第111話 乱戦

サラマンダーの群れとの戦闘を開始して10分。


私と町田さんで気を引いて、沢山のサラマンダーの注意がこっちに向いている間に、かずちゃんと杏が一体を確実に倒そうとしていた。


「あっつ…50度くらいある気がしますね?」

「こんな気温が上がるなんて……こいつらがいる階層はどんな所なの?」

「マグマが流れる火山地帯だそうですよ?炎を使うモンスターが多いそうです」


なるほど、通りであっついわけだ。


にしても……大型トラック並の巨体を持つモンスターを4体引きつけろって、相当な無茶振りよね。


私じゃなきゃ誰もやらないでしょ?


そんなくだらない事を考えていると、回り込んできていたサラマンダーが私を狙って腕を振り下ろしてくる。


「おっと?」

「よくそんなに平気な顔出来ますね?私なんて、ずっとヒヤヒヤしてるのにっ!?」


私と話すのに釣られて、注意力が散漫になった町田さんが、サラマンダーの攻撃をギリギリ回避する。


めっちゃ冷や汗流してるのが見えたので、かなりやばかったらしい。


「し、死ぬかと思った…!!」

「町田さんは防御スキルが無いからね。私は《鋼の体》があるから、あの程度じゃ死なないよ?」

「余裕の理由はそれですか……」


《鋼の体》の防御は結構硬い。


その効果があるというのは、かなりの精神的余裕を作る要因になり、私は戦場で多少危険な動きもできるし、常に冷静でいられる。


精神論はダメってよく言われるけど、健全な精神が無いとここぞという時に、正しい判断が出来ない。


だから、普段から精神論で動いて強い心を鍛えておかないと、ダメ。


『いやいや、今時精神論とか無いわ〜。いつの時代の話ししてるの?』とか言いながら、メガネをカチャってするタイプの人間は、冒険者の死亡率を高める理由になるんだよ。


「私はなんとかなるけど…町田さんは長引くほど大変そうね」

「多分脱水症状で倒れますよ。汗がヤバイ…」


気温が上がっている影響で、町田さんの汗の量がおかしい。


そのうち脱水症状で倒れるよ、コレ。


かずちゃんと杏の方へ目をやると、もう少しで倒せそうという雰囲気がある。


「とりあえず、もう少しで一体倒せそうだよ。もう少し耐えて」

「その“もう少し”ってどれくらいですかね!?」


『もう少し』という言葉に期待していない町田さんと、ひたすら逃げ続ける。


私達の命運は、かずちゃん達にかかっている。


チラチラと様子を見ながら、走り続けた。





             ☆ ★ ☆





「シッ!!」


高速で刀を振り抜き、サラマンダーの体を切り裂く。


今までで一番深く入り、サラマンダー

かなりダメージを負った様子。


「終わりよ!!」


そこに浅野さんが飛び降りてきて、サラマンダーの脳天を貫いた。


サラマンダーが悲鳴を上げ、大きく痙攣した後、ボロボロと体が崩れだす。


討伐を確認し、私達は次のサラマンダーに狙いを定める。


するとでも討伐に気が付いた愛が悲鳴を上げた。


「せんぱ〜い!!助けてくださぁ〜い!!」

「町田!もう少し耐えろ!!」


汗まみれで、もう限界といった感じだ。


私としては、あのバカの滑稽な姿が見れて嬉しいけれど、倒れられては困る。


私達のところに来たサラマンダーは合計5体。


そして、いま1体倒したから残り4体。


どうやら咲島さんが早川を探すついでに大半を倒してくれたようで、数は少ない。


これなら…1人1体いかるかな?


「浅野さん、1人1体で戦うのはどうですか?」

「まあ…出来なくはないでしょうね。その場合、町田の負担が大きいけれど……なんとかなるでしょう」


浅野さんに相談してみると、多分いけると言ってもらえた。


よし、1人1体担当で効率よく終わらせよう。


「神林さん!!愛!!1人1体担当で、すぐにやるよ!!」

「えっ!?正気!!?」


何故か、愛がめちゃめちゃ反応してきた。

ナンデダロウナー


浅野さんと神林さんは、全くそんなの気にせず1体釣って、戦闘を始める。


私も愛を追いかけていたサラマンダーを1体釣って、戦闘を始める。


「さて…一対一だ…」


私に対して威嚇してくるサラマンダーの様子をしっかり観察する。


私が一歩も動かないでいると、サラマンダーは凄まじい初速で襲い掛かってきて、私のことを噛み殺そうとするが…しっかり観察していた私は、それを見ている。


迫りくるサラマンダーをスッと避け、すれ違いざまに切り裂く。


その刃は、私の想像よりも深く入る。


サラマンダーも動いていたこともあり、ちょっとダメージを与えるつもりの攻撃が、かなり食い込んで大ダメージを与えることが出来た。


「ふ〜ん?一人でも、全然殺れそうだね」


刀を構え直すと、痛がるサラマンダーを睨みつける。


このまま攻め続ければ、そのうち殺せるだろう。


ズタズタに引き裂いて、早く血を飲みたい………ん?


「なに…?なんか変な感じがする…」


おかしい……私は普段、こんなに『殺す』とか『痛めつける』とか考えてないはず。


……この刀が、私に余計な思念を送り込んでるのかな?


それはちょっと怖いね。


使い過ぎには気を付けて、ダンジョン帰りには、神林さんカウセリングを受けてみよう。


私が私じゃなくなったら、神林さんが悲しむし。


でもこれは……?


「……なんか、すごく調子がいい?」


少しずつだけど、確かに強くなってる。


これ……これも刀の能力なのかな?


試しにこちらからサラマンダーに攻撃を仕掛けてみると、いつもよりも早く動けて、一気にサラマンダーの体をズタズタにする。


「強い……これで、勝ち!!」


サラマンダーの首を切り落とし、戦闘に勝利する。


その瞬間、急に体が熱くなって、力が湧き上がってきた。


それと同時に、どんどんモンスターを殺したいという、殺傷欲求が高まってくる。


「そうか…!これ、《吸血》の効果だ!!」


戦闘力の上昇と、好戦的になるという精神影響。


一人で勝手に納得していると、神林さんと愛が苦戦している様子が見えた。


これは……私が戦闘に参加してもいいって事だよね?


アレをズタズタにしてもいいんだよね…!


「神林さん…今助けます!」


そう呟いて私はサラマンダーに背後から飛び掛かった。





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