第149話 燃える東京3
私が戦闘に参加して一時間。
『花冠』『花園』の応援が到着し、最上位の冒険者が戦闘に参加してくれた。。
私達と一緒に最前線で暴れている人たちは、みんなAランク相当の実力者。
つまり、全員レベル100に近いステータスを持つ化け物って事だ。
「あなた達は休憩してくれてもいいわよ」
「…『花冠』に任せるとろくなことにならないって知ってるからいいわ。このまま戦う」
『花冠』所属と思われる女性が休むよう促してきたが、『花冠』なら何をしでかすか分からないから、任せるわけにはいかない。
休憩を無視して戦闘を続けようとしたら、その人にものすごく嫌そうな目で見られていることに気が付く。
「…なに?不満?」
「別に」
…まあ、気持ちはわかる。
上司や同僚の失敗のせいで完全に信頼を失って、そのしわ寄せが自分にまで来たんだ。
嫌な顔をしたくなる気持ちは理解できるよ。
「…神林さん。嫌な予感がします」
「え?」
唐突にそんなことを言い出すかずちゃん。
嫌な予感…こういう時の冒険者の直感を軽んじると、ろくなことにならない。
周囲への警戒度を上げて、襲われてもいいように構えておかない、とッ!?
「っぶな!?」
警戒度を上げた直後、早川の熱光線が私をかすめる。
さっき嫌な顔をした女性に視線でこの場の対応を任せると、私は光線が飛んできた方向へ走る。
すると、意外とすぐ近くに早川の姿を見つけた。
「そこ!!」
正面から殴りかかり、魔法のバリアを粉砕する。
まさか一発で割られるとは思っていなかったのか、目を見開いて一瞬対応が遅れた。
そのことを利用して臆することなく前へ出ると、早川の腹に回し蹴りを叩き込む。
「ぐあっ!?」
もろに刺さった回し蹴りから感じられる感触…骨が何本かいったな。
かなりダメージを与えられただろう。
ダメ押しにもう一発…!
「ふん!」
「うぐ…」
正拳突きを食らったことでまた隙が生まれる。
ここで押し切れば勝てると考えた私は、早川の足を踏んで動きを少し封じると、魔法を使わせる隙が無いほどの連撃を叩き込む。
魔法使いで、後衛職である早川は打たれ弱い。
そのことを利用して100発は軽く殴ってやった。
「はあっ!!!」
最後に思いっきり腕を引き、パンチをするときに使う筋肉に魔力を集中し、最大火力で早川を殴り飛ばす。
早川は弧を描いて飛び、血を吹いて地面に臥した。
そんな早川の頭を踏みつけ、少しずつ力を加えていく。
「私なら近距離で戦っても大丈夫だと思った?拳の距離のインファイトなら、私はかずちゃんよりも強い」
「ぐぅ…」
「じゃあ、さようなら」
「待てっ!!」
頭を踏みつぶそうとした私に、早川が待ったをかける。
「俺を今殺したら…前回のカミよりも強いカミがこの現世に解き放たれるけど?」
「……」
私はその言葉に殺すことをためらった。
『ハッタリだ』と言い切れないから。
カミを支配していた前例がある以上、今回も支配したカミを連れてきている可能性がある。
…嘘である可能性の方が高い。
カミなんて存在、脳死で傀儡化を使っても支配できないだろうし、早川の戦闘力を考えれば戦って支配するのも難しいだろう。
それこそ、モンスターの物量で押し切るしかないが、あの境ダンジョンでの戦闘からまだ2週間程度しかたっていないのに、そんな戦力を集められるだろうか。
だから、ハッタリの可能性が高い。
「いいのかい?あの女が居ない以上、カミに対応できるとは思えないけれど」
「黙れ」
踏みつける力を強くし、囁こうとする早川を黙らせる。
…私には、こいつの言葉を嘘だと断言し、今この場で殺せるだけの胆力がない。
こいつの言葉が本当で、殺した結果現れるカミを抑えれず起こるかもしれない最悪に、責任を持てないから。
私が迷っていると、ダンジョンの入り口へ近づく、不審な気配を見つけた。
「あれは誰だ」
「知らないって言ったら?」
「なるほど、操り人形か」
…確定でこいつは何かをしようとしている。
じゃないとあんな場所に操り人形を送らない。
狙いはなんだ?
