第137話 恐るべき敵

杏の2連撃で確かにダメージが入った。

私はそこに勝機を見出し、奴に飛びかかる。


杏を追い払おうと振りかけた剣を力いっぱい蹴って、腕ごと地面に叩きつける。

だが、即座に反応したノーブルスケルトンは、盾で私を殴り飛ばし、体勢を立て直そうとする。


「させるか!!」


すかさず町田さんが飛んできて、起き上がろうとしたノーブルスケルトンの体を踏みつける。

そして、アイテムボックスから取り出していた黒い布を顔に巻き付け、視界を封じた。


流石暗殺者。

あんな便利道具まで持ってるのか。


「ナイス町田!コレでも喰らえ!!」

「セイッ!!」


町田さんがつくった隙を狙って、かずちゃんと杏が飛びかかる。


これは決まった。

勝ちを確信し、警戒レベルを下げようとしたその時―――


「っ!?離れてッ!!!」


ノーブルスケルトンの魔力が膨れ上がり、気配が増大する。

なにかヤバい技がくる。

3人もそれを察知したようで、急いでノーブルスケルトンから距離を取ろうとするが……間に合わない。


「町田さん!!」


私は、一番近くにいた町田さんとノーブルスケルトンの間に立ち塞がると、全力で《鋼の体》を発動し、守りを固める。

次の瞬間、ノーブルスケルトンの魔力が爆発し、真っ黒な魔力の奔流が私達を飲み込んだ。





           ◇◇◇




「―――ったた…」


何とか魔力を固め、ノーブルスケルトンの魔法攻撃を防御できた私は、急いで顔を上げて周囲を確認する。


神林さんは…《鋼の体》があるから無事。

愛はそんな神林さんに守られて軽傷。

浅野さんは……不味い、重傷だ。


「暗黒魔法…火力が違い過ぎる」


私は、周囲の床が消えてなくなっているノーブルスケルトンを見て、そう呟く。


ダンジョンの床を破壊するなんて…どんな火力だ。

至近距離で食らっていたら、本当に不味かった。


「浅野さん!飲んでください!!」

「うぁ……」


暗黒魔法の爆発を防げなかった浅野さんにポーションを飲ませ、抱き上げてノーブルスケルトンから距離を離す。


その最中に襲われたらヤバかったけど…すぐに私のしたいことを理解した神林さんが攻撃を仕掛けてくれたお陰で助かった。


浅野さんを部屋の壁沿いに寝かせ、ポーションが効いて戦線復帰出来るようになるまで待機してもらう。

私は全力でノーブルスケルトンに接近すると、神林さんと愛が戦っている所に加勢する。


「雷撃!!」


魔法はどうせ効かない。

だけど、雷魔法なら多少は効果があるはず。


私が使える魔法の中で、唯一の貫通持ち魔法。

威力が減衰され、耐性がある中でもノーブルスケルトンの顔を貫き、ダメージを与えた。


そのことに若干驚いたらしいノーブルスケルトンはわずかに隙を見せ、そこへ私は刀を振り上げる。


ギリギリで反応され、私は刀は空を切るが…すかさず神林さんがフォローに入り、遅れて愛がそれを支援したことで私には攻撃が届かない。


形勢不利を感じたノーブルスケルトンは、無理をせず距離を取ると、手を突き出して真っ黒な魔法弾を乱射する。


「魔法攻撃です!躱して!!」

「チッ!グミ打ちの魔法攻撃ですらこの威力か!?」


苦し紛れの乱射に見える魔法は、一発一発が致命的なダメージを秘めている。

当たれば神林さん以外は大怪我間違いなしだ。


「私が壁になる!2人は後ろ隠れて!」


避けきるのは困難。

だから、神林さんが壁になってくれるらしい。

私と愛は神林さんの後ろに隠れると、神林さんを盾にしながら走る。


「くっ!…結構痛いわね」

「大丈夫ですか?」

「問題ないわ。まだ鎧は突破されてない」


神林さんは私達の変わりにダメージを受けながら走る。

私達がスタートを切れば魔法が当たるまでもなく攻撃できる位置まで接近すると、ノーブルスケルトンは魔法攻撃を止め、再び剣と盾を構える。


「神林さんの…仇!!」

「まだ死んでないよ!?」


散々神林さんを攻撃した恨みって意味だったんだけど……言い方が悪かった。

ツッコまれながら、私は全速力の連撃でノーブルスケルトンの動きを封じる。


「私だって…やれる!!」


そこへ愛の短剣が舞い、ノーブルスケルトンのヒビの入った首に何度もぶつかった。

