第165話 観覧車
車を1時間走らせ、やって来たのは仙台近くのテーマパーク。
東北の人たちはよくここに遊びに来るらしく、平日にもかかわらずかなり賑わっている。
「どうする?何から乗ろうか?」
「…じゃあ、コーヒーカップ」
「わかったわ。行きましょう」
かずちゃんと2人でここに来た理由は簡単。仲直りのためだ。
昨日私達は、少々喧嘩をしてしまった。
理由は私がかずちゃんとの約束を忘れていたこと。
朝から買い物デートをしようという約束を忘れ、熟睡していた私をかずちゃんが叩き起こし、『先に車の前で待っている』と出ていってしまった。
まだ眠かった私はもう少しだけ寝ようと、体を横にしたのだが…それが不味かった。
次に起きたのは2時間後であり、リビングに行くとかずちゃんが涙を流して丸くなっていた。
そこで約束を思い出した私は、全力で謝ったものの、許してもらえるはずもなく…
「…手を繋いでくれないと、迷子になるよ?」
「ふん」
「嫌ならこうする」
まだ機嫌が治らないかずちゃん。
そんなかずちゃんの腕を引き寄せ、恋人同士らしく腕を組んで一緒に歩く。
…身長差があるから、ちょっと大変だけどね?
「…神林さん」
「なあに?」
「大好きですよ」
「ふふっ、ありがとう」
ご機嫌斜めなことは変わらないけれど、かずちゃんは私に『大好き』を何度も伝えてくる。
それは昨日も同じだ。
どれだけ喧嘩をしようとも、私もかずちゃんもお互いのことが大好きで、ずっと一緒に居たいと思ってる。
そのことをひしひしと感じながら、私はかずちゃんを連れて歩くのだ。
そうしてコーヒーカップにやって来ると、かずちゃんと一緒に乗る。
「沢山回す?」
「神林さんは酔いやすいタイプですか?」
「いや?私、乗り物酔いとかしたこと無いんだよね。かずちゃんのやりたいようにやればいいよ」
《鋼の体》の影響か、私は乗り物酔いというものを感じたことがない。
だから、酔わないように調整しないと…なんて気を遣ってもらう必要は一切ないのだ。
「じゃあ…まあ、軽く回しますね」
そう言うと、かずちゃんは動き出したコーヒーカップゆっくり回し始め…少しずつ速度が出始めた。
最終的に、本当にゆっくりか?と思えるほどの速度で回る回る。
その結果…
「おえ…酔った…」
「あんなにぐるぐる回すからだよ。吐きそうになったら言ってね?すぐにトイレに行こう」
「トイレ…行きたいです」
本当に吐き気が酷いのか、トイレに行きたいと言い出した。
かずちゃんと一緒に一番近くのトイレに入る。
するとかずちゃんは、私の肩に手を置いてつま先立ちをすると、唇を重ねてきた。
「んっ…」
私の口の中に舌を入れ、舌を絡め取り、歯を撫でるかずちゃん。
その瞳にはドロドロとした欲望が渦巻いていて、とても汚れている。
こんな昼間から、しかもこんな場所でするべきではない。
「んぅ…かずちゃん…こんな場所で駄目だよ…」
「ちょっとだけ。ちょっとだけですから。それに、神林さんだって、いい顔してますよ?」
そう言って、私を洋式便器の便座に座らせ、その膝の上に座るかずちゃん。
何度も唇を重ね、ついばみ、時には噛み付く。
私からも同じ事をして、お互いの欲望を満たし合っていると、数人の女性の声が聞こえた。
「流石にまずいよ」
「むぅ…じゃあ、まだ酔ってるフリをしながら逃げましょう」
そう言うと、かずちゃんは私の座っている便器の水を流し、苦しそうにしている演技をしながらドアを開けた。
「大丈夫?本当にもういいの?」
「大丈夫です…もう、だいぶ良くなりましたよ」
吐き気を堪える演技をしながら、トイレに入って来たおばさん達の横を通り抜け、一応手を洗ってトイレを出る。
さっとトイレから離れると、普通の様子に戻ったかずちゃんは、パンフレットを取り出すと観覧車を指差した。
「次はここに行きましょう!」
「わかったわ。…案外中の様子は見えるものだから、ある程度は自重してね?」
「は〜い」
観覧車は、それ自体が大きいからパンフレットを見なくとも何処にあるかわかる。
だから、迷うことも無いだろう。
まっすぐ観覧車へやって来ると、10分ほど列に並んで私達の番がやってきた。
「観覧車に乗るなんて、何年ぶりかしらね…」
