第158話 ゆうべはお楽しみでしたね

午前10時『花冠』本部


…なぜか『花冠』構成員の視線が刺さる。

めっちゃ見られているのが、顔を向けなくてもわかる。


私達、何かやらかしたっけ?


「失礼します」


視線を気にしながらドアをノックして、中に入る。

部屋では咲島さんが待機していて、すんごくいい笑顔で私達を迎え入れてくれた。

…なんか含みのある笑みだな。


「さて…なんて言ったものかしらね?」

「「?」」

「まあ、まずはこれよね?『ゆうべはおたのしみでしたね』」

「「っ!?」」


どこか聞き覚えのあるフレーズに、私とかずちゃんは心臓が跳ね上がる。


あのゲームをプレイしたことがなくとも、なんとなく意味は理解できると思うけど……まさか咲島さんにコレを言われるとは。


「あなた達、かなり大胆よね?盗聴器があるのにあんなに大きな声で…」

「その…えっと…」

「盗聴器まで…気が回らなくて…」


二人して顔を真っ赤にして何とか弁明しようとするが、意味なんてない。

…というか、さっきの視線ってそういう事だよね?

コレはつまり…私達の昨日から今朝にかけての営みは、全部筒抜けかつ『花冠』全体で共有されているという事でオーケー?


「小春……お前達の家の盗聴担当をしてる女が、半裸で倒れてるの様子が見つかって話題になってたぞ?しかもお前ら今朝の5時くらいまでヤッてたろ?結構な人数が聞いてるぞ?」

「……それ以上言わないで」

「神林さん…帰ったらまず盗聴器外しましょう。別に帰ってすげまたやるわけじゃないですけど…本気で支障が出ます」


別に昼間からする予定はないけれど、また聞かれても困る。

盗聴器は外しておこう…


そんな話し合いをしていると、咲島さんが入ったきた。


「残念だけど、あの家の盗聴器は外せないわ。特別製の盗聴器が、いろんな部屋の壁に埋まってる」

「…じゃあどうすれば?」

「ブレーカーの隣に、盗聴器のオンオフスイッチがあるから、それを使いなさい。ちなみに、昨日のアレを聞く限り、全部の盗聴器をオフにした方がいいわよ。多分他の部屋にも聞こえる」

「…はい」


咲島さんに呼び出され、何事かと思えばこれか……

うう、なんで私は盗聴器の事を忘れてたんだ……


かずちゃんと二人で顔を赤くして悶えていると、咲島さんに肩を叩かれた。


「まあ…盗聴器が仕掛けられてることすら教えられていない護衛対象も居るし、気にすることはないわ。バッチリ聞こえることは珍しくないのよ?」

「じゃあ何であんなにヒソヒソと…」

「8時間もぶっ通しでヤリ続けるアツアツカップルがいれば、そりゃ話題になるでしょ?」

「あ、はい…」


まあ…そうだよね?

流石にやり過ぎだよね?


いくら愛し合いたかったからとはいえ…流石にやり過ぎた。

今度からは盗聴器を切って、かつある程度時間を守ってやらないと…


「ちなみに、小春が呼んでるがどうする?」

「……ちょっと話をつけてきます」

「私も」


咲島さんに小春という女性……もといカプガチ勢のところへやって来る。

途中ずっとヒソヒソ言われて本当に居心地が悪い。


別に悪口を言われてるわけじゃないんだけど…とにかく恥ずかしい。

しかも、私達は耳が良いから小声でもなんとなく言えるのがまた…


「着きましたね…ここですか」


盗聴室と書かれた看板が掛けられている部屋に入ると、その先には沢山の個室があり、そのうちの一つに『小春』という札が掛けられた部屋にノックして入る。


「あっ!神林様に一葉様!ゆうべはおたのしみでした――「殺すぞお前」――ひっ!?」


髪を引っ掴んでそう脅すと、小春はかなり萎縮する。

盗聴担当ということもあってか、それほど強くない小春。

レベル100の圧力を食らい、かなり参っている様子だ。


「あんたのせいで大恥かいたんどけど?」

「神林さんとの愛の一夜が台無しなんですけど?」

「あ、あんなのを聞かされて、あなた方を応援する身として、何もしない訳には…」

「「あぁ?」」

「ひっ!」


こいつ…まったく反省してないし、悪い事をしたとも思ってないな?

めんどくさいタイプの人間だ…


「一度広まった噂は仕方ないとは言え…なんでこうなったの?」

「えっと…お二人が意識を失うよりも早くに私が先に果ててしまいまして…仕事の関係上、5時間に一回30分の休憩を挟むんですが、それに来ないので不審に思った同僚に発見されまして…」

「意識を失っているアンタの変わりに、その同僚が担当したと?」

「はいぃ…」


この女マジで…許せないね。

一発本当に殴ってやろうか…


「神林さん、抑えてください。ここで殴ったら面倒なことになりますよ、絶対」

「わかってるよ。でも、かずちゃんはこれでいいの?」

「よくないに決まってます。でも、受け入れるしかありません。受け入れて、悟って…それを恥ずべきことでなくすんです」

「なんか達観してるわね…」


あまりにも恥ずかし過ぎて、かずちゃんが悟りを開いちゃった。

…まあ、気持ちはわかるけどさ?


そんなことを話していると、電話がかかってくる。

取り出すと東京で復興作業をしている杏からであり、おそらく町田さんも隣りにいるはず。


電話に出ると、杏の声が聞こえてきた。


『もしもし紫?あなた、12時間ヤッてたってマジ?』

「はあ!?なに言ってんの!?」

『一葉ちゃんと代わって町田が話したいらしい』

「スピーカーだからいつでもいける」


私がそう言うと、少しの沈黙の末別の人物が電話に出た。


『もしもし?私だよ、愛。それはそうと一葉。アンタ神林さんとようやくヤッたの?』

「うん。すっごく良かった」

『知ってる。だって12時間ヤッてたんでしょ?』

「なんか話に尾ひれがついてない?なんて聞いたの?」


かずちゃんがそう言うと、電話の向こうから何かを考えるような声が聞こえる。


『えっと…確か、一葉達が夜から朝までヤッてたって事は知ってるよ。あとは殴り合ってたんじゃないの?ヤりながら』

「そんな事してない!」


何やら盛大に勘違いされてるらしい。

ちゃんと弁明しないと…


『とにかく、盗聴器には気を付けなよ?あれだけ忠告したのに…』

「ごめんなさい…」


杏に呆れられ、電話越しに頭を下げる。


『これからもそういうことはあるだろうから、ちゃんと盗聴器を切ることを報告して、切った上でしなさいよ?』

「はい…」


杏はそうやって私を叱ると、町田さんとかずちゃんの喧嘩を一通りさせてから電話を切った。

この2人は本当に仲がいい。

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