第155話 星宙の神殿

咲島さんに連れられてやってきたのは仙台ダンジョン。

その第1階層だ。


「こんなところで何をするんですか?私家に帰って神林さんとイチャイチャしたいです」

「今だって十分イチャついてるでしょ。ずっと抱っこされてるじゃない」

「えへへ~」


かずちゃんは、結局本部からここに来るまでずっと私に抱きかかえられていた。

下ろそうとすると文句を言ってくるのだから仕方ない。


しかしそれでもかずちゃんは足りないようだ。


私は何処か諦めて可愛がりながら咲島さんの後に続く。

すると、古ぼけた祭壇がある場所にやってきた。


「ここは?」

「あなた達が行くべき場所よ。さあ、ついて来て」


咲島さんは祭壇の魔法陣を起動すると、その中に入り姿が消えた。

ワープポイントだ。


私もかずちゃんを抱いたままその魔法陣の中に入ると、一瞬の浮遊感の後に、世界が一変する。


「なに…ここ?」

「星空…いえ、宇宙空間でしょうか?」


私達が転移した先にあったのは、上も下も右も左も星空のような景色が広がる空間。

まるで宇宙のような場所だ。


そこに、見えない足場の上に立っている。


「いい加減降りなさい。これから大切な面会があるんだから」

「面会?誰とのですか?」


こんなところで面会なんて…そもそもここはどこ?

辺りを見渡していると、少し離れたところに神殿のようなものがあることに気が付いた。


「あそこに行くよ。レベル100に至ったのなら、あなた達には会う権利がある」

「だから、誰ですか?」

「誰って…《ジェネシス》よ」

「……は?」


《ジェネシス》…《ジェネシス》だって!?


私は神殿の方を見つめ、そこに居るであろう存在の姿を想像し、つばを飲み込んだ。









「こ、ここが《ジェネシス》の神殿…」

「なんというか…意外としょぼい」

「こらっ!!」


神殿にやってきた私達は、それほど大きくない神殿を眺めながらおくへ進む。

入ってすぐに建物の中央に到着した。


「…誰も居ませんね?」

「ね?中央の部屋で私達の事を待ってるのかと思ってたけど…」


『私はそこまで暇じゃないのよ?』


「「っ!?」」


突然沢山の声が響き渡り、私達は身構える。


響いた声は男の声、女の声、若い声、年老いた声。

数えきれないほど多くの声が重なって聞こえる。


『思っていたよりも早かったね、二人とも』

「…何がでしょうか?」

『レベル100になるまでさ。多少強引だったとはいえ、想定よりも早くなったことだよ』


声色はとても楽しそうで、新しいおもちゃを貰った子供のようだ。


『いや~実にいい出来だ。これで役者は揃ったといっても問題はなさそうだ。ねえ?咲島君』

「私があなたの協力者になった記憶はありませんが?」

『つれないなぁ~。せっかくの最初のレベル100到達者だから優遇してあげたってのに。まあ、ちょっと甘やかしすぎたけど』


咲島さんと《ジェネシス》は長い付き合いのはず。

何処か気軽に話してるように見えるのは、そのためか?


