第132話 謝罪と真相
翌日
かずちゃんに呼び出された私は、かずちゃんのご両親が住むアパートへやって来た。
一応お菓子を持ってきたんだけど、車で何度もかずちゃんに置いていくよう言われ、仕方なくアイテムボックスへ片付けた。
かなり不満そうだったけど、これは半生菓子だから夏の車に放置したら腐る。
そう説明すると、大人しくアイテムボックスに入れて持っていくことを許可してくれた。
「……入っていい?」
「どうぞ」
かずちゃんの家の前にやって来ると、許可を取ってドアノブを捻る。
玄関の扉を開けるとかずちゃんのお母さん、結羽さんが出迎えてくれた。
「こんにちは。お邪魔させていただきます」
「邪魔だなんてそんな…!今日は来ていただき本当にありがとうございます」
結羽さんはかなり腰が低い態度で私と接してくる。
何をしに来たのかいまいち理解できていない私は、ずいぶんオーバーだなぁなんて思いつつ、中へ入れてもらう。
リビングへやって来ると、そこにはかずちゃんのお父さんである朱里さんと……私の知らない家族が待っていた。
「……どちら様?」
こっそりかずちゃんに聞くと、目を泳がせて口籠った後、涙目になりながら話してくれた。
「私の従兄です……その、神林さんが私の浮気相手だと思っていた人…」
「……はぁ?」
えーっと…?
かずちゃんの従兄で…つまりはあの家族は従兄両親?
で、かずちゃんの浮気相手……と勘違いされた人…?
……どういうこと?状況がいまいち飲み込めない。
詳しい話を聞こうとすると、かずちゃんは両親の隣へ行ってしまう。
そして……全員揃っていきなり頭を下げてきた。
「神林さん!うちの娘がとんだご無礼を!父として、謝罪させていただきたい!!」
「…はぁ?」
……これは、どういう状況?
「一葉から話は聞いております。一葉は決して神林さんを裏切った訳では無いのです。ですのでどうか見捨てないでやってもらえないでしょうか!?」
「……あの、状況がよくわかんないんですけど……一旦時間をもらっても?」
「は、はい…」
朱里さんと交渉し、私が理解するまでの時間をもらう。
えーっと、まずはここに居る人。
かずちゃんとその両親。
そして、かずちゃんの従兄とその両親だ。
で、かずちゃんの話ではかずちゃんの従兄が浮気相手だと、私が勘違いしたって事らしいけど……とりあえず、2人は別にそういう関係ではないってことね?
となると…従兄が居る理由は何?
紛らわしい事をして済まなかった的な?
…いや、だとしたらあのキスやデートは一体…?
……待てよ?
「かずちゃん」
「はい…」
「もしかしてだけど……従兄に協力してもらって…趣味の悪い茶番をしてたの?」
「……はい」
あー……なるほど…?
つまりアレだ。
私はかずちゃんの演技にまんまと騙され、あんな大喧嘩をしちゃったって事でいいかな?
はぁ…素直に言ってくれたら許したのに。
「良いですよ。それを聞いて、安心しました」
状況を理解した私は、場を和ませようと優しくそう言う。
しかし、私以外の全員がそれを聞いて苦い顔をした。
「いえ…違うんです…」
「……まだ何か?」
朱里さんが、かなり苦しそう否定する。
かずちゃんもうつむいて首を横に振っている。
…アレは、ドッキリなんでしょ?
「一葉は…神林さんを試そうとしたんです」
「………はぁ?」
私を試す…?
それはつまり…浮気しているフリをして、私がどんな反応をするのか見ようとしたってこと?
そんな…悪趣味極まりない事をかずちゃんが…
「かずちゃん……それがどういう事か、わかってやったんでしょうね?」
「……はい」
「本当に…?私の目を見て教えて」
…流石にお咎め無しというわけには行かない。
だって…そんなくだらない事の為に私達が積み上げてきたモノを…全部ひっくり返すなんて…
信頼関係を壊す行為を…そんな簡単にしてしまって良いはずがない!
「きっと…結羽さんと朱里さんに散々叱られたんじゃないの?私はそうだと思ってるから、あんまり怒りたくないけどさ……こればっかりは許せないよ。人の信頼を…何だと思ってるの?」
「っ!!」
声を荒げたりはしない。
ただし、決して優しい声色ではない。
まだ子供だからこれから学んでいく必要がある事だけど…これだけは絶対にやっちゃいけないことだ。
あまつさえ…恋人にそんな事をするなんて…!
「顔を上げてよ。まだ未成年だけど、もうそんな子供じゃないでしょう?こういう時、どうすべきかくらい、言われなくてもわかるよね!?」
身を乗り出し、かずちゃんに詰め寄る。
すると、かずちゃんは小さな悲鳴をあげ、ぽたぽたと涙を落とす。
「……なさい」
「聞こえないよ?」
「ごめんなさい…」
「聞こえない」
「ごめんなさい」
「聞こえない!」
「ひっ!ご、ごめんなさい!!」
私に本気で叱られ、泣き出してしまう。
でも、それだけで許してあげる気はないし、これを機にしっかり学習させたい。
可哀想だけど、もう少しだけ怒るのは許してね?
「いい?一度失った信用は、もう二度ともとには戻らない。この半年で積み上げた私とかずちゃんの信頼は…もうないのよ」
「ひっ…うぅ…ごめんなさい…」
「でも…私は今でも変わらずかずちゃんを愛してる。だから、まだやり直せるよ」
泣きじゃくるかずちゃんの涙を拭きとり、優しい表情で涙のあふれ出す目を見つめる。
すると――
「うわああああああああ!!!」
人目も気にせず大声で泣き、私に抱き着いてきた。
これだけ泣けば、きっと深く印象に残るだろうね。
もう積み上げえてきた信頼をすべてひっくり返し、無駄にするなんて真似はしないだろう。
そう、信じたい。
かずちゃんはもうこれでいいとして…
「あなたも、本当は私が何か言うべきなんでしょうね…でも、あなたはかずちゃんに言われて、やらされていただけでしょう?」
「はい…まあ…そうですね」
「なら、私は特に何も言わないでおくわ。ただ…女遊びをするときは、気を付けるよう忠告しておく」
「……うっす」
見たところ大学生。
そういう間違いを起こす時期だろう。
それを、こういう形で経験し、穏便に済んだのだからきっともう同じ轍は踏まないと信じたい。
…まあ、彼が何か問題を起こしても、私の知るところではないけどね?
「さて…帰ろうか?」
「はい…」
まだ泣いているかずちゃんを励まし、ご両親と従兄両親に挨拶をしてアパートを出る。
そして、涙を流すかずちゃんを車に乗せ、家に向かった。
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