第174話 遠征開始
咲島さんによって行ける階層が大幅に上がり、私たちは一気に深層まで飛んでくることができた。
そうしてやってきた場所はだだっ広い平原。
ぽつぽつと木が生えている以外に何もなく、多少の勾配や小さな丘がある程度の何でもないただの平原だ。
「ここが仙台ダンジョンの最前線ですか…強力なモンスターの気配がそこら中から感じられますね」
「そうでしょうね。ここは第79階層。あなた達がギリギリ攻略できるくらいの深さだもの」
「じゃあ、この遠征では80階層に行くんですね?神林さん、深層のボスモンスターと戦えますよ?」
「気乗りはしないわね。そんなモンスター、本当に倒せるのかしら?」
この広い平原のエリアに出現するモンスター。
一体どんなもの…っと。
「この気配…地中ですか」
「ワームとかそういうのじゃないよね?」
「さあ?だとしたらここにとどまるのはよくないんですけど…っ!?来ます!!」
モンスターの気配を感じたが、どこにもそんなモンスターはいない。
しかし、気配の感じ方が少しおかしいことから、このモンスターが地中を移動していることが理解できた。
そして、気配が私たちの前までやってきて、急に鮮明になる。
おそらくモンスターが浅いところまで上がってきたんだろう。
いつでも迎撃できるように構えていると、気配は私たちの真下にやってきた。
「これは…まずいかも!」
嫌な予感がした私たちは、同時に別々の方向へ飛んで回避する。
するとその直後、巨大な何かが地面を突き破って飛び出し、私たちのいた場所のを攻撃する。
『キュアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
凄まじい轟音で咆哮を上げるそのモンスターは、今見えているだけでも15メートルはありそうな巨躯を持つ大蛇。
それも顔と胴体が少し見えているだけという規格外っぷり。
「これが深層のモンスター…かずちゃん!鑑定結果を!」
「そう言われると思って、すでに用意してます!共有します!」
そう言ってかずちゃんが見せてきたこの大蛇のステータスは…化け物のそれだった。
――――――――――――――――――――
種族 トグロヲマクタイガ
レベル150
スキル
《流動》
《捕食》
《竜鱗》
――――――――――――――――――――
レベル150の化け物ね…
スキルはそこまで多くないように見えるけど…巨体故に私の勘がうるさいくらい警鐘を鳴らしてる。
多分…今まで戦ってきたモンスターと同じ感覚で戦うと、不味いだろう。
アルクオカもかなり強かったが、エンシェントリザードマンは大したことなかったし…つまりデカい奴は強い!
「かずちゃん。コイツどうやって倒す?」
「そうですね…顔だけでこれ程となると…全長は余裕で100メートルを超えるでしょう。神林さん、魔力武装によるパンチで風穴を開けられそうですか?」
魔力武装で倒すことを提案するかずちゃん。
確かに、インベーダートレントの幹を破壊した私のパンチなら、コイツも倒せるかもしれない。
しかし、私が口を開く前に咲島さんが話に入ってきた。
「多分無理でしょう。コイツ、私でも苦戦する程のモンスターよ?神林さんの火力では無理ね」
「咲島さんが苦戦って…どうやって倒したんですか?」
「なんとか隙を作って、私と『青薔薇』で首を切り落としたのよ。それでようやくって感じ」
最強と最高戦力が本気を出してようやくか…とてもじゃないけど勝てる気がしない。
そして、この化け物が居るここよりも一つ深い階層にこれから行こうとしてるって考えると…本当に大丈夫かな?
「倒せば経験値はたっぷり貰えそうですし、私はこのまま戦うべきだと思います。神林さんは?」
「私は逃げるべきかな?ここで体力と魔力を消耗してたら、遠征が失敗するかもしれないし。杏と町田さんはどう思う?」
かずちゃんは交戦、私は逃避。
二人の意見はどうかな?
「交戦、かな?逃げてもいいけど、逃げられるとは思えない。飛び出してきた時の速度は相当なものだった。多分、私達よりずっと速い」
「私も交戦ですね。先輩に付け足す形で、たとえ逃げ切れたとしても全力で逃げるほうが体力を多く使いそうなので」
「2人共交戦か…咲島さんはどうですかっ!?」
「うわっ!?」
咲島さんに話を聞く時間すらもらえず、大蛇が攻撃を仕掛けてくる。
巨大に見合わぬ高速移動で突進してくるのだ。
とにかく回避に徹しないといけない。
防御とかそういう次元じゃない攻撃だ。
「当たれば大ダメージと次の噛みつきや飲み込み確定の突進…原始的だけど、これほど厄介な攻撃はないね」
私がそうつぶやくと、かずちゃんが私の隣にやって来た。
「あいつはおそらく、突進と体当たりと尻尾の薙ぎ払いくらいしか攻撃手段がありません。ですが、その一撃一撃が、巨体と速度に物を言わせた必殺の攻撃。神林さんも回避に徹してくださいね?」
「分かってるよ。受けるのはまずい…」
突進はもちろんのこと、体当たりや未だに見えない尻尾による攻撃も当たれば大変なことになる。
逃げながらこれを避けるのは困難を極めるだろう。
それに、ここまで来たら咲島さんの答えを待つまでもない。
「ここで倒して先に進みましょう!」
「了解です!」
私の言葉にかずちゃんが勢いよく突っ込み、大蛇の鱗を切り裂いた。
そして、切り裂かれた部分に刀を突き刺し、魔法を発動する。
「特訓の成果!」
そう叫ぶと、突き刺した刀が爆発し、大蛇の体を内側から燃やす。
かずちゃんは特訓の一環として、刀を触媒にした魔法の発動を練習していた。
理由は見ての通り、こうやって内側から魔法攻撃を仕掛けるため。
内側から魔法が炸裂し、その部分から大量の血が流れ出す。
肉もかなりえぐれてるし…ダメージはある、はず。
「手応えあり!だけど…」
「この巨体なら、ちょっと擦りむいたくらいのダメージでしょうね…」
攻撃のため顕わになった大蛇の巨体は予想通り100メートルはありそうなもの。
そんな巨体にたかがこの程度の攻撃…どんな意味があるか。
そんなマイナスな考えをしながら、どうやってこいつを倒すか考えていると、咲島さんの魔力が高まるのが感じられた。
「変温動物は凍らせろ!」
「うわぉ…」
高まった魔力は『ゼロノツルギ』に集約され、凄まじい高威力の冷気攻撃が放たれる。
一振りで100メートルはあろう巨体を持つ大蛇の体の大部分が凍り付き、危うく私たちまでも氷の中に閉ざされてしまいそう。
少し前に聞いた話では、モンスターは体温をいっきに奪われて仮死状態になると、そのまま消滅するらしい。
でもその様子がないということは…
『シィィイイイイイイアアアアアアアアアアッ!!!!』
大地が震えるような轟音の咆哮とともに、いともたやすく氷は破壊され、大蛇が解き放たれる。
…蛇って鳴き声あるんだ?