ほんのちょっと削れた気がする。


「まだまだぁ!!」


今度は真っ黒な袋を取り出して、ノーブルスケルトンの頭に被せる。

再び視界を奪われたノーブルスケルトンは魔法を発動しようとするが、そうわさせない。


「させるか!!」


最大出力の雷魔法で貫き、魔法の発動を邪魔する。

また全体攻撃を食らったりしたら面倒だ。

こういう厄介な攻撃はさせない方が良い。


「はぁっ!!」


《鋼の体》を張り直した神林さんが、ノーブルスケルトンの頭蓋骨に強烈なアッパーを食らわせる。

『ガンッ!』という鈍い音共に、確かに『メキメキ』という音が聞こえた。

神林さんの攻撃も効く!!


その音は神林さんも聞こえていたらしく、《鋼の体》で少なくとも一発は耐えられる事を武器に、超至近距離で怒涛の連続パンチを繰り出した。


神林さん、カッコイイ!


「このまま押し切る!かずちゃん!町田さん!!」

「「はい!!」」


神林さんの連続パンチで思うように動けないノーブルスケルトンに、私達は両側から首目掛けて獲物を振るう。

私の超高速の居合い切りと、愛の全力の一振りが同時に首を直撃し――大きな亀裂が出来た!!


「押しき―――くっ!?」

「うぐっ!?」

「きゃあ!?」


突然魔力が爆発し、その衝撃波で私達は吹き飛ばされる。

ノーブルスケルトンの最後の抵抗だ。


おまけに、さっきの全体攻撃とは比べ物にならない強大な魔力が練り上げられていく。


この部屋ごと私達を吹き飛ばす気か!?


「そうはさせな――っ!?」

「闇の槍か…くそっ!近付けない!」


地面が真っ黒になったかと思えば、大量の槍が生えてきて、わたしたちの行く手を阻む。

ジャンプして攻撃しようにも、どこから来るかがわかり易すぎる上に、空中では攻撃されたとき回避が難しい。


このままではノーブルスケルトンに攻撃を仕掛けられず全滅する。

なにか良い方法は無いか頭をフル回転させていると、ノーブルスケルトンの背後に人影が現れる。

そして、背後から亀裂に入っていた首を突き刺した!


「暗殺者を舐めるなよ。ボンボンが…」

「先輩!!」

「杏!!」


ポーションで回復した浅野さんが、隠密で気配を消して背後からの一撃を決めたのだ。

かなり危なかったけど…何とかなったね。

ふう…ひやひやした…


「あんなヤバイモンスターにも勝てたんだから、私たちが二つ名を手に入れる日は近いですね、先輩?」

「そんなにうまくいくと行くといいね?」

「ちょっとは夢を持ちましょうよ…」


二つ名…愛の二つ名なんて、シロツメクサで十分でしょ?

それか、タンポポか。


「なんか、私の事バカにしてない?」

「いや?もし愛が二つ名を貰うなら、タンポポとかじゃないかな~って」

「え?なに?喧嘩?」


ちょっと煽りすぎて、愛がイラつき始めた。

流石にまずいと思った私は、口笛を吹きながら距離をとる。


愛は溜息をついて許してくれた。


「子供二人は置いておくとして…ケガは大丈夫?」

「完全回復とはいかないけど、全然戦える。どんどん進むよ」

「…ほんとかなぁ」


ボロボロになった服を着替える浅野さんを心配している神林さん。

この二人は、私と愛以上に仲がいいから、とても楽しそうだ。


……アレは?


ふとノーブルスケルトンの方を見た私は、いち早く異変に気がついた。


「煙…じゃない!!?」


なにかヤバイ気がした私は、みんなに異常を伝えようとするが、それより早く私の感じた危機は現実になる。


赤黒い煙…アレは、瘴気纏の瘴気!

狙いは…神林さんか!!


普段は勘の鋭い神林さんが、あの瘴気に全く気付いていない。

今から呼んでも間に合うか……なら!!


「危ない!!」

「えっ?」


全力で神林さんを突き飛ばし、私が身代わりになる。

根拠はないけど、神林さんの《鋼の体》でも防ぎきれない気がした。


その私の勘はあながち間違ってはいないんじゃないかと、身をもって理解する。

放たれた瘴気の波動は、私の右半身を容易く消し飛ばし、右肩から先の感覚が消滅する。

それでも…神林さんを守れた。

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