『君は少し、私の力を当てにし過ぎだね。君の仲間に加護をあげるのはこれで最後だ』

「もう十分。一人失ってしまったけれど、私達だけで国を相手に出来るほどの戦力が整った」

『でしょうね。だから彼のような人間を作ったんだよ。君たちの一強にならないように』

「…その結果、多くの被害が出た」

『だけど、君たちが好き放題するという状況は抑えられているだろう?多くの者が彼を悪人だとして憎んでいるけれど、君たちだって彼と大して変わらないと思うけど?』


彼…早川照の事か。


話しぶりからして、早川は咲島さん達の一強の状態にならないようにするために早川に力を与えたように聞こえる。

…確かに、『花冠』の行動力をもっとも奪っているのは早川だ。

すべて、《ジェネシス》予定通りなのか…


『君たちはどう思う?本来、二人は咲島君とは別勢力になってもらうつもりだったんだけどね。まあ、それは許してあげよう。君たちは咲島君の行いについてどう思うかな?』


姿を見せず、言葉だけで質問してくる《ジェネシス》。

咲島さんの行いについてか…別に悪いとは思わない。

やりすぎな部分はあるけれど、本来裁かれるべき行為なのに法に引っ掛からなかったり、大した罰則が与えられず、同じことを繰り返す人間に罰を与える。

必要なっことだと、私は思う。


『ふむふむ。つまりは必要悪という認識か。そっちの子供も同じような感じだし、まあそうていどおりかな』

「私達の心を…!?」

『そんなに驚くことかい?それにそんな反応されると傷つくなあ。せっかく柄にもなく恋のキューピットになってあげたのにさ』

「恋のキューピット?まさか、私達の…」

『私達の出会いは偶然じゃなくて運命だったのか、って?大正解!君たちは一人でいても話が進まない。二人一緒に、支え合ってもらわないと私の望む物語が始まらないのさ』


私達の出会いは、《ジェネシス》によって結ばれていた運命。

かずちゃんは比喩でもなんでもなく、私の運命の人だったのか…


『君たちは物語を盛り上げる個性あふれるメインキャラクター。二人で力を合わせ苦楽を共にし、自分たちの明るい未来のために突き進むカップルさ!』

「はぁ?」

『何にも気にしなくったっていい。好きなように生きてくれるだけで、この物語は面白くなる。その為にも、君たちに加護を授けよう』


そう言い切った直後、二匹の蝶が私達に向かって飛んでくると、そのまま体の中に吸い込まれていった。

訳が分からず困惑する私に、かずちゃんが服の裾を引っ張ってアピールしてきた。


「なんか、体が軽くなりました」

「…そう?私はそんなことないけど」


加護を受け取ると強くなるというのなら、私も体が軽くなってるはず。

でも、そういったものは感じられない。


いろいろと試して、何が変わったのかを調べていると、《鋼の体》に変化があった。


「これは…魔力の鎧を、バリアみたいに…」

「私も神林さんの魔力に守られてます。咲島さん、お願いします」

「まあ、いいわよ」


魔力の鎧がバリアのように広がり、私とかずちゃんを守っている。

試しに咲島さんを呼んでみた。

拳を握り締めると、かずちゃんを狙って助走をつけて殴りかかってきたが――バリアに阻まれ、攻撃は失敗する。


「凄いわね…本体と同じ硬さのバリアを展開するなんて…戦略の幅が広がるわ」

『君は守ることに特化した存在。なら、これからも壁役として頑張ってもらおう。そしてそっちの子供は身体能力を強化した。本当は魔法に関する強化をしたかったけど、残念ながらこっちの方が君には合ってる。優秀な魔法使いは他を当たろう』

「だって?よかったね、かずちゃん」

「よくないですよ。子供子供って馬鹿にしてぇ…」


加護の内容を聞いてかずちゃんと自分たちの新しい力について話し合おうとしたら、かずちゃんは拗ねていた。


しかし、次の《ジェネシス》の言葉にすぐに元気を取り戻す。


『君は仲間からいじめられている姿が一番かわいいのさ。これからもハニーに沢山イジメてもらうといい』

「それは夜もですか?」

『必要なら媚薬でも出してあげようか?《鋼の心》があっても理性が吹き飛ぶ強烈なやつ』

「ぜひ!!」


よからぬものを受け取ろうとしている…

でも、ちょっと気になるね?その薬。

私の理性を飛ばすなんて相当な劇物だと思うけど、大丈夫かな?


媚薬がどんなものか気になる反面、相当な劇物であることが容易にできることから、少し怖く感じていると、かずちゃんがほほを赤らめながらすり寄ってくる。


「神林さん…?」

「なに?」


何処かそわそわした様子で体をくねらせるかずちゃんを見ていると、急に襟首を引っ張って中の下着を見せてきた。

その下着はとてもかわいらしく、一緒に買ったから見覚えがあるとはいえ…どう見ても勝負下着だ。


「私と『いい事』…しよ…?」

「……うぐっ!?」


脳が理解した瞬間、私は膝をついた。


『どう?劇物でしょ?』

「こんなことで落とせるなんて…もしかして、ずっと期待してました?」

『ああ。彼女が起てた誓いは揺れている。そのまま押せばころっとね?』

「なるほど…いい事聞いた!」


心が読めるからってこの邪神が…

私を未成年に手を出すような淫らな女に落とそうってか?

この悪魔め!


『しかしここまで頑なに手を出そうとしないとはね。レベル上昇を大幅に助ける加護だけじゃなく、恋愛の加護もつけるべきだったか』

「んん?今何と?」

『成長の加護の事かい?時短だよ。最低限の場数を踏ませつつ、短時間で第一線と同等の実力を身に付けさせるための、レベルアップ補正の加護さ。君たちの異様な成長スピードはそれが原因だよ』


長年の謎がこうもあっさりと…

成長の加護か…二人のレベルアップも早まったのは、ダンジョンに仲間と判定されたから補正も共有されたって事なのかな?


「そこまでして…本当にあなたは何がしたいのですか?」

『さっきから何度も言ってるでしょ?こうやって私が人間たちに大きな影響を与え、どんな反応を見せるのか楽しんでるのさ。人々が本を読むように、ね?』

「要は…神の視点からの人間観察?」

『そうだね。アリの巣観察キッドってあるでしょう?あれと似たようなものって考えてくれればいいさ』


…《ジェネシス》からすれば、私達なんてアリのような存在に過ぎないと。

確かに、アリに色々なエサを与えて、それをどうするのか観察するのは楽しいけれど…《ジェネシス》はそれを人間てやっている。


神の視点からの人間観察。

圧倒的強者、超越者の規格外の娯楽。

それの主役が私達。


『自分がなぜ力を得たのか?その意味を理解できたかい?神林紫。御島一葉』

「「っ!?」」


突然名指しでそう言われ、私達はドキッとする。


『すぐに事は起こらないだろうけど、遊んでいられる時間は少ないよ。せっかくあれだけのご祝儀をあげたんだから、今のうちに遊ぶんだよ?ここから先は、命の保養なんてない、波乱と激動の展開が待っているだろうからね』

「それはどういう…?」

『私の話はここまで。頑張るんだよ』


それだけ聞こえたのち、《ジェネシス》は話さなくなった。

波乱と激動の展開…おそらく早川が何かやらかすんじゃなかろうか?


カミが既に2体も出ている以上、これからも次々と出て来るに違いない。

…でも、それ以外の要因でそれが起こるかもしれない。

何が起こるか分からない以上、気を付けなければ…


…ただ、一つ確かなことは――


「「あのゴールド、ご祝儀だったのか…」」


あの大量のゴールドは、本当に《ジェネシス》からのご祝儀だった…






――――――――――――――――――――

明日の投稿は21時の予定です!

予告としては、神林さんとかずちゃんが■■■■!?


お楽しみに〜

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