第125話 見たくないもの

喫茶店で昼食を済ませた2人は、これまた楽しそうにしながら店を出ていった。


私も急いで会計を済ませると、人混みに隠れながら2人の後をつける。


すると2人が向かったのは、デパートの中にある小さなゲームセンター。


かずちゃんは両替機にカードを差し込み、大量の百円玉を用意すると、チャラ男を連れてクレーンゲームのコーナーへ歩く。


そして、可愛らしいぬいぐるみのクレーンゲームの前で立ち止まり、『これやりたい』っぽい事を言い出した。


チャラ男の許可をもらうと、百円玉を入れてクレーンゲームで遊ぶかずちゃん。


……めちゃめちゃ真剣な顔をしていて、楽しそうなのはチャラ男だけ。


あんなに集中してやるものじゃないと思うけど……まあ、よっぽど欲しいんだろうね。


アームの力が弱く、ぬいぐるみを中々持つことが出来ず、何度も失敗している。


6回くらい挑戦したところで集中力が切れたのか、チャラ男と交代する。


「こういうのはコツがあるんだよ。狙い目はあのタグ。あそこにアームを通せば取れるんだよ」


中々やりたいゲームが見つからない一般人のフリをして、すぐ近くで二人の様子を見張る。


かなり近づいたからか、チャラ男の声が聞こえた。


……最近のクレーンゲームはタグを引っ掛けても取れないことが多いよ?


企業が変なところでガチになって、対策してるからね。


大学時代、友達とゲームセンターに行って、クレーンゲームの為に全員合わせて数万使った時の教訓だ。


……今思い返すと、マジで無駄なことしたなぁ。


「ここを引っ掛けて……よし!」

「おおー!」


上手くぬいぐるみのタグにアームを引っ掛けることに成功したチャラ男は、ガッツポーズを見せる。


ぬいぐるみが持ち上がり、出口に向かう途中―――


「うん…?」

「おい……待て待て待て待て!!」


ポロンッとタグがアームから抜け落ち、ゲットならず。


そのまま入口のガードに弾かれて、取りにくい位置に転がっていってしまった。


「…取れる?」

「待ってろ!今万札を両替してくる!」


そう言って、チャラ男は両替機に走っていった。


かずちゃんをそれを見てため息をつくと、1人クレーンゲームを再開し、諦めずぬいぐるみを捕まえに行く。


タグを掴むのではなく、普通にぬいぐるみを掴みにいった。


すると、珍しくぬいぐるみが持ち上がり、いつになく安定している。


(あたりを引いたか。クレーンゲームは確率でアームが強くなるのが主流。かずちゃんは運が良い)


順調にぬいぐるみは運ばれ、出口に落とされた。


取り出し口に手を入れ、中からぬいぐるみを出したかずちゃんは、ぬいぐるみを見つめて小さく微笑む。


……その笑顔を、私と一緒に居る時に見せてほしかった。


「おーい、両替してきた…ぞ?」

「じゃ~ん!なんか取れたよ?」

「良かったな。多分、あたりだったんだよ」


万札を百円玉に変えてきたチャラ男は、嬉しそうな悲しそうな顔をしている。


……まあ、小銭が無駄に増えた訳だからね。


かずちゃんの運の良さを甘く見たね。






            ◇◇◇





「くそっ…万札無駄にした…」

「まさか一つも取れないなんて…私の分けてあげようか?」

「キーホルダーと人形とぬいぐるみだけじゃねぇか。俺はいらねぇ…」


あれから色々なクレーンゲームで遊び、気が付けば十個以上の景品を手に入れていた。


ちなみに従兄は一個も取れてない。


私からもらった10000円を使い切り、変なプライドに火が付いたのか、更に追加で5000円使ったのにね?


……まあ、こんな事するからお金がなくて困ってるんだと思う。


とはいえ、従兄に渡した報酬はまだまだあるし、大した出費じゃないのかもだけど。


…だとしても15000円は大したことあるか。


「……で?どうするんだ?ここから帰るのも想定すると、そろそろキスする予定だろ?」

「あー…集合場所の駅前に行って、そこでやるよ。神林さんが先に帰らないと良いけど…」


集合場所にしていた駅に向かう。


クレーンゲームで一つも景品を取れなかった事を小馬鹿にしたり、神林さんの話をしながら歩いていると、あっという間に駅についてしまった。


「……やるぞ?」

「早くして。…万が一本当にキスするなんて事が起こったら―――覚悟してね?」

「わかってるよ。俺だって従妹とキスなんかしたくねぇよ」

「むぅ…その言い方は傷付くなぁ」

「面倒くさいな、お前」


万が一にも本当にキスをするようなことが無いよう釘を刺すと、神林さんがしっかり見ていることを確認し、私の方から唇を近づけた。


ギリギリのところで止めて、少し離れたところから見たら本当にキスしているように見せる。


流石にずっとその姿勢は厳しいので、すぐに顔を離し、従兄から離れる。


「ふぅ…今日はありがとね。特別に、何かあったら一回だけお金貸してあげる」

「いらねぇよ。そういう貸し借りが一番不味いんだから」

「そう?じゃあ、神林さんの態度次第では、また今度もよろしくね?」

「……おう」


…あんまり乗り気じゃ無さそうだね。


してるフリとはいえ、こんな事普通に考えて良くない。


神林さんが私を捨てたりしない事を証明したら、何でもするくらいの勢いで謝らないと。


さて、神林さんの様子は……あれ?居ない?


「…どうした?」

「いや…神林さんが居ない」

「まじかよ…ギリギリで帰ったか?」

「いや、見てるのは確認したし…逃げちゃったのかな?」


だとしたらちょっと不味いかも。


帰ったら神林さんが大丈夫かどうか見て、すぐに謝らないと…


「ごめん。私も帰る」

「おう。…絶対謝れよ?」

「わかってるよ」


気配は…かなり離れてるね。


早足で帰ってる感じか…


気付かれないよう気をつけながら、できるだけ急ぎで帰らないと…






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