第115話 最高峰の戦い
超音速のスタートダッシュで早川照に斬りかかるが、ギリギリで躱された。
「っ!?僕を守れ!!」
そして、カイキノカミが照を守るように動く。
もうダイレクトアタックは通用しないだろう。
これが私の今の私に出来る最善策だったんだけどね……
「仕方ない。正攻法で攻略するか」
ダンジョンの厄災『カミ』
そのコンセプトはレイドボスであり、本来私一人で挑む相手ではないんだ。
しかし、レイドボスということはレベルの低い冒険者が大人数で倒すのを想定されているという事。
確かに強いだろうが、話にならない程の強さはないはずだ。
素早いスタートでカイキノカミの足元に潜り込むと、挨拶代わりに足を狙う。
右足に剣を振り下ろし、頂いてしまおうとしたが――――
「っ!?硬っ!!」
ほんの数センチ斬れただけであり、とても脚を切断するには至らない。
最上級アーティファクトの鋭さを持ってしても斬れないとなると……相当硬いわね。
体がクソみたいに硬いタイプの《神体》か。
「これだけレベル差があるのに攻撃が通るなんて、流石は純ステータス最強。『紅天狗』や『天秤』のようなユニークスキルがあれば、本物の『最強』になれただろうね」
「ユニークスキルなんて甘え。純粋な力こそ正義よ」
私がユニークスキルを持っていない事を馬鹿にしてくるが、正直どうでもいい。
別にユニークスキルが無くたって、才能と努力でどうにでもなる。
最近は王様気分にかまけて自分を高める機会が少なかったけど……流石にそろそろ修行を再開しないと不味いかも知れない。
あの子達に、教えることが無くなってしまうかも知れないからね。
……その事を考えると、ここで早川照を殺すのは私ではないのかも知れない。
「…勝てないのかもね」
切り札はある。
それを使えば、この化け物にも勝てるだろう。
問題はソレを、かの存在は認めてくれるかだ。
それに、もし早川照を倒すのが私の役目では無かったなら……切り札は、温存しておくべきだろう。
「アブビッ!!」
「くっ!?」
振り下ろされた拳はとてつもなく重たく、咄嗟の判断で受けることを選んだが、それは間違いだった。
なんとか受け止めることには成功したものの、衝撃で手脚が痺れて思うように体が動かない。
「アビビビビッ!!!」
「がはっ!?」
カイキノカミの蹴りが私の腹に突き刺さり、勢いよく吹き飛ばされた。
その威力は凄まじく、リニアモーターよりも速い速度で吹き飛ばされた私は、崩れたビルに激突する。
「ぐうっ!?」
全身に大きな衝撃が走り、肉や骨が軋む。
久方ぶりの激痛に、動きが鈍ってしまいそうだ。
「君くらいになってくると、大きな怪我をすることは稀だろう?しかも、最近は後方に篭ってばかりと来た。戦う相手も格下だけなんじゃないのかい?」
「ベラベラとよく回る口ね……手駒がいないと格下にも負ける軟弱者の分際で」
コイツは神林御島コンビと、浅野町田コンビにかなり追い詰められている。
4人とも実力は90レベル相当で、普通なら簡単に勝てる程の差があるはずだ。
それなのに、あと一歩のところまで追い詰められ、慌てて手駒を大量に出したらしい。
ステータスやスキルがゴリゴリの後衛だとしても、普通にダサい。
「スキルに頼るからそうなるのよ。もっと自分を磨きなさい」
「その姿でソレを言われても、自分磨きをしようとは想わないね」
……まあ、コイツの言う事も一理ある。
《フェニクス》によって不老の存在となった私と違い、早川照のようなただ強いだけの人間は、自分を磨いたところで数年後には体が衰え始める。
老化という生物の運命には勝てない。
だから、《率いる者》のような時分が直接動いてなにかするタイプの能力を鍛えたほうが、長く有効的に使える。
魔法もその1つだ。
「自己鍛錬の極みである君がこの様子じゃ、あんまり意味はなさそうだ」
そう言って、カイキノカミに追撃を命じる。
