第112話 一方的な戦闘

「その首……貰ったッ!!」

「っ!?」


突然サラマンダーの背後にかずちゃんが現れて、サラマンダーの首を切り裂く。


その威力は凄まじく、大型トラック並の巨躯を持つサラマンダーの、大木の幹のような首が一発で切断された。


……ただ、私が注目したのはそこじゃない。


「かずちゃん…?どうしたの…?」


完全に目がイってる。


表情がシリアルキラーのそれだ。


しかも、サラマンダーの首を切り落として、私が声をかけた直後、恍惚とした笑みを浮かべ、すぐに次の獲物を探すように高速で振り返る。


「愛ぁ……アイツも一緒に斬っちゃおうかなぁ…?」

「それはダメよかずちゃん。それにどうしたの?様子が変よ?」


町田さんまで斬ろうとするかずちゃんを抑えようと声を掛けると、すごい勢いで振り返って私の目をじーっと見つめる。


そして、ニマァっと少し気味の悪い笑みを浮かべ、キスをしてきた。


「えへへ〜。神林さん、後でいっぱいイチャイチャニャンニャンしましょうね〜?」


様子のおかしいかずちゃんに何も言えず、呆気に取られているとすぐに走り出して、町田さんが戦っているサラマンダーに飛び掛かった。


そして、一瞬で尻尾を切り落とすと、流れるように両後ろ脚、両前足を切断し、身動きが取れない状態にしてしまった。


「ふふふ…さぁ~てさて?どうやって調理してあげようかなぁ?」


サラマンダーの背中は日が吹き出している。


でも、頭まではそうでもない。


かずちゃんはサラマンダーの上に立ち、舌舐めずりをしながら恐ろしい表情をしながら見下ろしている。


その光景に、四肢を切断され、自由を奪われたはずのサラマンダーは、完全に怯え切って全く暴れようとしない。


かずちゃん…なんて恐ろしい娘!!


「面倒だし、普通に斬っちゃおう。えいっ!」


軽いノリで刀を振ると、サラマンダーの首がかなり深く切れる。


「えいっ!えいっ!え〜い!」


何度も刀を振り、少しずつ首を切断していく。


行為は残虐そのものなのに、かずちゃんの表情は善悪を知らない子供のような、無邪気な顔をしている。


あっという間にサラマンダーの体が崩れ始め、途端につまらなそうな表情を見せる。


まるで、サラマンダーを痛めつけて殺すことを楽しんでるみたいだ…


「さぁ~て、残りの1体を……あれ?」

「倒し方が分かれば簡単ね。怯ませて脳天を突き刺す。まあ、どんなモンスターでも同じか」


杏がそんな話をしながらこっちに近付いてきた。


怯ませて脳天を突き刺す。


そんなことをされたら、モンスターどころか大抵の生物は死ぬ。


私だって死ぬ。


でも、確かに倒し方が分からないモンスターを倒すには、一番確実な方法かも?


そんな事を考えていると、かずちゃんがすごい顔で杏を睨んでいる。


「私がやりたかったのに…!」

「ごめんね?でも、他にもモンスターは沢山いるし、それを狩ったら?」

「そうする…!」


泣きそうなかずちゃんを簡単に諭す杏。


私よりもかずちゃんの扱いが上手いように見えるのは気の所為?


「行きますよ、神林さん!」

「え?う、うん…」


すぐにモンスターを狩りたいらしいかずちゃんは、私が返事をすると凄い勢いで走り出してしまった。


私達もそれに続くように走るが、異様に早い。


全力で走ってるのに中々追い付けず、むしろ突き放されているような気がしてならない。

そんな速さだ。


そして、モンスターを見つけたかずちゃんは、何か呟いて更に加速した。


「みいつけたぁ…!!」

「なっ!?」

「速っ!?」


凄まじい速度でモンスターの群れに突っ込んだかずちゃんは、バッタバッタとモンスターを斬り伏せていく。


その顔はとても楽しそうで、心の底からモンスターを倒すことを楽しんでいることが伺える。


「あの…一葉ってあんなにヤバイ奴だったんですか?」

「いや…なんか様子がおかしくなってる。普段はあんなに喜々としてモンスターを狩るような子じゃないんだけど…」


町田さんにドン引きされてるかずちゃんの名誉をなんとか回復しようとするけど……それ以上に暴れ散らかしている。


私もちょっと引いてるんだけど…かずちゃんの為にも私が理解してあげないと。


なんとかアレを理解しようとしていると、杏が呟くように独り言を言い出した。


「そうか…《吸血》の影響ね?」

「《吸血》?」


そんなスキルあったっけ?


私がかずちゃんのスキルを知らないとは思えないし……どこでそんなスキルを?


「あの刀、《吸血》ってスキルがあったでしょう?あれ、武器についてる場合だと、敵を倒せば少しずつステータスに上方補正がかかるってスキルなんだけど……ステータスの上昇に合わせて、攻撃的な性格になるの」

「つまり、《吸血》の影響でおかしくなってるってこと?」

「そうね。でも、それは戦闘力も上がってるって事だから……まあ、味方まで攻撃しない程度なら、放置でいいんじゃない?」


デメリットありの強化スキルか…私達の誰よりも速く走れたあたり、その強化能力は凄いんだろうけどなぁ…


あのモンスター、全部かずちゃんに任せてみる?


「あれ、全部かずちゃんに任せてみる?」

「吸血強化が凄いことになって、手がつけられなくなるかも知れないけど………多分、ここで見てるだけで終わるわよ?町田はどう思う?」

「そうですね……サラマンダーとの戦闘で疲れたので、ちょっと休みたいです。任せてもいいんじゃないですか?」


かずちゃんに全ての戦闘を任せ、私達は様子を見る。


あの状態のかずちゃんは、『花冠』の松級並の戦闘力があるだろうし……かずちゃんのやりたいようにさせてあげよう。


……とはいえ、アレをさせると私とかずちゃんのレベル差が広がるのよね。


これが終わったら、ソロでいいからレベリングに行かないと。


「かずちゃ〜ん!そこの戦闘は任せていい?」

「任せてくださよ!ぜ〜んぶ私が倒してあげるので、そこでみててくださ〜い!!」


かずちゃんもノリノリだ。


多分、本当に一人で殲滅してしまうだろう。


杏と町田さんは少し離れたところで雑談しながら待つらしい。


私は……念の為、ここで様子を見ることにした。


そして、たまに襲い掛かってくるモンスターを蹴り殺しながら、かずちゃんがモンスターを殲滅し終えるのを待つことにした。




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