第148話 燃える東京2

施設に鳴り響いた警報…これは、スタンピードが発生したことを告げるものだ。


「そんな馬鹿な…?」

「こんなにいきなりのスタンピード…まさか!?」


探知を使って気配を探るが、奴の気配は感じられない。

気配を消して潜伏して居るのか、この近くにはいないのか。


そう考えていると、一人の男性職員が駆け込んでくる。


「ポータルの防壁が何者かに破壊されました!!」

「なんだとッ!?」


ポータルの防壁というのは、ダンジョンの入り口を囲むように設置されている、二重のフェンスの事。

主な目的は不正なダンジョンへの侵入を防ぐためだけど、万が一スタンピードが発生した際、あふれ出すモンスタ―をほんの僅かな時間でも狭い空間に閉じ込める目的があるらしい。


その防壁を破壊するって事は、モンスターをいち早く町に放ちたい何者かが居て、そいつはスタンピードが起こることを知っているということになる。


そんなことが出来る人間なんて…一人しかいない。


「早川…もう動くのか」


最悪の異能犯罪者、早川照。

奴が最上級アーティファクトを使用して、意図的にスタンピードを引き起こしたんだ。


「入り口でモンスターを抑えますよ!行きましょう!!」


かずちゃんが二人を連れて先にダンジョンの入り口へ走る。

それを見送ると、私はおじさんと交渉する。


「東京に居る有力な冒険者に支援依頼を出してもらえませんか?私達だけでは限界があります」

「それに関しては任せてくれ。それまでのモンスターの対応は任せたぞ」


私達だけでスタンピードを制圧できるとは思っていない。

前回の規模を考えれば、第三波の強さのモンスターが出てくるとかなり苦しくなる。


それこそ、今東京に居る『菊』と元から関東の責任者である『紫陽花』に協力を要請しなければならない。


そうでなくとも、東京に居る私達と同格の冒険者があと四人は欲しい。


人員の手配を任せて入り口にやってくると、いきなりモンスターが現れた。

気配からして、強さは最初からレベル60相当。


いきなり上澄み冒険者じゃないと対応できない強さのモンスターが出てきやがった。


「セイッ!!」

「はあっ!!」

「やぁっ!!」


先に来ていた三人が戦闘を始めていて、レベル差もあってか一撃でモンスターを倒していく。

デカいゴブリンのようなモンスターが三人の一撃で頭部を破壊されたり、首をはねられたりしている。


今のモンスターだけなら、3人に任せておけば勝てる。

私もそれに加勢しようとすると、スマホが震え、電話が掛かってきた。


こんな時に誰だと思えば、電話の相手は咲島さんだった。


『神林さん!今東京でスタンピードが起こってるって…!』

「はい。今その対応をしています。今東京に居る幹部二人に動くよう指示してもらえませんか?」

『そうね。『紫陽花』は兎も角…『菊』は少々心配ね。あの子は優秀だけど暴走しがちなの』

「暴走…?」


あの失敗は暴走した結果か?

そんなのが頭で、『花冠』は大丈夫なの?


「暴走するような人間に現場指揮は任せたくないんですが…」

『とはいえ、私達が出せる戦力で現場指揮ができる人間は……あっ』

「…誰かいるんですね」


やらかしは多いけど、人材は豊富な咲島さんの組織。

現場監督を任せられる人がいるようだ。


『『花園』の関東支部の長に現場指揮を任せる。一応、私も急ぎでそっちに向かうけど、多分間に合わないわ』

「分かりました」

『一つ不安材料があるとすれば、早川がカミを出してくる可能性がある事。私が居ない状況で、カミを抑えられるかどうか…』


確かに…カミを出されると私達は何もできない。

前はかずちゃんに謎のブーストが掛かってたから勝てたけど、今回もそう上手くいくとは限らない。


ましてや、前回よりも強いカミが出てきたらと思うと…早く咲島さんには東京に来てほしいところ。


「あとどれくらいかかりそうですか?」

『2、3時間はかかるわね。スタンピードの制圧だけなら私が着く前に終わるでしょ?』

「多分終わりますね。…なんか、さっきから風の音が凄いですけど、何事ですか?」


気にしないようにしてたけど、さっきから風の音がうるさい。

ゴーー!!という音がうるさくて、咲島さんの言葉を聞き取るのが大変だ。


『ごめんね。いま岡山に居てね?公道を亜音速で全力疾走してるから、その影響だと思う』

「それで、2から3時間で東京に付けるんですか?」

『最近は私も怠けててねぇ~。歳のせいってわけじゃないでしょうけど、前ほど速く走れないのよ。体力も続かないし』


…あの人、生身で走って岡山から東京に来るつもり?

しかも、公道を亜音速で疾走って……とんでもない大迷惑なんですが。


『頑張って2時間で到着できるようにするから、何とか耐えて』

「わ、分かりました…」


咲島さんの人間をやめている身体能力にドン引きしていると、電話を切られた。


咲島さんが東京に来ることが分かったのなら無問題。

私は目の前の敵に集中すればいいというもの。


後は早川の警戒だけして、さっさとスタンピードを制圧しよう。


スマホをしまうと、《鋼の体》を発動し、私も制圧に参加した。

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