第166話 敵を探して
早川照
ヤツは未だに姿を眩ませており、『花冠』も探知できていない。
咲島さんは、変装して何処かに潜んでいるのではないかと考察しているけれど…日本中のすみずみまで見通せる訳では無いから、一度姿を変えられると見つけられない。
そもそも、ヤツは何処かに引きこもって、傀儡化した駒に活動させることでいくらでも隠蔽できるし、家族を丸々乗っ取って、隠れ蓑にしている可能性だってある。
ずっと何処かに引き籠もっているわけじゃないだろうけど、数週間に一回くらいの頻度でしか外に出歩いていないと思う。
モンスターの駒を増やすなら、転移でダンジョンに行けばいいし。
そんなわけで、早川を見つけるのは至難の業何だけど…
「だからって、わざわざ大阪に送ります?神林さんとずっと家でイチャイチャンしたかったのに…」
「仕方ないでしょ?咲島さんには返しきれない恩を受けてるんだから、これくらいのお使い引き受けないと」
神林さんの指示で、私達は大阪に来ていた。
旅費は咲島さん持ちで、宿泊費用は『花冠』近畿支部が運営してる格安ホテルの一室を無料で使わせてもらっている。
格安ホテルとは言っても、『住めば都』。
存外居心地は良く、部屋は狭いけど運動をする訳でもないのでゆっくりするには十分だ。
何より…
「ベットが一つしか無いから、こうやって抱き合わないと寝られない…こんな生活も、中々ありでしょ?」
「まあ…そうですね」
格安ホテルのベットでは、家のベットのように広々と眠れない。
明らかに1人用のベットに、2人で寝なきゃいけないのだ。
このベットを見たかずちゃんは、速攻でクレームを入れていたが、一蹴されて仕方なく従っている。
しかし、これだけ小さいと絶対に抱き合わないといけないから、ものすごくムラムラする。
だから、夜の営みは凄く捗って、盗聴器が基本的に意味をなしていない。
そのうち咲島さんからお叱りを受けそうなのが気掛かりだ。
「このベット、悪くないんですけど、やっぱり家の大きなベットで寝たいですね。ちょっと疲れが取れない…」
「むしろ疲れが溜まるもんね…道端でばったり早川と出会さないかなぁ…」
「そんな都合よく……待てよ?」
かずちゃんは何か思い付いたらしく、顎に手を当てて考え事をする。
そして、頭の中で考えがまとまったのか、外に出る準備をして私の手を引いてホテルを飛び出した。
『で?わざわざ私を呼び出したのかい?』
「そう。アンタなら、早川の居場所を知ってるでしょ?早く教えてよ」
かずちゃんが話している相手。
それは、頭の中に直接声を響かせる、人智を超越した存在。
『ジェネシス』だ。
『物語に介入するような真似はしたくないんだよ。私は観客で、この世界にいる人間のひとりひとりが作家。もし作家のひとりが今じゃないと言うのなら、私はその意思を尊重したい。その方が面白そうだからね?』
「…それ、何年後の話ですか?」
『さあ?でも、彼は君たちほど時間に余裕はないよ。それに、カミを支配するためにかなり無茶をしたみたいだしね?』
かずちゃんは『ジェネシス』相手にもまったく臆することなく、いつもの態度で話す。
なんというか…さすがはかずちゃんだ。
私なら絶対にこんな態度は取れない。
でも、お陰で重要な情報を手に入れた。
『どうやら、マガツカミを憑依させるために寿命を10年ほど使ったらしい。彼は今、他の人よりも10年分早く老いている』
「…つまりどういう事ですか?」
『一言で言えば、老化が早まった、かな?本来なら、60年掛けて老いていくところを、彼は50年掛けて老いる。そういう状態さ』
「じゃあ、放っておけば死ぬんですか?」
『極論、出てくるたびに叩けば君達が勝つさ。彼は《フェニクス》を持っていないからね。君達や恭子のように不老の存在じゃないんだ。漫画の展開で言えば、強すぎる味方を前に、敵が寿命死を狙うと言う展開。それを君達は実行できる』
そうか…全然自覚はないけれど、私達は早川の寿命死を待てる。
…ん?でも、《フェニクス》じゃ寿命は伸びないんじゃないの?
