第118話 二人の乱入者・上

謎の女性達を血祭りに上げたかずちゃんは、異様なオーラを放つ化け物へと真っ直ぐに飛びかかる。


喰らいつくように超至近距離で化け物の首を斬り裂くと、墨汁のように真っ黒な血のようなものが溢れ出してくる。


「汚ぁ〜い」


流石にその血を舐めることは忌避感があるのか、刀に付いた血を舐めるような真似はしなかった。


しかし、好戦的な姿勢は収まらず、それどころか、俄然やる気に満ち溢れているように見える。


刀が血を吸ったのか…


「どうなってるの…?アイツ、私でもダメージを与えるのは大変なモンスターなんだけど…」


モンスターの首を切ったかずちゃんを見て、咲島さんはかなり驚いている。


最強の冒険者が傷をつけるのに苦労する程のモンスターわ、あんなにも簡単に斬り裂く。


《吸血》の強化能力は相当なものだよね…


「《吸血》…?でも、あんな強化あり得ない…」

「私もそう思うわ、『青薔薇』。あなた達、一葉ちゃんに何をしたの?」


『青薔薇』さんと咲島さんがこちらへ視線を向ける。


私達がなにか変なことをしたと疑われているらしい。


……《吸血》の強化って、あれが普通じゃないの?


「えっと…第二波のモンスターとの戦闘を、全部かずちゃんに任せた、くらいです」

「あと、サラマンダーを一人で4匹倒していました」


私と杏の返答に、二人は顔を見合わせる。


台詞をつけるなら、『どういう事だ?』『わかりません』って感じ。


……あれ?これって変な事なの?


「本当にそれだけ?」

「はい、それだけです」

「おかしいわね……その程度では、到底あそこまで強化されるとは思えないのだけど…」


咲島さんが首を傾げる。


どうやらやっぱり、あのレベルの強化は異常だったみたい。


だって……


「ビアアアアアアアアアアア!!?」

「うるさいなぁ」


明らかに私達よりも遥かに格上の化け物相手に、一方的に戦えているのだから。


「馬鹿な…カイキノカミはレベル300だぞ…?それをあんな…レベル100もないガキに…」


早川も呆然とした様子で、カイキノカミとやらをボコボコにしているかずちゃんを見つめる。


戦闘は本当に一方的で、何故かクッションのように沈むアスファルトに足元を取られ、まともに反撃できないカイキノカミに対し、かずちゃんは普通に地面を駆け回っている。


咲島さんや『青薔薇』、『牡丹』、早川の立っている場所もクッションのように沈んでいることから、アレはあのカイキノカミだけに効果があるわけではない様子。


だけど…かずちゃんには効いていない。


というか、私達にも効果が無いみたい。


「後から来たから、対象外とか…?」

「……あの地面が沈んでるやつ?」

「そう。あれ、相当戦い辛そう…」


戦闘の場で、あれほど不安定な足場の事も気を使わないといけないなんて、デバフとかの次元じゃない。


早急に場所を変えるべき状況だ。


その影響はレベル差が3倍もあるかずちゃんとカイキノカミで、かずちゃんが圧倒出来るほどというイカれたものなんだから。


「まずは…左腕ッ!!」


そう言って、刀を振り下ろしたかずちゃんは、本当にカイキノカミの左腕を切り落としてしまった。


「ビラビラアアアアアアアアアアアア!?」


想像以上に効いたらしく、かなりダメージを与えられているようだ。


切り落とされた左腕を握ってかずちゃんから距離を取ると、せつ断面をくっつけて、再生能力に任せて治そうとするが……かずちゃんはそれを許すほど優しくはない。


「ダメダメ〜。そのお手々は、早くナイナイしましょうね〜?」


再び腕を斬り落とし、今度は炎の魔法で焼き始めたのだ。


しかし、ここで予想外の事が起こる。


「……なにあれ?」


確かに燃やしたはずの左腕が凍り付き、氷塊に包まれる。


言い方を変えれば、炎が氷へ変わったとでも言うべきだろうか?


本当に炎が氷へ変わり、腕が氷塊に包まれている。


「咲島さ〜ん?なにかした〜?」

「……おそらく、ソイツの能力よ」


咲島さんの言葉に、かずちゃんが首を傾げる。


カイキノカミの能力……炎を氷に変える能力?


何その限定的でどんな使い道があるかわかんない能力。


……まあ、実際腕が燃やされることを防げたし、意味はあったけど。


「カイキノカミの神威はその名の通り怪奇現象を操る力。普通に考えてあり得ない事を起こすのがヤツの能力よ!」

「…それで炎を出すと逆に冷えて氷が出てけるわけか……じゃあ燃やしてもらえませんか〜?」


冷静に分析した後、咲島さんにそう頼む。


確かに、加熱したら温度が下がって凍りつく怪奇現象が起こっているのなら、逆に冷却したら温度が上がって発火するはず。


咲島さんもそれをすぐに察し、剣を振る。


いつもとは違い氷ではなく炎が現れて、カイキノカミの腕を燃やし始めた。


腕が燃えているのを確認したかずちゃんは、再びカイキノカミへ狙いを定めて刀を構える。


一歩後退るカイキノカミと、それに合わせて前に出るかずちゃん。


「おい!何をやってる!早くそのガキを殺すんだ!」


外野が騒ぎ立てるが、カイキノカミは言うことを聞かない。


ひたすらかずちゃんから逃げ続けている。


その情けない姿に、何故か力が抜ける。


それは咲島さんや『青薔薇』、『牡丹』も同じらしい。


「っ!?」

「ほい確保」

「残念だったね?もう絶対逃さないよ」


『花冠』の二人が早川を確保し、変わった形の手錠で取り押さえる。


それはかなり頑丈そうで、どこか青みを帯びている金属製の分厚い手錠。


魔力を感じることから、それがただの手錠ではない事が、一目瞭然だ。


「馬鹿な…ミスリルを混ぜた手錠だと…?」

「すごいでしょ?お前みたいなのを捕まえるために、『花冠』が作った特別なもの」

「はい、足にも付けたからこれで絶対に逃げられない」


両足にも同じものをつけられ、動きを完全に封じられた早川。


絶望的な表情を見せる早川を見て、少し気分が良くなった。


そこへかずちゃんが追い打ちをかける。


「…あれ?倒しちゃった?」

「「「「……は?」」」」


振り返ると、カイキノカミの頭が真っ二つになっていて、体が煙へ変わり始めていた。


……倒せるのか、アレ。


「首が無いからどうしようかと思ってたけど…大したこと無かったね?」


ニヤニヤしながらそう言い放ったかずちゃん。


その姿を見た早川は、数秒固まった後、膝から崩れ落ちた。

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