第131話 不安
本来、129話になる話を一つ話を飛ばして128話として投稿していました。
なので、実質本日は二話投稿です。
私が家に戻ってすぐに、神林さんも帰ってきた。
かなり慌てている様子で、息を切らしている。
「どうしたの?急に呼び出してきて」
「その…ちょっと聞きたいことがあって」
スマホを握りしめながら、ゆっくり口を開く。
「さっき…女の人と楽しそうにしてましたけど…あの人誰ですか?」
恐る恐る…捨てられるんじゃないかと怯えているような声でそう尋ねる。
責めるような言い方は出来ない。
だって…私は人のことを言えないから…
「…見てたの?」
「ファミレスで小学生とランチしてたので…」
「……それがかなり気になるけど…まあ、聞かないでおくわ。あの人だけど、大学時代の友達だよ。たまたま町中で出会ったから、一緒にランチでもいかがって言われてたんだけど…」
「私に急遽呼び出されたと……ごめんなさい」
…私の心配は、杞憂だった。
「…私も浮気してると思った?」
「はい…」
「ふふっ。安心して、私はかずちゃん一筋だから」
そう言って、私の頭に顔を擦り付ける神林さん。
炎天下の外にいたから、かなり汗をかいている。
私の頭は…さぞかしいい匂いがするだろう。
…汗の匂いって意味でね?
「…何処かに食べに行きますか?」
「行かないよ。それに、レベル上げに関しても、もういいかなって思ったし」
もう終わったの?
そんなにレベルが上がったようには見えない。
鑑定を使ってみるか。
――――――――――――――――――――――――
名前 神林紫
レベル85
スキル
《鋼の体》
《鋼の心》
《不眠耐性Lv3》
《格闘術Lv7》
《魔闘法Lv8》
《探知Lv4》
《威圧Lv3》
――――――――――――――――――――――――
…?
そんなに上がってない。
スタンピードと、その後に私が神林さんを無理やりダンジョンに連れて行ったので、レベルは83まで上がっていた。
そこからだから…2しか上がってない。
午前中だけで2上げられたのは、普通の冒険者なら凄いことだけど…神林さんならもっとあげられるはず。
それに、今の私のレベルは92。
てっきりレベル90くらいまで上げるものだと思ってたけど…ここでやめちゃうのか。
「私は…かずちゃんといる方がいい気がして…」
「神林さん…!」
思わず抱き着くと、その優しさに甘えて体を神林さんに預ける。
…でも、いつまでもこの優しさに甘えるわけにはいかない。
ちゃんと謝るべきなんだ。
……そのための準備をしないとね?
◇◇◇
一人でダンジョンに潜り、昼食を食べに戻って来たら旧友と出会った。
そしてその姿をかずちゃんに見られ、勘違いされてしまう。
誤解はすぐに解けたけど…何やらかずちゃんに影響を与えてしまった様子。
私のために作ってくれた昼食のサンドイッチを食べながら、スマホをいじる。
…かずちゃんは、自分の家に一旦帰ったようだ。
そう言えば、今日は土曜日。
両親が家にいるだろうし、何か離したいことがあるのかもね?
こっそりとかずちゃんのスマホに仕込んでおいた追跡アプリを使って、行動を監視する。
…このアプリをさっき使えば、誤解されずに済んだかも。
何処にいるかを把握していれば、見つかることはなかっただろうに…
完全に私のミスね。
さて…かずちゃんがどうして一度家に帰ったのか?
家に帰るって事は、何か親と話したいことがあるってこと。
…私との喧嘩を話に行ったのかな?
でも、そんな事をすれば自分が浮気していた事がバレて、こっ酷く叱らるだけ。
女の子だから殴られはしないだろうけど……なんのお叱りもなく、放り出されるとは到底思えない。
なら、喧嘩をしたことを報告しに行ったとは考えにくい。
じゃあ何故?