「私は…もしかしたら、10年以上前かもしれません。幼稚園の遠足で乗ったのが最初で最後でした」
「そして、10年とちょっと時間が経って、大切な恋人と一緒に乗れた。なんともドラマチックじゃない」
「ふふっ、そうですね」
ゆっくりと…ゆっくりと昇っていく観覧車の中で、私はかずちゃんを抱き寄せて景色を眺めていた。
かずちゃんは、景色なんかどうでもいいらしく、私に抱きついて顔を擦り付けてくる。
そのせいで私はゆっくりと観覧車からの景色を堪能できず、心の何処かでがっかりした。
「もうっ…景色が見られないでしょ?」
そのことを怒ると、かずちゃんはとても悲しそうな表情をして私から離れる。
…ただ、その顔に私が触発されて今度は私の方からかずちゃんを抱き締める。
かずちゃんは嬉しそうな表情を私に向けてきて、ニコニコ笑う。
太陽のように明るく、タンポポのように可愛らしい笑顔。
体が勝手に動いて、思わず頬を撫でてしまう。
そうやって触れ合うと、自然と相手のことを意識して、もっと深く触れ合いたくなるもの。
「こんなところでしたら、見られちゃいますよ?」
「もっと見られちゃいけないものを、盗聴器を切らず、全国の『花冠』に聞かれたんだから、もう怖いものなんてないよ。…もしかして、かずちゃんは嫌だった?」
「嫌なわけないじゃないですか。はい…どうぞ」
目一杯背を伸ばし、顔を近づけるかずちゃん。
私はそんなかずちゃんの頬に触れながら顔を近付け、唇を重ねた。
柔らかく、湿気を帯びた唇同士が触れ合い、その感触が電流のような刺激を持って脳へ向かう。
我慢できずかずちゃんの体を押し、壁へと追いやる。
そうして逃げられなくなったところで、私は喰らいつくように唇を奪った。
「んっ…!」
「んん…」
小さな抵抗を試みるかずちゃんを押さえ付け、一方的に奪い続ける。
優越感が生み出す言い表しようのない快楽。
大切な人を自分のいいように押さえ付け、一方的に搾取する背徳感。
それをひしひしと感じながら私はかずちゃんを食べた。
「んあぁ…神林さんのばかぁ…」
「かわいいよ。世界で1番かわいい」
「…バカ」
照れ隠しで私から顔を背け、真っ赤な耳を見せつける。
その可愛らしい真っ赤耳を見て、私はさらなる欲望に駆られた。
もじもじと手を動かすかずちゃんの顔に口を近付け、優しくかずちゃんの耳を噛む。
「ひゃんっ!」
耳を甘噛され、驚いたかずちゃんが可愛らしい声を上げる。
そのまま耳を舐めていると、今度はかずちゃんが文句を言ってきた。
「人に見られるかも知れないから、自重しろって言ったのは誰でしたっけ?」
「…嫌なの?」
「嫌じゃないです…でも…一方的なのはイヤ…!」
そう言って、かずちゃんは私を押し倒して、上にのしかかってきた。
そうして、私と深いキスをする。
猛獣が捕まえた獲物を喰らうように。
私はかずちゃんに食べられてしまった。
◇◇◇
「本当に、この2人はすぐにおっぱじめるわね」
「あわわわわ〜…」
2人が観覧車に行くことを知った私と灰野は、2人の一つ前に並んで様子を確認していた。
ちなみに、一つ後ろには別の仲間が待機してる。
2人がそうそうに始めだしたのを見て、思わず溜息をついてしまう。
この2人が夜通しヤッていた事は『花冠』の間では有名な話だけど…まさかこんなにもすぐに発情する人間だとは思わなかったよ。
灰野が刺激が強すぎるせいか、鼻血を出してるし…
「こちら世良班。ターゲットは愛し合う事に夢中だ。鼻血が出てもいいように、ハンカチの用意でもしておきなさい」
『…もしかして、灰野ちゃんが鼻血出してる?』
「純粋な灰野には刺激が強かったみたいね。中を汚さないといいんだけど…」
まだまだ若い灰野には、この仕事は厳しいかも。
あとで仕事を変えてもらうよう要請したほうがいいかしら?
「…なんだったら、仕事を変えてもらえるよう上に頼んでおくけど?」
「いえ…大丈夫です。私の望む世界が見られるんですから…天職ですよ」
「そ、そう…」
天職ね…この子、あの小春とか言う問題児と同じタイプだったのか。
この鼻血もそう言う…
新人の意外な一面に驚きつつ、小春のようにはならないよう、しっかり教育しようと心に決めた。
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