第139話 ゴールドラッシュ
「……いつまでヤッてるの?宝箱開けちゃうよ?」
「ああ、ごめんなさい。どうする?かずちゃん、宝箱開ける?」
「はい!開けたいです!!」
杏に急かされて、私とかずちゃんは少し距離を取る。
近すぎるとキスしちゃうからね?
「こんなに小さな宝箱…何が入ってるんですかね?」
「金貨ととかだったらがっかりだけど……なにかな?」
ノーブルスケルトンが落とした宝箱は、化粧ポーチくらいの大きさの小さな宝箱。
こんなに小さな宝箱見たこと無いし、何が入っているのかまったく予想出来ない。
3人に見守られながらかずちゃんが宝箱を開けると、中には小さな宝石と、紙切れが入っていた。
「なにこれ?…うわっ!?」
かずちゃんが宝箱を取り出すと、急に光った。
そして光が近くの地面にヒュンッ!と弧を描いて飛び、地面から2つ目の宝箱が現れる。
…何なのあれ?
「こっちの紙切れは……なんでしょう?コレ」
「蝶…の紋章かな?でも、こんなの見たこと無いよ」
蝶の紋章と思われるモノが描かれている紙切れ。
何に使うものかはまったくわからないけど、多分大切なものだろう。
一応、アイテムボックスに入れておくか。
「一葉。こっちの宝箱は私が開けても良い?」
「いいよ。神林さんも、あっちを見に行きましょう」
「そうね」
蝶の紋章の描かれた紙……蝶と言えば《ジェネシス》だけど…何か関係があるのか?
そんな事はまったく気にも留めていない3人にあわせて次の宝箱を見に行く。
大きさ的に、普通の宝箱だ。
さてさて…何が入っているかな?
「いくよ?オープン!!……あれ?」
宝箱を開けると、中は空っぽだった。
……そんな事ある?
流石に町田さんが可哀想になり慰めようとすると、宝箱がカタカタと揺れ始める。
「……なんかやばい気がする」
「町田もそう思う?実は私も」
「私も…」
「私もです」
カタカタと揺れる宝箱から距離を取り、様子を伺っていると―――
「わっ!?」
「「きゃあっ!?」」
宝箱から金色の何かが吹き出し、杏と町田さん。かずちゃんが驚いて声を上げた。
私はこっちに飛んできた金色のそれを掴み、見てみると……
「まじか…コレ、全部金?」
なんと、大雨の日のマンホールのように吹き出しているソレは、大量の金であった。
「えー…計測の結果、1123キロと450グラムです」
「…ちなみにいくらになりますか?」
「………84億2587万5000円ですね」
……う〜んと?
つまり…?
「5%税を差し引いても80億…1人あたり20億円の臨時収入です」
「「「まじ…?」」」
誰よりも早く計算を終えたかずちゃんが、サラッととんでもない事を言い出した。
宝箱から吹き出した大量の金をアイテムボックスに詰め、持って帰ってきた私達は、すぐに金の買い取り所に足を運んだ。
そして、2時間にも及ぶ計量の末、とんでもない額の臨時収入を得ることに…
「4分割ということでよろしいでしょうか…?」
「まあ…はい?」
杏と町田さんに視線を向けると、親指を立てて満面の笑みを浮かべている。
そんなに欲しいか…この大金が…
「お願いします」
「かしこまりました」
引き攣った表情で対応してくれた男性職員と顔を真っ青にした偉い人に感謝して、私達は金をギルドに預けた。
しっかり全員分のサインもしてあるので、これで振り込まれなかったら訴えれば良い。
それでもダメなら……私達には咲島さんが居る!
とても現実的でない数字に困惑しながら…私達はギルドを出た。
「「「「かんぱーい!!!」」」」
夜になり、ご飯の時間になった私達は、宴会のようなパーティーを開いた。
高いお酒を大量に買い、高価な肉料理をデリバリーで用意。
かずちゃんだけジュースだけど、全員でお酒を入れて乾杯。
ゴールドのおかげで大金持ちになったからね。
高い酒なんて、樽を買う勢いで用意できるよ。
「いや~!東京に来てよかった!」
「さすがは世界一の経済都市。ダンジョンも大盤振る舞いだなぁ」
「まさかあんなにゴールドが出て来るなんて…《ジェネシス》のお祝儀ですかね?」
「だとしたら、かなり太っ腹ね。もうお金には困らないわ」
大量のゴールドを手に入れた事を祝って、完全に羽目を外す。
町田さんは料理に一切手を付けず、ひたすらお酒を飲みつづけあっという間に酔いつぶれてしまう。
…というか、泥酔して《状態異常無効》があるから問題ない、とか言ってかずちゃんにお酒を飲ませようとダル絡みしている。
杏はある程度スピードを押さえながら、肉をおいしそうに食べている。
ちなみに、私のお酒で買った一番いいお酒を水を飲むような勢いで飲んでいるから、もうすぐ泥酔すると思う。
かずちゃんは主に料理に手を付けている。
お酒を飲めないから一人だけジュースだけど、ダル絡みしてくる町田さんを見て、お酒は危ないと思ったのか、全然お酒には興味がなさそう。
その代わりに、高い料理を食べられて満足な模様。
私は杏と同じくお酒と料理を調整しながら食べている。
ただし、杏と決定的に違う部分が一つ。
「紫…いくら酔わないからって、その飲み方はやりすぎなんじゃない?」
「普段なら絶対しないよ。もっといろんな飲み方してるけど…今はこれで十分」
ウィスキーやテキーラのような度数の高い蒸留酒を、割るどころか、氷すら入れずにそのまま飲むのだ。
普段なら絶対にそんなもったいない飲み方はしないけど、今は違う。
だって、使い切れないくらいのお金があるからね?
こんな飲み方をすれば、一般人は死にかねないけど、私には全然効かないんだよね。
というか、これくらいの勢いで飲まないと酔えないので、私は今お酒に酔おうとしている。
「かぁずはぁ~!あんたもおしゃけのみなさいよ~!!」
「飲まないよ。私は未成年なんだから…そもそも、私の目の前でそんなに泥酔して…余計に飲みたくなくなったよ」
「なんだとぉ~!?わたしのさけがのめないってかぁ~!?」
「だからそう言ってるじゃん!!酒臭いなぁ~!」
お酒に酔っても喧嘩ばかりのかずちゃんと町田さん。
今日に限ってはかずちゃんがちょっと大人。
まあ、町田さんが酔って駄目になってるから、煽っても無駄だもんね?
酔っぱらいの相手をするのは、適当にいなすのが一番。
「杏。まだ飲めそう?」
「このくらいでセーブしておこうかな?何にも今全部飲まなくたって、晩酌にすればいいでしょう?」
「そうだね。私はまだまだ飲むよ?全然酔えてないからね」
「ほんと、その《鋼の体》は化け物ね?」
杏はそろそろ終わりにするらしい。
どうせ今夜は遅くまで起きるだろうし、今お腹いっぱい食べる必要はないからね?
私は酔いたいからまだまだ飲むけど。
「神林さん、浅野さん。この酔っ払いを何とかしてくださいよ」
「残念だけどそれは無理ね。もうすぐつぶれるだろうから、それまで待ったら?」
「それか、これを使う?紫は持ってないだろうけど、本来は必需品だよ?解毒ポーション」
「なるほど。私は持ってるので、使ってみます」
解毒ポーションで泥酔状態から復活。
…それ、変な感じにならない?
なんか、いいイメージはないけど…
「…本当に大丈夫?」
「いや?酔った状態ではなくなるけど、めっちゃ気持ち悪い。二日酔いの倍くらいきつい」
「私、二日酔いになった事ないからわかんない」
「ずるいな。《鋼の体》」
杏に羨望のまなざしを受けた。
しかし、そんな事よりも町田さんが心配で様子を見ていると……案の定吐いた。
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