早川の狙いが読めない私は少し迷ったのち、踏みつけていた早川を起こす。
そして、逃げようとした早川の背後に素早く回り、裸締めで絞め落とした。
「殺せないのなら、せめて気絶させればいい。私は『花冠』のように力を封じるアーチファクトなんか持ってないしね」
意識を失った早川を担ぐと、ダンジョンの入り口へ戻る。
するとそこには、どこかで見覚えのある、高校生くらいの男が居た。
「くそが!放しやがれクソアマ共!!」
「よく吠える負け犬だ事」
「哀れすぎて笑えるわね。たかがレベル30程度のあなたが、このメンツに勝てるとでも?」
「くそっ!なんで!なんでなんだよ!?」
…何こいつ?
本当に早川の駒か?
こんな見るからに頭の悪そうなやつ、仲間にしたって何の役にも…ん?
「こいつ、あの時の…」
「はい。神林さんが私に内緒で殺そうとして、失敗してマジギレした男。小原春斗です」
…杏か町田さんから聞いたのか?
かずちゃんに話した覚えはないから、それか『花冠』の誰かに聞いたんだろう。
誰だよ教えた奴。
「こいつ、こんなところで何してんの?」
「どうも、スタンピードの混乱に乗じて、私を闇討ちするつもりだったらしいですよ?」
「馬鹿の極みね…」
「それはそうと、その男はもしかして?」
「ええ。早川よ」
私は早川を捕まえるまでの過程を一通り説明し、情報を全員に共有する。
「なるほど…それは、、気絶させて確保で正解かも知れませんね?」
「にしてもあの早川を一方的にボコボコにした上に気絶させるなんて…どうやったの?」
早川の体を地面に叩き落すと、軽く蹴ってから質問に答える。
「近距離でボコボコにした後に、裸締めで絞め落とした」
「「「「…ん?」」」」
私の言葉に全員が首を傾げ、視線が早川に集まる。
状況が理解できず、私も首を傾げそうになった時…
「馬鹿だね」
早川がそう呟いた。
殺気が爆発し、全員が戦闘態勢をとった。
しかし、次の瞬間には早川は動いていた。
「うっ!?うがあああああああああああああ!?」
「っ!?」
「なっ!?」
「何事!?」
突然小原春斗が奇声を上げ、体を掻きむしって暴れ始めた。
…それだけなら。私達だって無視した。
相手になんてしなかった。
でも、明らかにこいつのものじゃない強大で禍々しい力を前に、そっちを警戒せざる負えない。
「カミをこの世に連れて来るのは大変なんだよ?何にも前から魔力を与えて用意しておかないと、呼び出せないんだから」
「…何が言いたい?」
「どの時代、どの場所であったとしても、神を召喚するときに必要なものは、器と生贄。それが彼さ」
…そういう事か。
こいつ、小原春斗を生贄にしたうえで、器にしてこの世に顕現させる気なんだ。
「ココまでくれば僕の勝ちだ。もうなにもしないよ~」
そう言って、大の字に体を地面に放り出す早川。
…一旦こいつは放置だ。
今対応すべきは、カミを抑える事。
「最後にそれっぽい事言っておこうかな?…コホン!大地を揺らし、海を猛らせ、山を起こし、嵐を呼ぶものよ。顕現せよ、禍の化身――『マガツカミ』」
早川のクソ野郎は、厨二病全開なセリフと共に、とんでもない化け物をこの世に呼び出した。
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