第127話 感情的なカップル
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注意
このエピソードは、暴力的な表現、性的な表現を含みます
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お昼時
帰ってきた神林さんは、私が台所に行くのを阻止すると、ソファーに座らせてなにかの準備を始めた。
そして、部屋を見渡して何故かため息をつくと、私を連れて浴室へやってきた。
その手には、何故かチョコが握られていてる。
「お昼ご飯にしようか?」
「……はい?」
お昼ご飯?
ここで?
わけがわからず、困惑していると服を脱ぐよう指示された。
何がしたいのかよくわからず、少し怯えながら服を脱ぐと、冷たい床に座らされる。
神林さんは持っていたチョコを食べると、何故かずっともぐもぐしている。
飲み込もうとせず、口の中にチョコがある筈なのに更にチョコを頬張る。
……なんとなく何がしたいのかを予想できた私は、その様子をじっと見つめて待っていると、指でなにか指示された。
意味はわからないが…意図は理解できる。
口を開くと、顔を近づけてきて、ドロドロに溶けたチョコが神林さんの僅かに開いた口から垂れてきた。
私はそれを、一滴たりとも落とすことなく口に含む。
口に残ったチョコを飲み込んだ神林さんは、私に“昼食”を食べて良いと言ってくれた。
口の中のチョコを飲み込むと、神林さんは牛乳を取り出す。
「喉が乾いたでしょ?牛乳は、飲むと背が伸びるって言うじゃない?」
「…ほぼ迷信ですけどね?」
「じゃあ…いらない?」
「いります。私に…飲ませてください」
神林さんは口に牛乳を含むと、今度は直接唇を重ねて、飲ませてくれる。
僅かに温かくなった甘い牛乳が、私の口の中に流れ込み、喉を潤す。
しかし、口移しでは不安定で、少しばかり溢れてしまった。
こうなっても良いように、わざわざ浴室に連れてきて、服まで脱がせたのか。
そう感心していると、残っていた牛乳を無理やり流し込まれ、唇が離れる。
そして、何故か引っ叩かれた。
「私の作った“昼食”が食べられないの?」
「…え?」
「もしかして…私のこと嫌いなの?」
「ちが――うぐっ!?」
そして、お腹を蹴られる。
神林さんが…私に暴力を振るってきた。
「私のこと、好きだよね?」
「好きです。大好きです!」
「じゃあ…なんでこぼしたの?」
「………ごめんなさい」
口応えをしたら怒られる。
そんな気がして、私は悪くないのに謝った。
すると――
「はぁ…」
「っ!?」
心底ガッカリしたような、冷たいため息が聞える。
その音に私は胸に万力を当てられたような息苦しさを感じた。
「もういいよ。食べなくていい」
「っ!!ま、待って下さい!」
ガッカリした様子で浴室から出ようとする神林さんの足に抱きつき、逃さない。
私のことを睨む神林さんに飛びつき、全力で服を引きちぎった。
「何をッ!!」
怒りを爆発させた神林さんが、私の頬を叩く。
物理的な痛みと、心理的な痛みが同時に襲ってくるが、それを堪えて神林さんを引っ張り、浴室の床に倒す。
「ぐっ!?」
大きな音を立てて倒れた神林さんは、本気で怒った様子で私を睨む。
「神林さんは…お昼ご飯がまだじゃないですか?私が作ってあげますよ、“お昼ご飯”」
「……ありがとう」
…かなり怒っている様子ながら、付き合ってくれるらしい。
私はアイテムボックスからチョコを取り出し、神林さんと同じように口の中でドロドロに溶かして、神林さんの口に注ぐ。
粘り気の強いチョコは、中々落ちてくれない。
口移しで神林さんにチョコを食べてもらっている途中、不意に神林さんは口を離し、チョコを吐き出した。
「不味い…ドブの味がする…」
「なっ!?」
そう言って、千切れた服を脱ぎ捨て、ズボンも脱ぐと脱衣所へ放り投げる。
そして、シャワーで口の中を洗い始めた。
神林さんが私の口移しを受け入れた理由は、こんな事をするためだった。
そう考えると、途端に悲しみが込み上がってくる。
涙が出そうになり、シャワーを浴びる神林さんを見ていると、お湯に溶けたチョコが見えた。
……その瞬間、何故か悲しさが引っ込み、言い表しようのない怒りがこみ上げてくる。
悪いのは私で、これは当然の仕打ちだってわかっているのに…神林さんの行動が何故か途端に許せなくなった。
シャワーを奪い取り、冷水に変えて神林さんに掛ける。
「冷たっ!?」
冷水を浴びた神林さんは飛び退いて、浴槽の中に倒れ込みそうになる。
しかし、ギリギリで耐えて私を睨んできた。
「…酷いですよ」
「どっちが」
服とズボンを脱いでいても、何故か下着はそのままだった神林さんと私。
神林さんは私からシャワーを奪い取ると、私にも冷水を掛けてくる。
「ここまでしなくてもいいじゃないですか」
「裏切り者への罰には生ぬるいくらいだと思うけど?」
「知ってるんですね?」
「認めるんだ?」
シャワーを壁にかけた神林さんは、私を鋭い目つきで見下ろしながら、私の言葉に冷たい返しをする。
さっきまでなら、泣いて逃げ出していたかも知れない。
でも…今の私には、怒りの炎の勢いを増す油でしかない。
…むしろ、神林さんをもっと怒らせたいと思った。
「ちょっとの遊びじゃないですか」
「じゃあこれも遊び」
「器の小さい大人」
「考えなしの子供」
「薄情者」
「浮気者」
わずかに残った理性が、よくもそんな事が言えたと、自分を責める。
自分が悪いと認めたくない感情的な私が、今の私の心を支配している。
理性なんて…あっという間に押し込まれてしまった。
「前にさ、番外階層から脱出した後に、ホテルで言ったこと覚えてる?」
「…『私以外について行ったら許さない』ってやつですか?」
「よく覚えてたね。じゃあ……どうなるかわかるよね?」
「……望むところですよ」
私達の喧嘩は…本当に酷いものになった。
「……まだ臭う」
夜、お風呂に入りながらそんな言葉を呟く。
血の匂いだ。それも2人分の。
本当に…酷い喧嘩だった。
思い出すと、治したはずなのに全身が痛む。
…でも、それ以上に胸が痛い。
少し―――いや、ちょっと多く血を流したせいか、私も神林さんも頭が冷えた。
もう神林さんは怒っていないみたいだし、私もあんな自分勝手な思考は消し飛んだ。
でも、その頃には、もう戻れない程にお互い傷つけ合ってしまっていた状態。
かける言葉が見つからず、必要最低限の会話以外、できなくなった。
「……入るよ」
「……どうぞ」
洗濯機を回した神林さんが、送るて入ってくる。
そして、血の匂いを嗅いで少し嫌な表情を見せる。
「入って下さい」
風呂桶にお湯を注ぎ、神林さんに手渡しながらそう言う。
神林さんはお湯で体を流した後、すぐに湯船に入ってきた。
私はそんな神林さんの上に乗り、まっすぐにキスをしに行く。
「んっ…」
「んん…」
神林さんも私の頭に手を伸ばし、お互いが離れないように、しっかり捕まえてくる。
こうしていないと、自然に離れていってしまいそうで、怖いのだ。
神林さんもそれは同じ。
熱めに設定されたお湯の中で、『私はここにいるよ』と、唇を何度も重ね合った。
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