第151話 燃える東京5

電話だ。


少し距離をとって確認してみると、相手は予想通り咲島さん。

おそらく、マガツカミが出現したことを知って連絡してきたんでしょうね。


「はい、神林です」

『いきなりごめんなさい。あなたは今、ナニと戦っているの?』

「マガツカミ。この名前に聞き覚えは?」


質問に答えると、電話の向こう側からため息が聞こえてきた。

…何となく、それから予想が出来る。


咲島さんはマガツカミの事を知っているんだ。

前に聞きそびれえた、咲島さんが知る4体のカミの最後の一体。


『…忘れもしないわ。マガツカミ、奴にどれだけの仲間を殺されたことか』

「…知っているとは思いましたが、そこまで因縁があったとは。こいつは、強いですか?」


まさか、咲島さんとここまで因縁がある相手だとは思わなかった。

仲間を何人も殺された恨み…


咲島さんの仲間だ、弱いわけがないのにそれでも死人を出すなんて…

その強さは、聞くまでもないかもしれない。


…ただ、咲島さんの答えは私の予想とは別のものだった。


『強い?マガツカミはそういう次元の話ではないわ』

「そういう次元じゃない?」


強さは関係ないと?

強さとは別に仲間を失ったって事かな?


『マガツカミは、その神威が何よりも厄介。ありとあらゆる厄災を引き起こす能力で、戦闘力以上の被害を無差別に周囲へばら撒く超一級の危険存在。絶対に現世に出してはいけない化け物よ』

「それを…早川は現世に解き放ったんですか?」

『いや、本体が出てきたわけではないでしょう?奴にマガツカミを支配できるとは思えない。おおよそ、自分の駒を依り代にして、現世に召喚したとかそんなところじゃない?』


…そういえば、確かにステータスは(憑依中)になっていた。

つまり、他人に憑依して部分的に現世に現れたって感じかな?


それなら、本来の力は使えない感じね。


『とはいえ、憑依状態でも神威は使えるようね。挨拶代わりに震度7弱の地震を発生させるなんて…やっぱり化け物ね』

「…その上で渋谷が焼かれました。炎の最上級魔法です」

『そう…これ以上被害を出さない為にも、勝てなくていい。とにかく耐えて』


渋谷を焼き払われた。

その言葉で、一度マガツカミと戦ったことのある咲島さんは状況を察したらしい。

そして、勝てなくてもいいからとにかく耐えろと言われた。


電話が切られ、視線が私に集まっていることに気付くと、咲島さんに言われたことを全員に伝える。


「あと一時間ほどで咲島さんが到着します。それまでこれ以上被害を大きくしない事だけを考えて耐えてください!!」


その言葉を受け、全員が動き出した。


魔法使いは魔法でマガツカミを牽制し、近接戦闘を得意とする人たちは接近戦を仕掛けた。


「自分を中心にした半自爆の魔法を使ってくる可能性があります!その魔法を警戒して!!」


私も接近戦に参加する。

さっき感じた悪寒は、おそらく半分自爆の魔法で私を吹き飛ばそうとしたからじゃないだろうか?


こいつの防御力なら、私達には大ダメージだけどマガツカミには効かない程度の魔法を使ってきてもおかしくない。

そういった魔法を警戒すれば、接近戦ではこっちの方が有利なはず。


巨人のような巨躯を持つマガツカミを囲むように近接班が攻撃を仕掛け、少しずつしのぎを削る。

そこへ魔法使いたちが何度も魔法を叩き込み、無視できないダメージを負わせるが…スキルを持っているわけでもないのに、異様に再生が早い。


「再生系のスキルなしでこれですか…?!」

「町田とは相性が悪いわね」

「それを言えば、大抵のモンスターと相性が悪いですよ。私は対人特化なので」


町田さんは短剣使いだ。

短剣なんて、人間くらいにしか使えない武器、モンスターとの戦闘で使うなんて馬鹿げている。


モンスターの多くは、人間よりも体が大きい。

だから、短剣では致命的な一撃を与えられない事が多いんだ。

そういう意味での、『大抵のモンスターと相性が悪い』。


…それを言えば、私の方が相性悪いんだけどね?

