第169話 光と闇の秤
??ダンジョン第??階層
「あの邪神め…こんなところまで行かせるとは…本当に僕に力を貸す気があるのか?」
とあるダンジョンの深層。
まだ誰も到達したことの無い領域に僕は導かれ、辿り着いた。
そうして、かの邪神が示す通りに道を進むと、その先で小さな祭壇を見つける。
その祭壇を覗いてみれば、そこには小さな宝石が一つ置かれている。
「…あの邪神の事だ。絶対に罠がある」
『ジェネシス』は、人の常識から逸脱した行為を愉しむ享楽主義者。
見ている世界が違う。
故に…今僕が苦しむ姿を見てほくそ笑んでいる事だろう。
いつも頭の中に声を響かせるばかりで、一度もその姿を見たことはないが…まあ、おそらく絶世の美女か、見るもの全てが恐怖する化け物だ。
そうでないと、説明がつかない。
こんなおぞましい事をする邪神が、平凡な見た目をしているなど受け入れたくないからね。
「さて…とりあえず、直接触って取るのは不味いはず」
少し距離を取ると、風の魔法を発動し、強風を発生させる。
そうして、強い風で小さな宝石を動かすと…
ズガガガガッ!!
…予想通り罠だった。
突然空から槍が降ってきて、地面に突き刺さる。
すぐには数えられない量の槍。
それが、所狭しと絶対に躱せないような範囲に刺さっている。
あらかじめ距離を取っておいて正解だった…
「二重三重の罠を警戒して、絶対に直接は触れない。少し面倒だけど、風魔法で運ぶか」
風魔法を精密な操作で使って下からの風を作り出し、小さな宝石をその風を利用して浮遊させる。
あとは、弱い風で少しずつ押していけば、ゆっくりだけど確実に僕のところまで運べるのだ。
慎重に祭壇から小さな宝石を落とすと、魔力が動いて罠が発動したことがわかった。
祭壇が光ったかと思えば…
「っ!?」
念の為張っていたバリアにヒビが入るほどの大爆発が発生し、光と爆炎が僕をバリアごと包み込む。
立っていられないほどほど揺れと、全身に火傷を負いそうな熱波を耐えると、バリアのある場所以外ごっそり削られているのが見えた。
「取らせる気無いだろ…僕じゃなかったら死んでるよ?」
あんなのをまともに食らって生きていられる人間なんて数えるほどしかいない。
それも、1人を除いてはかなりの重症は免れないはず。
本当に取らせる気があるのか疑いたくなる。
「だけど、流石にもう大丈夫なはず。これで『至高の種子』は僕のものだ」
クレーターの中央にやって来ると、転がっていた小さな宝石――『至高の種子』を回収する。
コレは、『ジェネシス』が用意したカミヘと至るために必要なモノ。
よく見ると宝石の中に蝶の紋章のようなモノが刻まれていて、それが特別なものである事がうかがえる。
蝶の紋章とは、『ジェネシス』の紋章。
最上級アーティファクトにすら刻まれていないそれがあるという事は、コレは最上級アーティファクトすら凌ぐ究極の逸品。
まさに、至高の宝物だ。
「苦労して取りに来た甲斐があった。さて、あとはコレを持って帰るだ、け…」
強大な気配に顔を上げると、そこには西洋騎士風の甲冑が立っていた。
その甲冑から、マガツカミに匹敵する強大な気配を感じる。
「宝物の守護者か…出来ることなら僕の仲間にしたかったんだけどね…」
『ジェネシス』から与えられた特権が、『コイツは無理だ』と言っている。
今の僕ではまだ支配に至らないのか、どうあがいてもコイツを支配することはできないのか?
そんな事はどうだっていい。
今確実なことは…
「ご丁寧に、この異空間では転移が使えないようになってる。…全力で逃げさせてもらうよ」
踵を返して全力で走り出すと、記憶を頼りに出口へ向かう。
命の危険を感じ、直感が警鐘をけたたましく鳴らしているが、そんな事は気に留めていられない。
とにかく前へ、早く前へ。
死ぬ気で走り続け、なんとか逃げ切ることに成功。
急いで転移魔法を構築し、今使っている拠点に転がり込んだのだった。
◇◇◇
「…何でしょう?この小さな宝石」
「前にも同じのを見たような…あっ!もしかして…」
レベリングをしてこいと咲島さんに言われて堺ダンジョンへやって来た私達は、目に付くモンスターすべてを蹂躙しながら経験値が美味しいモンスターが居る階層を目指していた。
そして、第70階層のボスモンスターを討伐した際、ドロップした宝箱に小さな宝石が入っていたのだ。
その宝石に見覚えがあった私は、アイテムボックスをいじって目的のモノを見つけると、かずちゃんに見せる。
「『ジェネシス』がご祝儀をくれた時に一緒に手に入れた宝石。これじゃない?」
「確かに…色は違いますが、見た目や中の蝶の紋章が一緒ですね…」
「蝶の紋章か…蝶と言えば『ジェネシス』だけど…何か関係あるのかな?」
蝶の神を自称するジェネシスのご祝儀に、蝶の紋章が入った宝石があった。
何か、関連があるような気がしてならない。
鑑定を使ったらしいかずちゃんは、何度も目を開けたり閉じたりさせて鑑定をかけ直しているが、願ったものは見られなかった模様。
「鑑定結果なんですけど…これなんですよね?」
「なになに…?」
かずちゃんが見せてくれたものは…
《鑑定不能》
と言う文字列のみ。
鑑定不能って…どういうこと?
「鑑定不能ってなに?どういうこと?」
私がそう聞くと、かずちゃんがその異常性について教えてくれる。
「そのままですよ。そのへんの石…それこそ、砕けたコンクリート片でさえ、鑑定結果は出てくるはずなのに…これには鑑定結果が存在しないんです」
「じゃあ、コレは何なの?」
「鑑定が機能しない物体…『ジェネシス』の管轄外の異常物品。もしくは、バグですかね…?」
ダンジョンもステータスもスキルも、全ては『ジェネシス』が創り出したもの。
例えば、ステータスやスキルがゲームのシステムで、ダンジョンがゲームの舞台だとするならば…鑑定不能のこの宝石は、バグのようなものなのかも知れない。
もしくは、『ジェネシス』が神だというのなら…神の敵である悪魔や、神の従者である天使。
あるいは他の神のようなものが創り出したもの。
『ジェネシス』とは別の存在による干渉のある可能性がある。
「バグか『ジェネシス』以外の存在による干渉か…もしくは、意図的に鑑定できないようにしている可能性もあるわね」
「意図的に?どうしてですか?」
「知られてはならない情報が詰まってるとかよ。『ジェネシス』にとってこの世界はお芝居のようなもの。登場人物たちに教えていい情報と、教えてはいけない情報があるとか?」
知らないほうが物語が面白くなることだってあるだろう。
謎は謎のままで話を進め、ここぞという時に伏線を回収する。
よくある手法だ。
「となるとこれは…なんでしょうか?」
「この世界の根幹に関わるモノ。あるいは、今の勢力均衡を根底から覆しかねないモノ。例えば、カミヘと至るアーティファクトとか?」
まあ、そんなに簡単に見つかったら、流石に早川が哀れに思えるけどね?
咲島さんに勝つために必死に頑張って頑張って探したものを、こんなにもポンと見つけちゃったんだから。
…でも、仮にもそんなに重要なものをこうやって咲島さん側の人間に渡すだろうか?
『ジェネシス』の狙いは均衡維持以外にあるのなら、それはカミ化した早川とカミ化した私達の戦闘とか?
そうじゃないのなら…わたしたちもカミにならないと、均衡が取れないとか?
…そうならない事を祈りたいね。
「とりあえず、この宝石は一旦は放置しましょう。下手に咲島さんに話して、よこせなんて言われたら困るし」
「そうですね。もしこれがカミへ至るのに必要なアーティファクトなら、そう安々と渡せませんからね。…ちょっと問題になりそうですが、黙っておきましょう」
重要なアーティファクトをなんの対価もなしに咲島さんに渡すのは私達も望むところじゃない。
咲島さんにはナイショにして、しばらく隠しておくことにした。
――――――――――――――――――――
長かった第四章も終わり。
次の第五章では何が待っているのでしょうか…?
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