第130話 ちょっとした勘違い
神林さんと一歩手前まで行った翌日。
神林さんは私のレベルを追い付きたいらしく、朝から一人でダンジョンに行った。
私はひとりお留守番で、何もすることが無い。
手持ち無沙汰は気分が良くない。
なにかやりたいけど…何をすればいいかわからない。
…ちょっと外に遊びに行こうかな?
家にいても何もすることが無い私は、外に出て問題のない服装に着替えると、スマホと財布を持って外へ出た。
「なんか面白いものないかなぁ…」
あてもなく出てきたはいいけれど、何もやりたいことがない。
だから、やっぱり外に出ても退屈だった。
今の私は無性に散財したい気分だ。
何かを買うと満たされている気がして、特に欲しいものは無いけど何か買いたい。
宝石や貴金属には興味無いし、ブランド物のバッグや衣服、腕時計や化粧品も別にこだわりはない。
だから…大してお金は使わないだろうけど……ん?
「宝くじかぁ…スクラッチならすぐ出来るし、良いかもね」
宝くじ売り場を見つけ、立ち寄ってみる。
…高校生は宝くじやっちゃダメらしいけど、もう私は高校生じゃないからオッケーなはず。
宝くじやスクラッチなら別に場所を取らないし、もし当たったら使った以上のお金が戻ってるかも知れない。
宝くじは買ってから当選するまでに時間がかかるけど…スクラッチならその場でわかる。
試しに十枚買ってみて、全部削ってみるが……
「え?ゼロ?」
まさかの全てハズレ。
1枚くらい一番下の当たりが入ってるかなぁと思ったけど…それすら入っていなかった。
「な、何かの間違いのはず!そうだ!別のやつなら入ってるでしょ?」
追加でもう十枚買ってみて、削ると300円が当たった。
一枚300円が十枚を二袋買ったから、6000円。
当たりが300円だけだから…5700円の損だね。
本当ならここで諦めるべきなんだけど……
「私は冒険者として大成功できるくらいには運が良かったんだよ?スクラッチくらい当たるはず!」
ダンジョンに入ってちょっとしか経ってない時に10トンアイテムボックスを3つも引いたんだ。
それに、黄金だって見つけてるし、最上級アーティファクト並の価格で取引されてもおかしくない上級アーティファクトも見つけた。
これだけ運が良いなら、スクラッチだって当てられる。
そんな自信を持って、私は当たるまでス買った。
「うぅ…神林さんになんて言えば…」
気が付けば、私は30万円を使っていた。
それに対し、当たりはたったの5000円。
前に纏まった金が入った事で、ギャンブルにハマりかけた神林さんと喧嘩した事あるけれど……その時の神林さんの気持ちがわかる気がする。
『こんなに負けて、かずちゃんになんて言えばいいんだろう?』
そんな事を考えながら、家に帰ってきたのかも知れない。
小銭ばかりの5000円を握り締めて公園にやって来ると、子供たちがゲームをして遊んでいた。
こんな炎天下で、よく外でゲームが出来るよ。
水筒は持ってきてるみたいだけど、どれだけ飲んでるのかな?
……ジュースでも買ってあげよう。
一本200円のジュースを子どもたちの人数分用意すると、優しい声で話しかける。
「何やってるの〜?」
「ダンジョンヒーローズだよ!お姉ちゃんもやってる!?」
「あ〜…名前は聞いたことあるね〜」
ダンジョンヒーローズか。
確か、よくあるRPGゲームだったはず。
グラフィックとかストーリーがしっかりしてて、人気だった聞いたことがあるね。
私、あんまりゲームしないからわかんないけど。
「こんな外でゲームして暑くない?はい、ジュース」
「えっ!?いいの!?」
「いいのよ。人数分買ってきたら飲んでね〜」
アイテムボックスからジュースを取り出しては子供たちに渡していく。
すると1人がなにかに気づき、目を輝かせた。
「お姉ちゃん冒険者!?それアイテムボックスだよね!?」
「お?よく気付いたね〜」
「武器何使ってるの!?戦ってるとこ見せて!!」
元気いっぱいな小学生。
将来の夢は冒険者かな?
特別に私が先輩冒険者として、カッコイイところ見せてあげよう。
土魔法を使って砂場の砂を盛り上げ、おおよそ人形にすると、アイテムボックスから刀を取り出す。
そして、居合い切りの構えを取ると…超高速の抜刀を見せ、砂の山を切り裂いた。
『『『すげーー!!!』』』
切り裂かれた砂の山に集り、大騒ぎしている小学生を見ると、なんだか心が満たされる。
コレが承認欲求か…
う〜ん!な〜んにも知らない小学生にカッコつけて、『すげー』って反応されるのってこんなに気持ちいいのか。
やっぱり子供はいいなぁ……
……そう言えば、神林さんも私と接するときは、こんな感じで満たされてたのかな?
ガキな私に「凄い」って言われて、承認欲求を満たしてる。
…神林さんはそんなしょうもないことしないか。
その後も一通り大道芸を見せて小学生と遊んだ私は、これからファストフードを食べに行くという子供たちを引き連れて、ファミレスへやって来る。
そこで好きな料理を頼ませて、ドリンクバーも付けて小学生の人気者になった。
美味しそうにステーキやハンバーグを食べる小学生を見ながら、ふと窓の外を見ると、神林さんの姿が目に写った。
……私の知らない女性と、楽しそうに話しながら歩く神林さんが。
(何あれ?)
思わず写真を撮ると、あの女性が誰か考える。
1つは大学時代の友達。
交流関係はすっかり少なくなってしまったらしいけど、友達自体はとっても多いそうだ。
なので、ばったり町中で出会って、その勢いで一緒にランチ、なんてことは普通にあり得る。
2つ目は『花冠』の人。
レベル上げに来たは良いけど、やっぱり1人だと効率が悪くて、『花冠』に協力を依頼した的な感じだ。
私とのレベル差を埋めるためにダンジョンに行ったのに、火力不足を補うために私を連れてきちゃ、本末転倒だ。
だから、『花冠』の人に手伝ってもらったというのは十分有り得る話。
3つ目は…神林さんにも、浮気相手がいたってこと。
……正直、3つ目は認めたくないけど、十分に可能性はある。
だってそうじゃないか。
普通に考えて、浮気されてその事を問い詰めたら本気の殴り合いに発展したんだよ?
そんな相手と関係を持ち続けたい?
ならなんで神林さんは私と恋人同士であり続けてるのか?
それはきっと、神林さんも浮気をしてるからじゃないだろうか?
そもそもあんな喧嘩をして全然怒らないのもおかしな話。
けど…神林さんも浮気をしていて、人のことを言えないと許していたら?
そうは考えたくないけど…ありえない話ではないと思う。
夫婦円満の秘訣は…ダブル不倫だった?
ご飯を食べながら、神林さんをどう問い詰めるかを考える。
昼食後、お腹がいっぱいになって、大満足な小学生達に別れを告げると、神林さんに電話をする。
どうやらダンジョンには潜っていなかったらしく、すぐに電話が繋がった。
「すぐに帰ってきてください」
それだけ言うと返事をまたずに電話をガチャ切り。
そうして私自身も急ぎで家に帰り、大慌てで帰ってきた神林さんを玄関で出待ちしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます