第143話 花冠の暗躍
情報では、このビルの三階にターゲットが監禁されているらしい。
三階まで音もなく駆け上がると、素早く見張りを無力化し、すべての部屋を調べる。
一番奥の部屋にやってくると、そこでターゲットを発見。
見張りの意識を奪うと、後続に身柄を任せ、私達は追加で調査をする。
「先輩。これ…」
町田が見張りの一人のスマホのロックを解除し、中身を見せてきた
これだから指紋認証は…
中身を確認すると、私達は目を覆いたくなった。
「…こいつら暴走族か。しかも、構成員の半分が未成年」
「未成年相手はちょっと面倒ですよ?下手に全員殺せば、行方不明でにユースになります」
「しかも同時期に同じグループの人間が、ね?確実に事件性を疑われて大問題確定ね」
1人いなくなるくらいなる、反抗期か何かで家を出たと考えられなくもない。
こんなところに所属している以上、何らおかしな話でわない。
だけど、一斉にいなくなってしまえば、それは明らかに不自然。
全員で夜逃げしたにしても、大所帯だから目撃例の一つや二つ無いとおかしい。
これは…かなり面倒なことになったわね。
ここで集められるだけの情報を集めた私と町田は、この事をしっかりと隊長に報告する。
「さすがにこれは、あんたの独断では決められない。今度こそ必ず持ち帰って、上司と吟味しなさい」
「……ああ」
かなり不服そうだが、ここまでくると報告せざるを得ない。
万が一殺していたら、大問題になってたわね。
…こいつらなら、隠蔽のために何も確認せず殺害、なんてこともあり得る。
私達が強引に参加して正解だったのでは?
「あなた達の仕事は終わり。後の事は、他部署とも連携を取りながら進める。本来の業務に戻って」
「はいはい。じゃあ、任せるからね?」
滅茶苦茶心配だが、きっと何とかしてくれると信じて、紫のところへ戻ろう。
……またあいつらが独断で動いたら、その時は小春に私達を介して上に報告するよう頼んでおかないとね?
些細なケガもポーションで治された一葉ちゃんの父親。朱里さんを連れて彼の家に向かう。
車で三十分ほどで家に着くと、そこには紫と一葉ちゃんが待っていて、生還した朱里さんに抱き着き、涙を流した。
「……ずいぶん早いけど、何かあったの?」
「計画通り事が進んだだけだよ。何もない」
「……嘘ね」
紫の鋭い指摘に、私は口から心臓が飛び出しそうになった。
声は冷ややかで、私たちのウソを簡単に見破り、軽蔑しているように感じられる。
「私はあなた達『花冠』を信じているし、私達を利用しようとしていることは知っている。その対価は、しっかりと『安全と平穏な生活』として支払われると思ってたけど…」
…そこまで気づいてるのか。
紫は少し頭が残念な人間だと思っていたけれど、決して極端なバカってわけじゃない。
そして、社会人として4年働いていたから、社会人として常識も身に着けている。
子供気分の一葉ちゃんとは、やっぱり違うね。
…町田にも見習ってほしい。
「杏。私の質問に答えて。『花冠』は何をしているの?」
「…さすがにいきなりの事過ぎて、対応が追い付かなったのよ。本当に、ごめんなさい」
平然と噓をつき、頭を下げる。
紫がこれを信じてくれるかは分からない。
でも、『花冠』の今を伝える訳にはいかない。
「…咲島さんは、この事をどう思ってるの?」
「それを私に聞かれてね…」
「そっか。まあ、後で聞いてみるよ」
…咲島さんに直接連絡できるのは、本当にすごいね。
私なら、連絡先を知っててもなかなか電話できない。
でもまあ、いつかは対等に話せるようになるのよね、この2人。
この2人の成長力に軽く恐怖を感じていると、私のスマホが震える。
小春からの電話だ。
気分が急降下するのを感じ、みんなから少し離れたところで電話に出ると…
『こんにちは。少しお話いいかな?浅野杏さん』
「…誰?」
聞き覚えのない声が、電話越しに聞こえてきた。
東京某所
「すっごいビル…これ、本当に『花冠』の持ち物なんですか?」
「正確には『花園』だよ。『花園』の関東支部兼フロント企業のオフィス兼…『花冠』の東京支部だ」
電話で呼び出しを受け、やってきたのは『花園』関東支部の高層ビル。
ここには『花園』だけでなく、『花園』の系列の企業や『花冠』の東京支部があるビル。
その為か、かなり大きい。
私達はそのビルの12階へ上がると、応接間へ通された。
そこで、予想外の人物を見る。
「っ!?」
「まじっすか……」
東京にこの人が来るなんて、咲島さんや『花冠』の本気度がうかがえる。
「その顔は、私の事を知ってるんだ?」
「これでも前までは『椿』さんの管轄で働いていたので…しかし、まさか、あなたが出てくるほどとは…それほど今回の件は面倒なことになっているのですか?『菊』さん」
『花冠』の最高戦力の一人にして、中部地方の責任者兼海外支部の総括。
スキルによって真の姿を隠し、本来の姿は咲島さんしか知らないとされる、『花冠』随一の謎の女『菊』。
まさか、彼女が東京にやって来るとは…それほどか。
「ええ。実は、あの暴走族。私の知り合いが頭でね?そして、私の駒でもあった」
「…本当ですか?」
「駒って言っても、カネ稼ぎのための奴だけどね?別に売っても問題ない情報を売って、小銭稼ぎをしてたんだよ」
「何故そんなことを…」
「やっぱ予算が足りないからさ~。足りない分は自分で補うしかないじゃん?近畿支部はどうなのよ?」
「毎日のように『椿』さんが『予算が足りないよ~』って嘆いてましたね…」
「でしょぉ~?だから、ちゃんと主君に許可取って情報屋やってたわけ」
『花冠』は基本的にどの部署も予算が足りない。
だから、いろいろな方法で足りない予算を補っていた。
『菊』さんは、それを自分たちが調べた情報を売ることで賄っていたようだ。
ちなみに近畿支部は『花園』に倣って、パチ屋を複数運営することで賄っていたりする。
「んで、今回の件の親玉は私が昔情報屋をやってた時の売り子……要は現場で情報を売って、カネを受け取る係だ。まっ、一回警察のお世話になってからは仕事は受けてくれなくなったけどね」
「…元部下、ということですか?」
「そゆこと。だから久しぶりに連絡してみたけど…どうも面倒なことになっててねぇ。実はさ?あれ、一部の部下が勝手にやった事らしいんだよね」
…それなら、そいつらを消せばいいだけの話。
何が問題なんだろうか?
