第119話 二人の乱入者・下

「カイキノカミなんて名前だし、レベル300だったから、期待したんだけど……全然だね。これならヒトツメニュウドウの方が厄いぃ――――ッ!?」

「……どうしたの?」


突然変な声を出したかと思えば、刀を落とし、両手で胸を抑えてしゃがみこんでしまった。


「かずちゃん!?」


慌てて駆け寄ると、かずちゃんの顔は尋常じゃない勢いで汗が吹き出していて、息も荒い。


かなり苦しそうだ。


背中を撫でて抱き寄せるくらいしか出来ないが、何もしないよりは精神的にマシなはず。


「外傷はないし…ポーションで治せるのか…?」


ポーションは外傷には効くけれど、病気にはそれほど効かない。


効果が無いわけでない程度だ。


それに、これが病気かどうかも分からない。


そんな状況で、ポーションを飲ませていいんだろうか?


「……かずちゃん!これの飲んで!」


とにかく出来ることをしようと、ポーションを取り出してかずちゃんに飲ませる。


ポーションの嫌な味に一瞬顔が歪み、ちょっと心配になると同時に安心する。


味覚がある程度には、重症じゃないって事だ。


それならポーションで治せるはず。


そう思った直後、突然かずちゃんがビクンッ!と、大きく痙攣した。


「あ……あぁ……」

「かずちゃん…?かずちゃん!?」


症状が悪化した。


ポーションは逆効果。


それなら……私はどうすれば…?


「痛い…痛い…」

「っ!!ごめんね…お願い、耐えて」


涙を流すかずちゃんの手を握りしめ、謝る。


苦しむかずちゃんに、私がしてあげられる事はなにもない。


回復魔法が使えれば……いや、ポーションがダメならそれも逆効果か……


「おい!何をしやがった!!」

「くっ!?…知るわけ無いだろう?『カミ』を殺したんだ……祟りでも受けたんじゃないのかい!?」

「祟りだぁ!?そんな馬鹿な話があるか!」

「ぐふっ!?」


杏が早川の腹を蹴る。


それを皮切りに、それまで傍観していた4人も早川を睨む。


みんなは早川がなにかしたと思っているようだけど、私はそれは違う気がする。


それこそ、本当に祟りでも受けたような……


「痛い…苦しい……私の中に…入ってこないで…!」

「……っ!?どういう事!?」


苦しいことを承知で、かずちゃんに問いかける。


私の中に入ってこないで…?


カイキノカミが置き土産でもしていったの?


「……うっ!?…神林さん……逃げて!!」

「何を言って―――――っ!?」


『逃げて』


その言葉を口にした直後、かずちゃんの体から禍々しい気配が溢れ出す。


それは…かずちゃんの力のようで、そうじゃないような変な感じがする、禍々しい気配。


決してカイキノカミでも、早川の力でもない別の力が、かずちゃんから溢れ出している。


「かずちゃん!かずちゃん!!私の声が聞こえる!?」

「私から……離れて!!」

「っ!?」


今までのかずちゃんの力では考えられない程の馬鹿力で、思いっきり突き飛ばされた。


受け身を取れず地面を転がり、服が土で汚れる。


しかし、すぐに起き上がり、顔を上げてかずちゃんの方を見る。


「……何あれ」


目が真っ赤になり、体中から黒いオーラが漏れ出ている。


その姿はまるで…悪魔憑きみたいだ。


「何をボーっとしてるの!すぐに構えて!!」

「咲島さんっ!?」


かずちゃんの変容した姿を眺め、固まっていると咲島さんの叱責を受けた。


顔を上げると咲島さんはすでに臨戦態勢で、周囲を見れば杏や町田さん。


『青薔薇』と『牡丹』の2人も剣を構えていつでも戦えるようにしている。


「あの子、カイキノカミの力を吸収したのよ」

「えっ?それは…」

「あの刀には、《吸血》のスキルがあるでしょう?あのスキル、本当はモンスター相手にはほとんど効果が無いゴミスキルなの。でも、あの刀は違う。モンスターの持つ魔力を吸い取って、それをそのまま一葉ちゃんに流し込んでいる。急激なパワーアップの理由はそれ!」


魔力を吸い取ってパワーアップ。


保有する魔力が増えれば、それだけ身体強化に使える魔力が増えて、《魔闘法》の恩恵をより大きく受けられるんだ。


それで、急に強くなったのか。


「ただ、カイキノカミが持つ魔力はあまりにも多過ぎて、吸収したは良いけど、肝心の一葉ちゃんが魔力を蓄えきれなかった」

「それって…」

「魔力を貯め過ぎて、体の中で暴れてる。いつ暴走してもおかしくないよ…」


確か…『魔力暴走』


かずちゃんはこんな事を言ってたっけ?




『ポーションには魔力を回復するものもありますが、使ってはいけませんよ?』

『なんで?』

『それが、どの程度魔力を回復するものか分からないからです。魔力は過剰に回復すると体が壊れます。イメージとしては、水風船ですね』

『なるほどね。水風船は、水を入れ過ぎると破裂する。それと同じで、魔力を過剰に回復すると、体がパンッ!ってなるのね?』

『怖い想像させないでくださいよぉ…』




あの時はからかうつもりでそんな事を言ったけど……いざ本当にかずちゃんが魔力暴走を起こすのを目の当たりにすると…


「……来るぞ!」


咲島さんが叫び、全員が一層警戒心を強める。


そして、かずちゃんの纏っている禍々しいオーラが爆発し――――何者かが間に入って、かずちゃんの魔力を抑え込んだ。


「『天秤・魔力劣勢』」


魔力は当然勢いを落とし、暴走が一気に収まる。


それと同時に、私達の魔力も急激に動きが鈍り、急に体が重くなったように感じた。


「……その指輪、どうにかならない?いつもいつもいきなり現れて…」

「生憎、それは無理だ。ストーカーが多いものでね」


咲島さんが、魔力を弱らせた原因と思われる人物に話しかける。


それにその人物は、軽く返した。


「彼は『天秤』。ランキング1位の冒険者よ」


『天秤』


噂に聞く、ランキング1位の、日本最強の冒険者。


あの人が……そうなのか。


「しばらく様子を見よう。じきに魔力が抜けて、暴走は収まる」


こちらへ振り返り、あらわになった顔はそれほど若くないヒゲの濃い顔。


私よりもいくらか歳上に感じられる。


身長はかなり高く、190センチはありそうだ。


ヨレヨレのジャケットと、シワだらけのジーパンという、街で見かければ身だしなみがなっていないと思うようなこの男性が、ランキング1位。


大物の乱入に、かずちゃんが危険な状態にあることも忘れ、唖然として動けなかった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る