第108話 サラマンダー

―――――――――――――――――――――――――――


種族 モエルウロコ

レベル90

スキル

  《鋼鱗》

  《炎纏》

  《炎の吐息Lv7》


――――――――――――――――――――――――――


流石は75階層で出てくるモンスター。


レベル90なんて、格上のステータスをしている。


「こいつ…!硬い!!」

「町田!お前は相性が悪い!!お前は回避盾をしろ!!」


ナイフ二刀流の町田さんでは、硬い鱗を持つサラマンダーとは相性が悪い。


私もパンチは効かないだろうし……私も同じく回避盾になろう。


「う〜ん、流石の斬れ味!」

「その刀どうなってるの?絶対アーティファクトでしょ?」

「ふふん!上級アーティファクト。しかも成長と耐性の両持ち」

「はあ!?なにそれ!?」


アタッカーのかずちゃんと杏が、雑談しながらサラマンダーの体を斬り裂いていく。


私と町田さんでサラマンダーの注意を引き、回避盾として2人に攻撃が行かないようにしている。


ただ、二人の話を聞いてから少し動きがぎこちなくなった。


でも、結果的に大した問題にはならなかった。


「よし!撃破!」


綻びが生まれるより早く、かずちゃんがサラマンダーを倒してしまったのだ。


「スキル両持ちの上級アーティファクト…?」

「町田さんも気になる?」

「当たり前じゃないですか!スキル両持ちの上級なんて……値段が付けられないレベルの超貴重品ですよ!?」


値段が付けられない?


私にはその強さがいまいちわからないね。


ただ壊れにくいアーティファクトじゃないの?


「いいですか?まず《破壊耐性》のスキルは、本当に壊されなくなるスキルなんです。このスキルを持つアーティファクトが壊されたなんて話、聞いたことありません」

「へぇ〜?すごいね?」

「なんでそんなに反応薄いんですか……ゴホン!そして、《成長》のスキルは文字通りアーティファクトが成長するんです。より強力に、より使いやすく、持ち主に適応するように成長します」

「……つまり、使い続けると自分の戦い方に合った武器になるってこと?」

「そういう事です」


《破壊耐性》は

アタッカーのかずちゃんで例えるなら、一撃の火力が高くなるように成長するって感じかな?


逆に、よく守りに徹する人が使えば、守りに使いやすい形に変化する。


多分、そういうスキルなんだろう。


「理解できましたか?元々数億の値が付く上級アーティファクトに、どちら1つでも付いていれば価値が数倍から数十倍に跳ね上がる《成長》と《破壊耐性》が付いているんです。最上級アーティファクト並で取引されてもおかしくありませんよ」

「凄いわね。もし冒険者を引退する時は、アレを売ったらその後の人生は安泰ね」


まあ、かずちゃんがアレを手放すかは別として…


「一体倒した所で他にもまだまだ居る。それを私達で討伐するわよ」


私達の会話が終わったことを見計らって、杏が次のサラマンダーを倒しに行こうと言い出した。


……でもこの気配は―――


「……多分、あっちから来てくれてるみたいだけど?」

「そうね。……ちょっと数が多いのが気になるところではある」


サラマンダーを倒してから、付近の強力なモンスターの気配が、一気にこちらに集まってきた。


多分、他の場所に居たサラマンダーだろう。


でもなんで急に集まってきたんだろう?


「さてさて…ここからが本番ですね」

「え?」

「気を引き締めろ。相手はレベル90の群れだ」

「えっと…?」

「ヘイト管理は任せてください。先輩」

「ねぇ…何の話?」


私を置いてけぼりにして、3人の間で話が進んでいる。


本当に何の話をしてるの?


「あっ!そう言えば、神林さんにはまだ話してませんでしたね?サラマンダーことモエルウロコは、一体でも倒すと、同じ階層に居る全てのモエルウロコが襲い掛かってきます。なので、これからスタンピードで外に出てきたモエルウロコが全部ここに来るので、気を引き締めて下さい」

「はぁ?………はあっ!?」


モエルウロコが全部ここに来るですって!?


そ、そんなの聞いてないわよ!?


「逃げたほうがいいんじゃ…」

「残念ながら、階層間移動以外でサラマンダーを巻いた試しはないわ。諦めて構えて、紫」

「杏……あなた知っててかずちゃんをサラマンダーの討伐に…!!」


かずちゃんもサラマンダーの特性を知っていたようだし、知らなかったのは私だけ。


3人で私をハメて、制圧に参加するという言質を……


「神林さん。今更ナシなんていいませんよね?」

「言うつもりはない。でも、無理矢理連れて帰る」

「それはダメです!私も神林さんも、サラマンダー討伐に関与しました。私達が逃げれば、それだけ被害が広まります!」


言質を取っただけでなく、何も言わずサラマンダーを倒して私がかずちゃんを連れて逃げられないようにするなんて……


「……終わったら高級焼肉奢ってね」

「紫に恨まれるのは折り込み済みだよ。好きなだけ食べて」

「はぁ……これだからかずちゃん以外と冒険者業をするつもりはなかったのに」


かずちゃんは子供だから操りやすい。


私の言われるがままに動き、私とだけ過ごしてくれればいいモノを。


中途半端に賢いと、予想外の動きをするから面倒くさい。


そして、杏に余計な知恵を吹き込まれたらしい。


「かずちゃん」

「はい、なんですか?」

「帰ったらお仕置きね?」

「……今から許してもらえるよう甘えておきます」


そう言って、サラマンダーがすぐそこに来ているのに、私に擦り寄ってくるかずちゃん。


犬と猫の可愛いところを両方足したような可愛さを持つかずちゃんが、今日ばかりは犬と猫の両方の悪いところを持っているように見えて、許す気にはなれなかった。


……まあ、お仕置きと言っても、何か酷いことをするつもりは、これっぽっちも無いんだけどね?


「こんな状況でイチャイチャしないで。一葉ちゃんはこの中で一番のアタッカーなんだから」


私に体を擦り付けてくるかずちゃんを撫でていると、杏に怒られた。


仕方なくかずちゃんを離し、私も拳を握りしめる。


そして、ビルを壊しながら迫りくるサラマンダーの群れと戦闘を開始した。









――――――――――――――――――――――――


面白いと思った方は☆やコメントで応援していただけると励みになります!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る