「そのやらかしをしたのが、そいつが率いてる族の子供組…未成年とか、学生が中心の奴らがやった事なんだよ」
「……最悪ですね」
通りで『花冠』の様子がおかしいわけだ。
かなり消極的だったのは、それが原因でしょうね。
「…結局どうするんですか?」
「ちょっとヤキ入れをするだけでとどめるだけでいいんじゃないか、ってのが現状の予定。流石に未成年相手の情報操作はめんどい」
「そうですよね…」
…結局、犯人はお咎めなしか。
これを一葉ちゃんが知ったらどうなるか。
…ん?
「電話か。誰からかな?」
「紫…神林紫からです」
「ああ、あの子か」
スマホをマナーモードに切り替えることを忘れえていたせいで、大事なところで電話が掛かってきた。
紫…こんな時に何の用事?
『菊』さんの指示でスピーカーにしてこの場で電話を取ると、怒りの籠った声が聞こえてきた。
『朱里さんから聞いたんだけどさ?犯人の中にかずちゃんをイジメてた奴が居たらしいんだけど…この事は、そっちは把握してるの?』
「…いや。してないと思う」
『じゃあさ?そいつだけは殺してくんない?どうせあれでしょ?相手が未成年だから、手出しが難しいんじゃないの?朱里さんから話を聞く限り、犯人は子供が多かったみたいだし』
……まさか、あの人が見た状況だけで、こっちの状況を言い当てるとは。
紫って、もしかしてホントは頭いい?
そんなことを考えていると、『菊』さんがスマホを手に取った。
「電話変わったよ。私、『花冠』中部地方及び海外支部の責任者、『菊』って言うんだけど……君の今のそれは、『
いきなりとんでもない人間が電話に出てきて驚いたのか、少し黙ってしまう紫。
数秒の沈黙ののち、紫は私と話す時と変わらない口調で話し出した。
『何でもいい。私はそいつがのうのうと生きていて、またかずちゃんへ危害を加えたことが許せない。せめてそいつだけでも殺してほしい』
「依頼料をいただくけどいいかな?」
『いくらほしいの?』
「数日前にゴールドで手に入れたお金全部…って言ったら?」
とんでもない額を吹っ掛ける『菊』さん。
流石にそれは、無茶な話だろう。
『だったら、この手で始末する。どうせ奴は冒険者。殺すチャンスなんてダンジョンに行けばいくらでもある』
「…今回は、証拠の隠滅とかには協力しないよ?」
『全く問題ないわ。かずちゃんのためなら、私はなんだってする』
紫の本気と一葉ちゃんへの愛を知った『菊』さんはニヤリと笑う。
「1000でどうかな?それなら、私達も面倒な未成年の死に関する隠蔽をする価値がある」
『ダンジョンで殺せばいいじゃない』
「…君は、その人間をただ殺すだけで満足かい?」
…まあ、私達なら殺す以上のことが出来る。
私達に昔女性をイジメていた男を殺すことを依頼するというのは…そういうことだ。
紫は、そういうことをしてほしいのかどうか…
『500じゃだめかしら?別にそこまでの事は望んでいない』
「なら700でどう?さっきも言ったけど、未成年の粛清は面倒なのよ。それくらい出してもらわないと」
『じゃあ600で大丈夫ね。杏か町田さんを通して払うから、よろしく』
そう言って、紫は強引に電話を切った。
「あの子、なかなかやるね?」
「かなり値引きされたことですか?」
「500でも受けられるけど、相手が相手だからね。金持ちからはしっかり取るつもりだったけど。だいぶ粘られたね」
これ以上値段を上げたり、依頼を受けないなんてことになれば、咲島さんに話が行くかもしれないからね。
そうなったら面倒くさいし、それで依頼を受けるんだろう。
…え?もしかして、やるの私達?
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