第120話 天秤

「しかしまぁ…『氷華』がここまでやられるとは……結局アレは何なんだ?」


完全に煙になっていないカイキノカミを指差し、咲島さんに訊ねる『天秤』。


「カイキノカミ。私が知る限り、四体目の『カミ』だ」

「なるほど……となると、少し気になることがあるな」


『天秤』は手足を拘束された早川を見て、目を細める。


「一度倒された『カミ』は、復活後も《傀儡化》の影響を受けるのか?実に興味深いと思わないか?」


早川の顔を覗き込み、そう告げる。


…まるで、『カミ』は復活するような物言い。


まさか、普通に倒すだけじゃだめなの?


「確かに気になるところだけれど、コイツはこれから殺す。その実験に付き合う気はない」

「それもそうか。なら、俺の仕事はこの子が落ち着くまで見張ることだな」


そう言って、『天秤』はかずちゃんの方へ歩く。


そこで私も急にかずちゃんの安否が心配になり、慌てて駆け寄った。


「かずちゃん!大丈夫!?」

「心配すんな。俺が魔力を抑えてる。魔力暴走は起こさせないし……転移も出来ないだろうよ?」


変わった魔法の気配を感じ、早川を睨むと、ヤツは苦々しい表情を見せた。


『青薔薇』と『牡丹』が見張ってるし、逃げられるなんて事はないだろう。


「……なるほどな。《吸血》のスキルを持ったアーティファクトか。それで魔力暴走を起こした訳だな?」

「……《鑑定》を使ったのね?」

「何も言わず使って悪かった。これはその詫びだ」


そう言って、『天秤』は自分のステータスを見せてくる。


―――――――――――――――――――――――――――


名前 神宮寺誠

レベル119

スキル

  《天秤》

  《鑑定》

  《魔導士Lv9》

  《魔闘法Lv5》

  《探知Lv9》

  《物理耐性Lv3》

  《魔法耐性Lv4》

  《状態異常耐性Lv5》


―――――――――――――――――――――――――――


レベルは、まあ予想の範囲内。


《魔闘法》のレベルが低いけれど…《魔導士》のレベルが高い。


早川と同じ、魔法使いタイプか。


どちらかと言うと後衛で、あまり前に出ないから《魔闘法》がそれほど重要じゃないんだろう。


だから、《魔闘法》のレベルが高くない。


「最強の冒険者のステータス…後でかずちゃんに見せてあげよう」

「おおぅ…いきなり写真撮るじゃん。相手によっちゃ怒られるよ?」

「少なくともあなたは怒らない」

「肝が座ってるねぇ?」


かずちゃんに見せるためにステータスの写真を撮っておく。


ちょっと文句を言われたが、それ以上をするつもりはないようだから、無視で良いだろう。


そんな事より、かずちゃんの方が心配だ。


「………あれ?もう俺には興味無い感じ?」

「私はかずちゃんにしか興味無い」

「えぇ…?俺、ランキング1位の冒険者なんだけど?」

「だから何?」

「ぐはっ!?」


何故かダメージを受け、よろよろと咲島さんのところへ歩いていく。


そして、何か二人で話し始めた。


「『氷華』の新しい部下は凄いな?俺がこんなにダメージを受けたのは久しぶりだ…」

「あの子は別に私の部下じゃないわよ。むしろクライアント側」

「とてもそうは見えないが…」

「色々あって、ちょっと特別な待遇を受けてるの。それと、あの二人は私のモノだから」

「心配するな。引き抜いたりしねーよ」


どうやら、咲島さんの部下だと思われてたらしい。


そういう話は私の聞こえない場所でして欲しいものだけど……それをすると、かずちゃんの魔力を抑えている力が機能しなくなるかもしれない。


今は、近くにいてもらわないと困るのだ。


「《天秤》、ね…」


さっき聞こえた、「『天秤・魔力劣勢』」という言葉。


もしあれがそのままの意味なら、彼のスキルは、『優劣を自在に操る』というものなんじゃないだろうか?


それならば、咲島さんが勝てなかったのも納得がいく。


何処まで正確に指定できるかわからないけれど、個人だけを指定したり、自分には影響が出ず、相手には影響があるように調整すれば、レベル差やステータスの差なんてまるで意味をなさない。


だって今の私は、《魔闘法》を使っていない時と何ら変わらないほど、衰えている。


今の状態では、サラマンダーに成すすべ無くやられてもおかしくないくらいだ。


流石はランキング1位と言うべきスキルだと思う。


「うぅ…」

「っ!?かずちゃん!!」


《天秤》の力の事を考えていると、かずちゃんが目を覚ました。


ずいぶんと辛そうな表情をしながら目を開き、私の顔を見てボーっとしている。


そして、私に抱きしめられている事に気が付いたのか、無理をして自分から体を起こし、抱き着いてきた。


「神林さん…」

「無理しないで。ゆっくりしてて良いのよ」

「もっと『ギュッ』ってして…」

「はいはい。さっきまで危ない状態だったのに……本当、可愛い子ね?」

「ふぇ…?」


寝ぼけているのか、わけがわからないという表情を見せる。


そんな姿も可愛いなと思っていたが、次の言葉にそんな思いも吹き飛ぶ。


「私…なにかしたんですか…?」

「……え?」


……覚えてないの?


魔力暴走の影響で、記憶が曖昧になってるのか?


だとしたら、後で教えてあげないと。


「…何処まで覚えてる?」

「えっと……4人でサラマンダーを倒して、襲いかかってきたサラマンダーの群れと戦って……そこからちょっと記憶が曖昧なんです」

「ちょうど《吸血》の影響が出始めたくらいね…」


そんな危険性まであるなら、この刀はあんまり使わせない方が良いかもね。


強いのは確かだけど……危険だもの。


「…何言ってるんですか?モンスター相手に《吸血》が発動した事なんて、一度もありませんよ?」

「「「……え?」」」

「…なんですって?」


杏と町田さん、咲島さんが声を揃える。


私はかずちゃんが目を覚ました嬉しさが一気に消し飛び、得体のしれない恐怖に襲われた。


「モンスター相手に《吸血》が発動したことが無いって、どういう事?」

「えっと……そのままの意味なんですけど…そもそも武器スキルなので、《吸血》が発動したところで、私は別に強くなりませんよ?」


かずちゃんは強くならない…?

でも確かにサラマンダーを倒したあたりから急激に魔力の量が増えて、カイキノカミを倒した瞬間爆発的に増加したはず。


じゃあ…アレは一体…?




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