第133話 仲直り
帰りの車の中で、私はかずちゃんにずっと抱き着かれていた。
運転しづらくて仕方なかったけど、あれだけ怒ったことを考えれば、気っと許してほしくて仕方がないんだと思う。
そう考えると途端にかわいく見えて、文句を言う気にはなれなかった。
「どう?少しは元気になった?」
「まだ…」
まだまだかずちゃんは泣いている。
それはもうかわいく、ね?
信号で止まるたびにかずちゃんの頭を撫でて私の欲求を満たしていると、電話がかかってきた。
相手は杏。
一旦かずちゃんに離れてもらい、スピーカーで電話を取った。
「もしもし?どうしたの急に」
『ああ紫。急で悪いんだけど、東京駅に来てくれない?今車乗ってるでしょ?』
「いいけど…何で知ってるの?」
何故か杏は私が今車に乗っている事を知っていた。
そして、何故か東京駅に来いと…
『知らないの?あなた達は重要護衛対象だからね。私達が四六時中あの手この手で監視してるのよ』
「あの手この手…?」
『ほら…後ろに仙台ナンバーの車がない?』
「え?」
サイドミラーを使用して後ろを見てみると、確かに仙台ナンバーの車があった。
え?今までずっとつけられてたの?
え、怖っ
『別に車じゃなくてもカメラが町中にあるし、確か盗聴器が仕掛けられてたと思うけど』
「…どこに?」
『普通にリビング。だから夜中にヤル時は気を付けた方がいいよ?喘ぎ声とか丸聞こえだし』
「「……」」
それはつまり…家だからと安心して、ずっとイチャイチャしてたのは全部丸聞こえって事ですか?
それを知った私たちは、恥ずかしくて押し黙って顔を真っ赤にする。
家に帰ったらすることは、その盗聴器を外すことだね…
『とりあえず東京駅に来てよ。リニアでついさっきこっちに来たばっかりだからさ』
「え?杏、こっちに来てるの?」
『私もいるよ!』
杏と町田さんの二人が、この東京に来ているらしい。
で、今東京駅に来てるから迎えに来てほしいと。
…『花冠』の車で行けばいいのに。
「わかった。今から行くからちょっと待ってね?」
『ありがとー』
私はハンドルを切って東京駅へ向かって方向転換する。
にしても、ほんとに来てくれるとは思わなかったけど……もう解決したんだよね。
二人になんて言えばいいのやら。
「ありがとね。…小っちゃい車だね?」
「よし、降りろ」
「冗談だよぉ」
二人を乗せて出発すると、行き先を聞く。
「で?どこに連れて行けばいい?」
「紫の家でいいよ。どんな家に住んでるのか気になるし」
「了解」
私の家の方向へ車を走らせながら、私は今日あったことの話をした。
「へぇ~?じゃあ、私たちは要らなかったわけだ?」
「ごめんね?せっかく来てもらったのに」
「いいよいいよ。二人の仲を取り持つっていう仕事をしてることにして、久しぶりの夏休みにしようかな?」
「…それ大丈夫?」
「正月休みすらもらえないんだから、別にいいのよ。私達だって人間なんだからたまには休まないとだめだよ。それに、二人の方から『必要だ』って言ってくれれば、いくらでも休めるし」
…本当にそれでいいんだろうか?
私達にかまっていたばっかりに、救えなかった命があるかもしれないのに…
「とはいえ、東京支部は万年人手不足だからね。適度に休みながら仕事をしていれば、全然問題ないよ」
「そうなのかなぁ」
「そんなことより…実は紫に謝らないといけないことがあってね?聞いてもらえないかな」
「いいけど…何?」
急に真面目な声で話すものだから、ちょっと驚いてしまった。
杏に謝ってもらわないといけないような事、何かあったかな?
全然思いつかないんだけど…なんだろう?
「二人が喧嘩したって聞いたけど、実はその原因がこの子にあるのよね」
「…え?」
ルームミラー越しに町田さんを見ると、分かりやすく目をそらされ、下手な口笛をふいている。
いかにもといった様子で冷や汗を流していた。
…なぜ町田さんが話にかかわってくるのか、さっぱりわかんないんだけど?
「簡単にまとめると、町田と一葉ちゃんが喧嘩したことが原因なんだけど…まあそれで何となく理解出来るよね?」
「…どんな会話をしたかまで容易に想像できるわ」
「そういう事よ」
つまりは、町田さんがかずちゃんを煽って、それに反発したかずちゃんが浮気のフリなんて真似をしたわけだ。
そこまで容易に想像できてしまうあたり、二人の喧嘩がいかに低俗かわかるね。
もはや怒りをと通り越して呆れていると、かずちゃんと町田さんがどこかほっとしているのが見えた。
…この子達、わざと黙ってたわね?
二人してかばいあっているあたり、本当に二人は仲がいいわね。
「もう怒る気にもなれないわ。だからあんまり言いたくないけど…町田さん」
「は、はい!」
「あなたはもういい大人なんだから、せめて言っていい事と悪い事の判別くらい付けられるようにしてくださいね?」
「全くその通りです…」
町田さんはもう反省しているようだ。
杏がしっかり教育してくれたんだろう。
「…なんだか沢山話したらすっきりしたわ。かずちゃん、片手で運転したら怒る?」
「それで人身事故でも起こしたらどうするんですか?ちゃんと両手で集中してください」
「は~い」
「まったくもう…」
かずちゃんの頭をなでながら帰ろうとしたら、危ないからダメだと怒られちゃった。
でも…ちゃんと私と話してくれた。
「「ふふふ…」」
もうかずちゃんは泣いていない。
私に許してもらい、優しく接してもらったことで元気を取り戻した。
仲直りは…できたと思う。
「……私たちがこっちに来た意味って、本当に何なんでしょうね?」
「まあ…夏休みってことにしておけばいいんじゃない?」
早速仕事がなくなった二人がなにか話している。
4人で談笑しながら車を走らせ、30分ほどで私達は家についた。
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