「チッ!流石に今回はいけるなんて、甘い話はないか…にょろにょろ爬虫類め!」
咲島さんが何か言ってる。
にょおろにょろ爬虫類って…咲島さんにしては可愛い表現じゃん。
意外と女性らしい一面もあったり?
「あの規模の攻撃でも一瞬動きを止められる程度ですか…神林さん、勝てる気しませんよ?」
咲島さんを眺めていた私に、かずちゃんが近づいてきた。
「そうね。…でも、私は今しがた勝機を見つけたよ?」
「ほんとですか!?その勝機っていったい…」
あの大蛇を倒す算段。
それは…杏や町田さん。
他二人の幹部候補生と咲島さんにも見てもらったほうが早いだろう。
「ちょっと見てて」
私はそういうと、大蛇の顔の方向へ走る。
その際魔力を放つことを忘れないようにし、かずちゃんだけでなく他の全員にも見てもらえるようにする。
そうして大蛇の顔の下までやってきた私は、魔力を全力で使って身体能力を引き上げる。
そして、修行の最中に咲島さんから教わった、意識して《魔闘法》を使うという技術を使い、一時的にさらに爆発的に身体能力を引き上げた。
準備を整えた私は地面を叩き割る勢いで蹴り上げてジャンプをする。
「はあっ!!」
威勢の意声を出し、力を入れて思いっ切りアッパーカットを食らわせると、大蛇の顔が空を見る。
その隙に、大蛇の体にある鱗のわずかな突起を足場に、首の少し下にある妙な痣のような、マークのような部分を、魔力武装を使った蹴りで攻撃する。
『シィィイイイイイイアアアアアアアアアアッ!!??』
予想以上にダメージがあったのか、大蛇が悲鳴を上げる。
これだけすれば、みんなも察してくれることだろう。
私はそのまま一度地面に向かって落下するが、私以外の全員が既に動いていた。
最初にやってきたのは町田さん。
ショートソードで何ができるんだと、正直思ってしまったけれど、すぐにその考えは間違いだたと知る。
「足場は作ります!あとは任せましたよ!!」
アイテムボックスから次々とショートソードを取り出し、それを器用に大蛇の体に刺していくのだ。
あれだけの大きさの突起があれば、私たち冒険者なら足場にできる。
次に動いたのはやはり杏。
「鱗だけでも破壊する!!」
見事な剣術を見せてくれた杏は、宣言通り鱗を破壊して後続に攻撃の番を譲る。
そうして次にやってきたのは、幹部候補生の二人。
先に来た一人がショートソードを追加して足場を増やすと、咲島さんがやってきた。
「行くわよ?私に合わせて!」
「「はい!」」
咲島さんが杏とは比較にならないほど強烈な横なぎの一撃を食らわせると、人が入れるくらいごっそりと肉がえぐれた。
その部分に候補生の二人が入り、傷口を広げていく。
さらに咲島さんが一発食らわせて、大ダメージを与えると、私とかずちゃんがすれ違った。
どうやら最後にかずちゃんが決めにかかるらしい。
私はかずちゃんが傷口の中に入っていった事を確認すると、着地して下から事の顛末を見守る。
どうせ今から言っても足手まといだし、そもそもやることがない。
杏と町田さんと私の三人で様子を見ていると、大蛇の首がずれた。
そうして、かずちゃんが下りてきたと同時、全身に魔量があふれ出す感触を感じ、レベルアップしたことに気が付いた。
「本当に勝てちゃいましたね?さすが神林さんです!」
「私はウィークポイントを見つけて報告しただけだよ。大したダメージは与えてない」
「MVPの活躍じゃのいですか…」
何故かかずちゃんに褒められた。
別に特別貢献はしてないんだけどね?
咲島さんと幹部候補生の二人も降りて来たことを確認すると、消滅する前にこっちに倒れてきそうな大蛇の体を避けるべく、一時避難して魔石回収のためしばらくその場に残ることにした。
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