「あれだけ私に甘えて、喧嘩して、浮気を疑ったんだから、逃げた訳じゃないはず。…盗聴アプリも入れておくべきだったかな?」
その中には、盗聴アプリなるものがあった。
かずちゃんのスマホに仕込んだのは、位置情報を使用して、何処にいるかを把握するモノだけ。
盗聴や盗撮が出来るアプリまでは入れていないんだ。
「現在地が分かったところで、意外と何も出来ないものだね。ねぇ?かずちゃん」
アプリを閉じて、スマホの壁紙になっているかずちゃんに話しかける。
喧嘩のせいで中々見せてくれない、元気いっぱいの太陽のような笑顔の写真。
この笑顔を見ていると、とても気持ちが軽くなる。
自分は、この笑顔を見るために生まれてきて、この笑顔を守るために生きているんだって、生きる意味を見いだせるから。
…だから、すぐにかずちゃんの浮気を辞めさせて、“私の”かずちゃんを取り戻す。
やっぱり『花冠』でも探偵でも何でもいいから、アレが誰なのか調べさせて消すべきかもね。
となると……杏に頼んでみるか?
私からの仕事の依頼って事にすれば、杏は動けるらしい。
…ちょっと電話してみよう。
◇◇◇
「―――という電話が来たんだけど……町田」
「は、はい!」
「お前…さっきから挙動不審だよな?」
「そ、そんな事ないですよ〜?」
紫からとんでもない依頼が来たかと思えば、町田の様子が急におかしくなった。
あくまでしらを切るつもりらしいけど…今事務所居る全員から白い目を向けられ、かなり居心地が悪そう。
まさに針の筵って感じ。
「……お前、一葉ちゃんに何を吹き込んだ?」
「……私は別に何も」
何もしてない事はないだろう。
言い方的に、何か吹き込んだ訳では無い様子。
となると、何か言って、それに対して一葉ちゃんが反発し、その結果浮気に繋がったとか?
「じゃあ、何か心当たりはあるんだよね?」
お節介な同僚が、町田に質問する。
今はこの部屋の注目が全て町田に集中しているから、みんな気になっている様子。
かなり心地が悪そうにしながら、首を縦に振った。
「その…彼氏にフラレたじゃん?私。その話を電話でしてて…『一葉は神林さんを捨てないだろうけど、逆はどうなんだろうね?』って、むしゃくしゃして言っちゃって……」
『『『あ〜…』』』
なんとなく状況を察した一同が、各々顔を見合わせたり、頭に手を当てたり、首を横に振ったりして反応を見せる。
……まあ、やらかしてるね。
「そしたら一葉が…『だったら、神林さんは何があっても私を捨てないって証明してやる!』って言い出して……多分、浮気のフリをして、神林さんがどんな反応をする見ようとしたんだと思う」
その結果、それを信じた紫と喧嘩になって、今に至ると。
…とりあえず町田は一回腹を切ったほうがいいね。
「それは駄目だわ。愛が悪い」
「愛ちゃん…それはやり過ぎ」
「いくら自分が失恋中で悲しいとは言え、やっていい事と悪いことがあるよ」
同僚から口々に責められ、どんどん小さくなっていく町田。
流石に可哀想になって、助け舟を出してあげようとすると、支部長が手を叩く。
注目が支部長に集まり、騒がしかったオフィスが静かになる。
「町田さん。浅野さん。今東京支部からヘルプが来てるんだけど…行ってくるかしら?」
「…っ!?はい!!」
気遣いのできる、アラサー支部長がそんな提案をした。
…なんか私まで巻き込まれてるけど。
いや、ちゃんと意味は理解できてる。
私は町田の教育係でバディだ。
私が付いていくのは当然と言える。
……尻拭いをさせられるのは不服だけど。
「じゃあ、あなた達がそっちに行くって事は東京支部に伝えておく。準備しておきなさい」
「「はい!」」
こうして、私達は東京支部に行くことになる。
建前上は東京支部へのヘルプたが…本当の目的は二人の仲直りを助けること。
仮にも2人は『花冠』の重要護衛対象。
こういうのも仕事の範疇と言ってしまえば、何も文句は言われまい。
だけど……私はコレがなにかの前兆のような気がして、少しモヤモヤを抱えたまま東京へ向かった。
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