第141話 黄金の魔力

化けも…優秀な女性に対応を任せて2日。

杏が聞いてきた話では、彼は散々拷問を受けた挙句、体内に発信機を埋め込まれ、どこに行ってもバレるようになった状態で解放されたそうだ。


解放したことに関して上司から叱られたらしいが、『対応を任されたのは私。私の考える苦しみは、閉じ込めて延々と拷問することではなく、一時は自由になるがすぐにまた地獄に叩き落されるという落差。その為には開放する必要があるんです』と、大真面目に話して上司はおろか東京支部のトップにすら呆れられたんだとか?

その為、あのゴミは今も普通のフリをして社会に出ているらしい。


「何というか…あの人本当に化け物ね?」

「あんなのが同業者とか、認めたくないんだけど?」

「それはしかたないね。それよりも、他に『花冠』から私達の周囲に関する情報はもらってない?」


大学のころに知り合った人たちは大体さばいたはず。

もういないと思うんだけど…大丈夫かな?


「経歴を遡った範囲で確認できた、接点のある人間はおおよそ終わっているらしいよ。もう、数人くらいじゃない?」

「ならいいけど…」

「接点のある人間はそんな感じ。そうじゃないやつ…勧誘とかその辺がかなり動き始めてるから、今はそっちの対応をしてるところかな?欲をかいたバカな悪徳商法の人間が入れ食い状態だから、粛清が捗るって喜んでたよ?」

「…私、詐欺師ホイホイにされてる?」

「まあ、利用しない手はないよね?」


私の事を餌にして、東京の詐欺師たちをかなり減らしているらしい。

日本が平和になる事は嬉しいことだけど、勝手に餌にされるのはいい気がしない。


…まあ、それで世の中が良くなるのなら文句はないけど。


「あとは、私達を狙っていくつかのチンピラが情報を集めてるらしいわ。将来的に危ないかもしれないってことで、暗殺者を総動員してそういうチンピラは一掃してるよ。まあ、それでも全部は無理だけどね?」

「チンピラまで…本当、カネの魔力は凄まじいわね」

「変なことにならないといいけ、ど…?」


私の部屋へ向かってくる気配が2つ。

かずちゃんと町田さんだね。

何をそんなに焦ってるんだろう?


不思議に思って首をかしげていると、勢いよく扉が開かれて2人が私の部屋駆け込んできた。


「神林さん!お父さんが!!」

「ど、どうしたの?いったん落ち着いて?」


駆け込んでくるなり、呼吸を荒くして私に『お父さんが!』と叫び続ける。

まるで話にならないので、落ち着いてもらおうとするが、全然落ち着かない。

仕方なくかずちゃんではなく、町田さんに話を聞くことに。


「一葉のお父さんと、ここ2日連絡が取れないって、さっきお母さんから電話が掛かってきたんです」

「なんですって?」

「東京支部への連絡は?」

「もうしてある。すでにリソースの大半を割いて探してくれてるらしいよ」


かずちゃんのお父さん――朱里さんと連絡が取れなくなったらしい。

しかも2日前から。

…まさか、攫われたのか?


「…杏、たった数日でかずちゃんのお父さんの通勤の道を割り出すことって出来る?」

「『花冠』の捜査能力をもってすれば簡単だけど、一介のチンピラにそれが出来るとは思えない。そして、それが出来る規模の組織ならあなた達と『花冠』がつながってることくらい分かってる。だから、大きな組織はあり得ない」

「でも、小さな組織が数日で割り出すことは不可能だから……情報提供者がいるわね」


かずちゃんのお父さんの事を知っている人間。

もしかして、朱里さんの同僚か?

だとしたら、どうしようもないけど…


「とりあえず、今は『花冠』が見つけるのを待ちなさい。お父さんの無事を祈ってね?」


杏に諭され、ようやく落ち着いたかずちゃん。

私も心配だけど、今は何もできないから待つしかない。


朱里さんの無事を祈り、かずちゃんを慰めて待つことにした





                ◇◇◇





人気のない東京の中心部から少し離れた場所にある、小さな雑居ビル。

そこに一人の男が監禁されている。


まさか、俺が狙われるとは思わなかった。

会社からの帰り道、突然頭に強い衝撃を感じたかと思えば、気が付いたらここに居た。


「ほらよ。飯だ」


不良の一人が俺にコンビニのパンを投げてくる。

どうやら俺は人質として連れてこられたらしく、トイレの時以外は今いる部屋を出ることは許されない。

どの部屋にも一人は人が居て、逃げ出すことは出来ない。

トイレの窓は小さすぎて通れないし、扉の前に見張りが待機してるから、、怪しい動きをすればすぐに音で気づかれるだろう。


最終手段として、強引に突破して逃げるというものがあるが…それもできないだろう。

何故ならこいつらの半分は覚醒者で、ダンジョンにも潜っている。

力では絶対に勝てないし、うまくかわしてもすぐに追いつかれる気がする。


結局のところ怪しい動きはせず、助けを待つしかないだろう。

そのうち警察も動くだろうし、人質として生かさないといけないから少なくとも殺されることはないはず。


きっとそのうち助け出されることを信じ、俺は怪しい動きをせずおとなしくしていたのだが…不良たちの中に俺の知っている人間が居ることに気が付いた。

確か…小原春斗とか言ったか?

一葉をいじめていた人間の一人であり、確か覚醒者だったはず。

そんな彼がなぜ……いや、彼がこの不良共に俺の情報を売ったんだ。


俺の娘を食い物にしようとする薄汚い魂胆…俺に力があればすぐにでも断罪してやるのに。

…だが、俺は弱い。

そして、何事もなく救出され、この不良共が逮捕されたとしても数年塀の奥へ行くだけだ。

…理不尽な話だ。


こいつらに天罰が下りますように。

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