第140話 友人(誰?)

ゴールドを発見して数日。

4人ともお金が振り込まれ、町田さんと杏が働かなくなった。


それでも全く問題ないけど…少々面倒なことになった。


「でさぁ~、うちの子供が本当にかわいくて~」

「うんうん。そうなんだ」

「見てこれ?もう一人で歩けるんだよ?うちの子天才!」

「すごいね。立派」


私は今、喫茶店で大学時代の知り合いと遊んでいる。

…と言っても、本当に『ただの知り合い』で、再開したときは『誰?』って感じだった。


じゃあなんでそんな相手と話しているかというと…


「でもさ~。うちの旦那、ホントに全然稼がないの。もう、底辺オブ底辺!」

「それは旦那さんに失礼じゃない…?」

「いいのよ。学生時代遊んでて、大したことない会社に就職したんだよ。あいつがバカだっただけだから。…で、私達『友達』でしょ?ちょっとお金貸してくんない?」


…これだ。

私と少しでも関係があった人間が、私の『友達』を名乗って金をせびってくる。

これが今の悩みだ。


「…先に聞いておくけど、返す目途はあるの?」

「来月には返すからさ!10万だけお願い!」

「……じゃあ、録音しておくからさ。もし返せなかったら日を追うごとに利息を付けて返すことを、宣言して」

「マジでありがとう!」


彼女は私の出した条件をすべて飲む宣言をした後、10万円を受け取って帰っていった。

私も支払いを済ませ、さっさと車へ戻る。


「終わりましたか?」

「うん。今日4人目だよ?ほんとにもう…マスゴミは余計なことをしてくれる」


車に帰ってくると、かずちゃんが後部座席に隠れていた。

かずちゃんも私と似たような連中に絡まれて面倒だから、逃げているのだ。

それが、この車。


「過去最高額とはいえ…実名まで公開します?普通。これだからマスゴミは…」


そう、私達が大量の金を手に入れた事を、『実名で』報道したのだ。


確かに、私達が過去最高額の金を持ち込んだのは事実。

大金を手に入れた事も事実!

けど!実名を公開する必要ある!?


当然面倒なことになった。

それがさっきのあれだ。


「町田さんに抗議文。杏に弁護士の手配を任せてるから、これ以上は私たちの名前はメディアでは広まらないだろうけど…一度広まった事には本当にどうしようもないからね。とりあえずあのゴミ共から慰謝料をぶんどったら、責任者には闇に消えてもらおう」

「そうですね。あとは、『花冠』がこれ以上私達の情報が流出しないよう対策してくれることを信じましょう」 


私達の実名を乗せて報道した番組には抗議文を送り、慰謝料を支払ってもらうべく、杏に『花園』傘下の弁護士事務所の弁護士の手配をしてもらっている。

表向きには弁護士が出てきて慰謝料を支払ったって事にしてもらうつもりだけど…本当は既に『花冠』が動いている。


私達の状態を知った咲島さんがキレて、『花冠』を使うことを許可してくれた。

だから、もう連中は慰謝料を支払わざる負えない。

なんなら、スポンサー企業にも手を回してくれるらしいから、番組存続の危機。


それでも私達の怒りは収まらないけどね?


「ん?なにこれ?」

「浅野さんからですね。これは…『花冠』の使ってるビルですか」


スマホを見てみると杏から連絡が来ていて、とある雑居ビルに来てほしいという。

特に用事もないし、変な奴に絡まれたくないから、そのビルに行ってみることにした。


車を走らせること20分。

ビルに着き、とある部屋へやって来た私達は、ボロボロになった薄汚いおっさんを見て、自分でもわかるほど表情が歪む。


「こいつ。ギルドのまあまあ偉いやつなんだけど…こいつが私たちの情報を、メディアに売ってた」

「こいつが…」


諸悪の根源。

私達にこんな面倒なことをさせた、クソゴミ。


「…やりますか?」

「『花冠』に任せよう。私達が何かするより、エグイ事をしてくれる」


『花冠』ならそういうことも得意なはず。

私はこいつの処遇は『花冠』に任せることに。

おそらく拷問を担当していたであろう女性に視線を送ると、満面の笑みで親指を立てる。


「お二人の恋路は聞いていて飽きませんから。こいつにこの世の地獄を見せるのは私にお任せください……はぁ…はぁ…」

「よ、よろしくお願いします…?」


……訂正、本当に任せていいか不安になってきた。


「こいつは、普通なら1週間もあれば担当を降りたがるあなた達の音声監視を、ここ1か月やってる化け物だから、信頼できるよ」

「…なんで?」

「…『全然親しくもない人が集ってくる』って紫の嘆きを盗聴器を通して聴いて、本来の仕事を放り出して、こいつの確保に動いたらしい。その…まあ、簡単に言えば、あなた達のカップリングのガチ勢なんだけど…ね?」

「そ、そうなんだ…」


最後の、『ね?』に全てが詰まっている。

どういう人間かは察しろって事か。


う~ん…なら任せてもいいかも?

ここ1か月の私達の会話を全部聞いてた化け物ってところは不安だけど。


「気になりますか?私の事」

「いや、ぜんぜ――「ではぜひお話しさせていただきます」――まじ?」


こいつまじか…全然聞く耳持たないじゃん。

適当に聞き流すか。


「私はお二人の普段の営みをすべて把握しております。家にいない間、外で何をしているかなども、同僚から聞いておりますから、本当に何でも知っております。例えば神林様。あなたはよく深夜2時ごろ…一葉様お眠りになられた後にマスターベー…いえ、ご自身の欲求を満たす行為をされていますね?」

「…そうなんですか?」


とんでもない爆弾発言をしやがった、この女。

しかも、一番聞かれたくない相手であるかずちゃんの目の前で。


「本当ですよ?一葉様。一葉様が神林様のお胸をもんだり、指を舐められたり、神林様をオカズにされた後は特に…」

「神林さん…?」

「……私だって、性欲くらいあるわよ。思春期ほどじゃないにしても、恋人に目の前でそんなことされて、なんともないわけないでしょ?」

「それは…ごめんなさい」


はぁ……秘密を暴露されていい気はしないけれど、いつかは気づかれるだろうと思ってたから…まあ、割り切ろう。

それでも、あんまりいい気はしないけどね?


「他には…あっ!私、お二人の喧嘩はいつも録音しております」

「…なんで?」

「何故…ですか?それはもう、愛し合う2人が本気でぶつかり合い、傷つけ合う瞬間ほと興奮する瞬間は、他にないでしょう?」

「「……」」


…こいつ、筋金入りの化け物だ。

盗聴されててもいいから、関わらないようにしよう。


「とりあえずあなたに任せるわ。さようなら」

「私と町田も一緒に連れて帰ってくれ」


一刻も早くここを離れたかったそう言って逃げ出した。

杏と町田さんもついてきて、急いで家に帰る。

どこまで盗聴されてるかわかんないから悪口は言えないけど…これだけは言える。


「「「「怖かった…」」」」


みんな、同じ気持ちなようで何より。

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