「《フェニクス》に寿命を伸ばすなんて効果は無かったはずだけど…」
『寿命ってのは、肉体という魂の容れ物が、いつまで魂を保持出来るかだ。健康的で若々しく、強固な肉体は生命力に満ち溢れ、魂を長く保持できる。君達はステータスによって強固な肉体を獲得し、《フェニクス》によって老いない肉体を手に入れた。君達はおよそ300歳くらいまで生きられるよ』
「「まじか…」」
その話が本当なら、本気で寿命死を狙える。
早川は私達には勝てないんだ。
それに、マガツカミの召喚で余計に寿命を減らしているし…これは、勝ったも同然では?
心の底でほくそ笑んでいると、『ジェネシス』が冷水を掛けてくる。
『とはいえ、そんな面白くない展開、私は容認しないよ。それに、私が認めなくたって、彼は近い将来寿命と言う枷が外れる』
「…どういう事?」
かずちゃんが怪訝な表情でそう聞くと、『ジェネシス』はクスクスと笑った。
『君達もそうだけど、レベル100の領域に達した人間には特権を与えているだろう?恭子の場合、知識と番外階層への転移能力。一葉の場合は身体能力の向上ともう一つ隠している能力。紫には《鋼の体》の応用能力と君たちが魔力武装と呼ぶ技術に対する強化を施した。では、彼に与えた特権はなんだろうね?想像してごらん?』
早川が手に入れた特権…
モンスターを支配する能力の強化。
人を支配する能力の強化。
カミを支配する能力。
とかだろうか?
…いや、もっとだ。
早川が力を手に入れた理由は、咲島さんの一強の世界ならないようにするための調整弁。
早川と咲島さんが敵対することで、『花冠』や『花園』に被害を出し、行動を制限する。
なら、咲島さんと『花冠』に個人で対抗できるだけの特権を持っているはず。
一つがカミを支配する能力とするならば、もう一つは…?
「…いや、流石にこれはやり過ぎじゃないの?」
「何がですか?」
「あくまで私の勝手な妄想だけど……『自身がカミになる能力』とか?」
流石にあり得ないだろう。
でも、咲島さんには《神威纏》があり、それを使っている間はカミに匹敵する力を得られる。
それに対抗できる力なんて…カミか《神威纏》くらいだ。
でも、流石にそれは…
顔色をうかがうように、姿を見せないジェネシスの返答を待つ。
『…君にはニアピン賞をあげよう。紫ちゃん?』
「つまり…当たらずとも遠からず?」
『そうだよ。私が与えた特権は、カミに対してスキルの効果が強くなるもの。そして…カミヘと至る道しるべさ』
カミヘと至る道しるべ…
そんなモノを…早川に…
「その行為がどんな意味を持つのか…あなたは理解していますか?」
『しているとも。彼が世界をめちゃくちゃにするようなら、今度は勇者でもなんでも用意すればいい。何もしないなら静観だ。私は彼が何をしようと困らないよ』
「そんな身勝手な…」
『そうかな?でもここで君達にヒントを与えたし、別に酷いことじゃないと思うよ?ここから先は、自分達で何とかすることだね。頭を柔らかくし、十分に悩むこと。じゃあ、また私を楽しませてね?その為にも、こんなモノをあげよう』
「「っ!?」」
『ジェネシス』はそれだけ言うと、強い光を放つ。
それに私達は思わず目をつむり、気がつくとダンジョンの何処かにいた。
そして、私達の目の前には宝箱が置かれていて、それが『ジェネシス』からのプレゼントである事がわかる。
宝箱の中身を見て、私達は思わず首を傾げ…すぐに意味を理解して顔を真赤にした。
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