私は迫りくるカイキノカミの動きをよく見て躱し、反撃として腹に浅い斬撃を当てると、すぐに距離を取る。
すぐに開いた距離を詰めようとしてくるが、《ゼロノツルギ》の力で冷気を飛ばし、ヤツの体を凍らせた。
「凍結は効くの…?」
「ブラビアアアアアアアア!!!」
「そんな美味い話は無いか…!」
氷漬けにされたカイキノカミだったが、簡単に氷を砕いて攻撃してきた。
剛腕が振り下ろされ、私の体を掠る。
余波だけでも飛ばされそうな威力を持っているのだから、さっき受け止めたのは相当な悪手。
やはり躱すのが正解。
とにかく攻撃を躱すことに全力を注ぎ、少しずつカイキノカミの体に傷をつけていく。
「無駄な抵抗はよすんだ。君じゃ勝てない」
「うるさいわね!私が勝てなくて、誰が勝てるって言うの!?」
私でダメなら『紅天狗』でも無理だ。
もちろん『青薔薇』や『牡丹』も無理。
この二人は私よりも弱いし、『紅天狗』は装備の差であの時は勝てたに過ぎない。
本当に私より強いのは『天秤』だけだ。
「君以外の誰が勝てるかって?そんなヤツいないよ。『紅天狗』も『天秤』も、僕には勝てないんだ!」
自信に満ち溢れた返答。
自己中心的で勘違いも甚だしい応えだが……『カミ』を支配した前例がある以上、逃げられるとどうしょうもない。
カイキノカミ。
コイツなら私や『天秤』が対応できる。
だが、アラブルカミを連れてこられたら終わりだし、私の知る限り最も凶悪なカミを支配されたら人類の存続が危ぶまれる。
ここで倒さなければ……本当に世界がコイツのものになってしまう。
「……かの存在は、それを望んでいるの?」
とてもそうは思えない。
早川照が世界の支配者になる様子を、神の視点から見てどう楽しむのか?
私にはそれが理解出来ない。
他の人間では駄目なのか?早川以外は物語を面白くするための要素でしか無いのか?
……いや、違う。
「やはり、私はここで勝つべきではないのね」
「ようやく理解できたのかい?」
「ええ。とはいえ、負けるつもりもサラサラ無いけれ、どッ!!」
瞬間的に魔力を解放し、一瞬だけ凄まじい力を手に入れる。
その技法を使い、カイキノカミの体を切り裂く。
「所詮はただ硬いだけの木偶。守りを突破できるのなら、デカイ的でしか無いのよ!!」
「ビブアッ!?」
傷口に剣を突き刺し、中で強烈な冷気を放つ。
すると、その部分が凍りつき、凍傷を起こした。
実体を持つ相手だからこそ効く技だ。
「そのまま全身凍りつけ!!」
魔力を剣に集中し、大量の冷気を体内へ送り込む。
この程度で『カミ』を殺せない事など100も承知。
狙いは活動を停止させること!
少しずつカイキノカミの体が白くなり、凍傷の範囲が広がっていくのが見える。
このまま腹部を凍らせて、少しずつ体を凍結させればっ!?
冷気を司る《ゼロノツルギ》が熱を帯びるなんてあり得ない事。
もしそんな事があるとすれば……
「《怪奇》ってのは……そういう事か!!」
急いで剣を引き抜き、カイキノカミから距離を取る。
すると、さっきまで凍っていたはずの腹部が溶け始め、それどころか全身に炎を纏っている。
『カミ』が持つ特殊なスキル《神威》
アレはその一端だ。
「《ゼロノツルギ》がこんなに高熱を発するなんて……っ!?」
冷気を発さなくなった《ゼロノツルギ》を構え、相手の動きを伺っていると、突然地面に足が沈み込んだ。
「なにこれ…?」
アスファルトがまるで低反発クッションのように凹み、そこに足が取り込まれている。
カイキノカミや早川もその影響は受けているようで、カイキノカミはともかく、早川もこの状況に混乱している様子。
「確かに怪奇現象だけど……ここまでなんでもありか!?」
そのうち空から槍が降ってきそうだ。
これがカイキノカミの力。
……骨が折れそうね?
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