第123話 戻りかけた日常

「うぅ〜…」

「いつまで泣いてるのよ。またいい男探せばいいじゃない」

「だってぇ〜!!」


杏に急に呼び出されたかと思えば、町田さんが涙を流していた。


なんでも彼氏にフられたそうだ。


こんな時期に、泣きっ面に蜂。


少し哀れに思い、私のお金で少し高いお店に連れてきて、3人で町田さんを慰める。


「男なんていくらでもいるだろ?そいつじゃなきゃダメならのか?」

「そうだよ愛。散々遊ぶだけ遊んで捨てるような男、こっちから願い下げくらいの勢いでいかないと!」

「うぅ〜!」


2人は町田さんをフッた男にかなり批判的。


どんな関係だったのか聞くと、確かにその男が悪いように聞こえる。


最初は良かったが、時間が立つにつれて冷たくなったり、冒険者だから金持ってるだろ?と、お金をせびってきたり。


デートの時に、財布を持ってこず、元から町田さんに払わせる気だったり…


…なんというか、良くない男の典型みたいな奴だ。


それなのに…町田さんは彼の事が好きで諦めきれないそうだ。


「神林さんもなにか言ってあげてくださいよ!」

「私?あー……その…過ぎたことは仕方ないし、また次の出会いに期待しよ?ね?」

「―――っ!!ばかぁ!」

「あ〜あ…何やってるの?神林さん?」

「えぇ!?いや、どうすれば良かったのよ!?」


なんか私だけ怒られて、私が悪いことになった。


みんな同じようなこと言ってたのに…


「紫、もっと優しくしてあげてくれ。町田は今悲しんでるんだ」

「私に何を期待してるのよ……え〜っと…町田さん。私達は味方です。あなたが立ち直れるように、全力で支援しますよ!」

「……ここに居る人間、私以外恋人居るじゃん!!みんな敵!!」

「うぐっ!…それを言われるとちょっと…」


2人に助けを求めるが、露骨に視線をそらされた。


かずちゃんと私は言わずもがなで、杏に関しては子供まで居る。


う〜ん…やっべ!完全に地雷踏んだわ!!


「なんか…神林さんって、そういうの苦手ですよね?」

「うっ…」

「人間関係で苦労してたんじゃない?よく社会人やれたね?」

「うぐぐ…」

「…無意識に私の地雷踏み抜いたし」

「それに関しては本当にごめんなさい」


3人から責められて、どんどん小さくなっていく。


なんでよ!私だって頑張ってるのに!


「改善しないと、私みたいに恋人に逃げられますよ?」

「……かずちゃんはそんな事しない」

「そうだそうだ!私は神林さん一筋だ!」

「……バカップルはいいね。そういう心配しなくていいから」


かずちゃんが私を捨てるなんて、想像もできない。


今のかずちゃんは完全に私に依存してる。


何があっても私からは離れられないから、かずちゃんが逃げることはないだろう。

 

「…いいもん。神林さんの言う通り、新しい男探すよ〜だ!」

「愛、何をそんなに怒ってるの?」

「こっちは絶賛失恋中なんだよ!?それなのに目の前でイチャイチャしちゃって〜!!」

「痛たた!?髪引っ張るなー!!」


気遣いの出来ないかずちゃんに余計なことを言われて爆発した町田さんが、かずちゃんの髪を引っ張って怒る。


それにかずちゃんが抵抗して、喧嘩になりそうだ。


今のうちに止めておこう。


「こらっ!他のお客さんに迷惑でしょ!」

「「うぅ〜!!」」


私が怒ると2人は手を離して自分の席に座る。


喧嘩になることは避けたけど、めちゃめちゃ睨み合ってる。


ほんとに仲いいな、この二人。


「……どうする?またすぐに喧嘩しそうだけど」

「良いんじゃない?町田もなんだか元気になってきたし」

「それもそうね。理由はどうあれ、元気になったみたいで良かったわ」


今にも取っ組み合いを始めそうな2人を見守り、注文したケーキを食べる。


う〜ん…日常だ。





           ◇◇◇





数日後


「もう帰るの…?仕事もないんだし、ゆっくりしていけばいいのに…」

「そうだぞ紫。時間はたっぷりあるんだ。もう少し家に残ってもいいじゃないか」

「生憎と、今は歩みを止めるわけにはいかないの。私とかずちゃんは……次のステージへ行くから」


お盆休みが終わり、Uターンラッシュが落ち着いた頃。


私達は少し遅れて東京の家に帰ることになった。


リニアの席の予約も容易に取れたし、頃合いだろう。


お母さんとお父さんにかなり引き止められているが、予約も取ったんだから帰る。


「…また、危険な事に首を突っ込むのか?」

「いや。自分の身を守るためだよ。私達はもう、社会の裏側の存在に認知されているからね」


私達が『花冠』の協力者だということは、もう広まっているらしい。


警戒の対象であり、隙があれば始末すべき存在。


私達を殺そうと襲いかかってくる暗殺者に対抗するためにの力を身につける必要があるんだ。


「その関係で、ここに長居するとちょっと厄介なことになるんだよ。家族には迷惑を掛けたくないし、本当はもっと早く帰る予定だった」


めちゃめちゃ引き止められ、押しに弱いかずちゃんが『もう少しだけゆっくりしよう』って言い出さなければ、もう東京に帰ってた。


だから、お母さんとお父さんはかずちゃんに感謝してほしいね。


「電車の時間もあるし、もう行くね」


そう言って、私はかずちゃんの手を引いて駅の中へ歩く。


かずちゃんは私の両親に笑顔で手を振りながら歩く。


「京都でのお盆休みはどうだった?」

「早川と戦った事しか覚えてないですよ。お盆休みって感じはしませんでした」

「それもそうね…」


お盆休みの思い出を聞くと、やっぱり早川の事しか思い浮かばないらしい。


せっかくの休みなのに、とんでもない厄介事に巻き込まれて、酷い目にあった。


これからも気は抜けないし…頑張って、今よりももっと強くならないとね?


まずは、レベル100の大台を超えること。


そしてタケルカミに出会って、更に強くなるんだ。


電車に乗り、新大阪駅でリニアに乗り換える。


1時間ほどで東京へ帰って来ると、一直線に家に帰った。




―――――――――――――――――――――――


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