第163話 リベンジ
「ここって…」
咲島さんに連れられてやってきた番外階層には見覚えがあった。
「インベーダートレントの番外階層…確かに今の自分の実力確認にはちょうどいいかもね?」
「リベンジマッチですか…粋なことするじゃないですか?」
「今のあなた達なら、多分アレを使わなくても倒せるわよ」
アレというのは『M3爆弾』の事だ。
インベーダートレントと戦ううえで必須の道具であり、コレなしで奴に勝つのは至難の業。
…しかし、一部の超越者には何のことではない。
「さて、早速はじめましょうか」
私は刀を引き抜き、全力でインベーダートレントの幹を切り裂く。
「手ごたえ十分。そして枝や蔓の攻撃も…今なら対処は全然余裕」
私に攻撃されたことで、インベーダートレントが私を敵と見なし、見覚えのある触手攻撃を仕掛けてきた。
しかし、今の私なら対処は余裕であり、こいつの攻撃よりも私が攻撃を察知して対応に動くまでの方が早い。
「私も負けてられないね?すぅ……はあっ!!」
神林さんの魔力武装パンチが炸裂する。
しかし、あまりダメージがあるようには見えない。
あんまり効いてないのかな?
そんな事を考えた次の瞬間、突然インベーダートレントの幹が大爆発を起こし、『M3爆弾』を使ったくらい幹がえぐれた。
『ホオオオオオオオオオオオオオ………』
流石のダメージに、インベーダートレントが仲間を呼び出す。
この攻撃はモンスターを召喚し、私達と戦わせるというもの。
インベーダートレントばかりに集中するとこのモンスターに攻撃され、モンスターの対処をしていると忘れたころにインベーダートレントに攻撃される。
まあまあ厄介な攻撃だ。
…昔の私達ならね?
「モンスターの対処はどっちがしますか?」
「かずちゃんにお願いするよ。かずちゃんに切り倒してもらうより、私がパンチで倒した方が早い」
これをパンチで倒すって、なかなか字面の破壊力が凄い。
インベーダートレントはその幹が大きめの体育館くらいの大きさがある。
パンチじゃなくたって、こいつを倒すのは現実的じゃないと言える。
…まあ、それでも倒せるけどね?
「じゃあ、行ってきます。頑張ってください」
「任せてよ。1分で終わらせる。だから、それだけモンスターの相手してて」
1分か…10分でも20分でも全然抑えられるよ。
いや、それ以上だ。
以前のモンスターのレベルなら、いくらでも時間を稼げる。
あの程度なら、何百体でも倒せるからね。
「…なんだ、難易度は一緒か」
煙がかたまり、現れたモンスターは以前戦ったモンスターと同じ。
強さも気配的に一緒だ。
どうやら、湧いてくるモンスターは固定っぽいね。
…だとしたら、インベーダートレントを倒したらまたアラブルカミが現れたりする?
「それはちょっと不味いかもね。咲島さんに逃げる準備だけしてもらった方がいいかな?」
そんな事を呟きながら、私は現れたモンスターを一撃で一刀両断し、一瞬で殲滅して見せた。
少し余裕が出来て、振り返ってみると神林さんは既に半分近くインベーダートレントの幹を破壊していた。
…拳で。
でも、あれだけの体積があって、今神林さんがあれだけ幹を破壊されているのに、倒れる気配がないのは一体…
すると、咲島さんが前に出てきて話し始めた。
「頑張ってるとこ悪いけど、インベーダートレントを倒すのは私でも無理よ」
「え?」
咲島さんでも倒せない?
でもあの時は…
「あの時は、本気でこれを切り倒したけど…インベーダートレントを倒すというのは、この世界を破壊するって事と同義。とてもじゃないけど出来る事じゃない」
「…そうか、あの分身すべて倒さないと、インベーダートレントを倒したことには…」
『ホオアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアア!!!』
「「っ!?」」
話している最中にインベーダートレントの断末魔が響き渡り、私と咲島さんは身構える。
すると、神林さんが走って逃げてきた。
「これ、倒せたって事でオーケー?」
「いや、倒せてはいないわ。この幹を切り倒しただけ。経験値が入ってきてないでしょう?」
「確かに…そういえば、これから召喚されるモンスターはいったい…?」
…確かに。
そういえばまだモンスターの気配を感じないし、これからどんなモンスターが出てくるのやら…
私も出てくるモンスターを警戒していると、突然頭に声が響く。
『別に期待されても何も出ないよ。こんな時間に呼び出された私の気にもなってね?』
「「「っ!?」」」
この声は…多数の人の声を混ぜて話しているようなこの声は…
「『ジェネシス』…それはどういうことですか?」
神林さんが『ジェニシス』一番に話しかける。
胆力が凄いねこの人…
『そのままだよ。そのままの意味。前回のアレは、私が君達をこの世界へ連れてきた。そして、いい感じに死にかけるくらいで恭子を送り込んだ。あと、ついでに人類の天井も見せたしね?』
「全部仕組まれたとこだった…?」
『その通り。だからわざわざ今回もやる意味はない。小枝の一つを倒したんだし、さっさと帰ってくれない?武神のとこならともかく、こうやって腕試しで番外階層に来られると困るんだよ。面白い人間かもしれないからいちいち確認する必要があるし』
…なんて勝手な。
確かに、番外階層を本来の用途とは別に使われ続けるのは、迷惑かもしれないけどさ。
だとしてもそんな…わざわざここまで言う事ある?
『グダグダ心の中で文句言ってないで、帰った帰った。君たち2人も、紫くらい面と向かって物を言えたらいいんだけどね?』
「私は言えますよ?」
『でも今は黙ってる。不満があるなら口に出しな。黙って心の中で文句言われるのはいい気はしないよ』
…なんでこう、正論を言うのは上手なんだろう?
冗談みたいな存在のくせに、筋の通ったまともなこと言うんだよね…
なんか、咲島さんが苦手で意識持ってる理由がわかるわ。
「帰りましょう。邪魔だって言われてますしね?」
「そうね。じゃあポータルを作るからちょっと待って」
『ポータルなら用意したよ。入ったら自分の家に転送されるやつを』
「「「まじか…」」」
よく見ると、確かにポータルが用意されてる。
信じて入ってみると本当に家の玄関にいた。
…なんか、咲島さんがいないし、咲島さんは別で飛ばされたのかな?
…なんだろう?リベンジマッチに勝ったって気がしないなぁ。
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