拳じゃ火力が足りない…


「…来るっ!全員!!マガツカミから距離を取って!!!」


私の言葉に全員が一斉に距離を取り、魔法攻撃に備える。

私の予想通り、マガツカミが自分にも当たるように炎魔法を使い、信じられないほど太い火柱が上がる。


当たっていたら、今頃全身丸焦げだっただろうね。


「あれに当たったらやばかったですね」

「そうね。でも、当たらなければなんてことは…っ!?」

「ヤバイッ!!!」


地面から膨大な魔力を感じ、私達は反射的に飛びのいた。

…ただ、逃げられなかった者もいる。


「くうっ!?」

「まじかっ!?」


特に、『花園』『花冠』に関係のない普通の男性冒険者がストーンヘンジの中に閉じ込められている。

それだけならまだよかったけど……アレはただの岩じゃない。


Aランク冒険者が本気で攻撃しても壊せない程の強度を持つ魔法で出来たストーンヘンだ。


「助けないと!」

「どうやって!?」

「何とかするんです!!」


人数が少なくなればなるほどマガツカミが狙うべき相手が減り、かつ個人に集中しやすい。

そうなれば人類では到底届かない異次元の魔法力で各個撃破されてい行くのみ。


それをわかっているかずちゃんは数の暴力を活かすために、助けようとしてるけど…一体何が出来るのか?


多分あの岩はかずちゃんや私では壊せない。

となると今できることは…


「こっちだ!!」

「神林さん!?」


少しでも私が注意を引いて、他の人に攻撃させる。

そうすればマガツカミは鬱陶しく飛び回る私に気を散らされながら、他の冒険者と戦わなくてはならない。


こうやって私が囮になれば、少しは戦況が――は?


「こいつ…何やって…?」


マガツカミは、またあの大きな火の玉を生み出す。

しかし、さっきとは大きく違う事が一つ。


「なんで脅威に感じない…?」


私の勘が、アレは安全だと言っている。


安全なはずがない。

あの魔法は、街を一つ焼き尽くす火力があるんだぞ…?

『水仙』さんの最大出力のバリアでようやく防げるほどの魔法なのになんで…


…まさか!?


「みんな!!あの魔法を絶対に使わせないで!!!」


私の予想が正しければ、それは目をそらしたくなるほど恐ろしい事だ。


「あいつ…民間人が居る方向にアレを打つつもりだ!!」

「なんですって!?」

「噓でしょ!?」

「マジかよ…」


殺意を微塵も感じない。

だって、私達を狙っていないんだから。

誰かを攻撃しようとしている時点で、大なり小なりその相手に殺意や敵意を感じさせる。


一般人はそういうのに鈍いから気づけないけど…アスリートとか武の達人はそういうのが読める。

それくらい、殺意や敵意ってのは分かりやすいものだ。


それを微塵も感じないって事は…敵として見られていない。

アウト・オブ・眼中。

私達への攻撃を完全に諦め、より被害が出る方向へ攻撃しようとしているんだ。


…なんでそんなことを?


そんなの…決まっている。


「マガツカミ…名前の通りなら災いをもたらす神だ。より多くの被害を出すことがこいつの仕事。ダンジョンの外に出た場合、数多の厄災をもって人類に暗雲をもたらすことを目的とされ、《ジェネシス》に生み出された存在…!!」


『カミ』なんて名前まで与えて、ただ単にすごく強くてヤバイモンスターで終わらせるはずがないんだ。


それぞれに役割があり、それを成すことを《ジェネシス》に期待されている。

こいつの場合は災いをもたらすことだ。

その役目を果たすべく、こいつは自分が倒されることを度外視して…!


「くそっ!!やめろ!!」

「こっちよ!お前の敵は私達だ!!」

「よそ見してんじゃねえぞ!!このデク!!」


一斉に攻撃を仕掛け何とか意識をこっちへ向けさせようとするが、マガツカミの狙いは変わらない。


私達ではこいつを止められない!


「ごめんなさい…咲島さん…」


魔力が限界まで集まり、マガツカミがより人がいる方向へ魔法を放とうとした瞬間…


「そうは問屋が卸さないでしょうに」


誰かがそんな決め台詞と共に現れ、マガツカミの肩を魔法ごと切り裂いた。

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