
「え…かずちゃん…?はえ…?」
扉を開いて現れたのは…他でもないかずちゃん。
じゃあ…今私の隣で寝ている裸の人は…?
「~ぅん」
「っ!?」
…聞き覚えのある声。
そう…すごく聞い覚えのある声だ。
恐る恐る振り返るとそこには…
「あ、神林さあん。昨日は素敵なひと時をどうも」
…やばいかもしれない。
「覚えてますか?神林さん。もし浮気をして修羅場になったら、相手を切り殺して神林さんをズタズタに切り裂くって言ってたこと」
「い、言ってたね…」
「ええ。だから、今がその時です」
そう言って、かずちゃんは漆黒の笑みを浮かべて刀を抜いた。
「この刀に神林さんの血を吸わせれば…私は神林さんの力を吸収してもっと強くなれる。この刀も強くなる」
「ちょちょちょ!落ち着いて!まずは話を!!」
「話?私の言えたことではありませんけど、浮気をするような人間と何を話せと?」
何とか話をしようとするけれどかずちゃんは効く耳を持とうとしない。
一歩一歩、ゆっくりとこっちへ近づいてくる。
その姿に怯え、恐ろしくて仕方がない。
だって、もう後ろに頭に包丁を生やした般若の化け物の幻影が見えるんだもの。
「こ、これはお酒の勢いで!そ、そう!私、何があったか覚えてないからさ!?」
「私はしっかり見てましたよ?神林さんが私を差し置いて愛と体を重ねている様子を…」
「どういう情緒でそれを見てるの…?」
「我慢しましたとも。今この瞬間のためにねッ!!」
暗黒の微笑が憤怒の般若顔に代わる。
そして、刀を握る手がガチになった。
「まずはお前だ!町田愛!!」
そう叫び、踏み込んだかずちゃんは神速の一太刀を浴びせてくる。
私は最大出力で《鋼の体》を発動すると、町田さんをかばうように動く。
たとえ背中に大きな傷が出来たっていい。
彼女を守らなければという一心でそう動いたが…一向に衝撃が来ない。
不思議に思ってゆっくりと振り返ってみると…
「…え?」
そこには、ニコニコの笑顔でとある文字が掛かれた看板を掲げるかずちゃんの姿が…
「テッテレー!」
町田さんが聞き覚えのある効果音を口で流す。
そして、2人は『せーの!』と声を合わせると…
「「ドッキリ~?大成功~!」」
そんなありふれたフレーズを言われ、私は膝から崩れ落ちた。
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