第101話 邪悪への挑戦

気配の位置から地下室があると見て、入念に隠し扉や隠し蓋がないか調べていると、変な位置に掛け軸があるのを見つけた。


「……これですよね?」

「見るからに怪しいわね」


明らかにここでしょという位置に、明らかにこれだろという掛け軸。


試しに掛け軸を引っ剥がしてみると、そこには隠し扉があった。


顔を見合わせ、お互い頷くと慎重に扉を開け、中へ入る。


「こんな設備まで用意されてるのか…」

「本当に拠点ですね……っ!?神林さん!」

「わかってる!」


前方の角から強力な何者かの気配を感じる。


ここまで接近されるまで気付けなかった感じ、おそらく相当な実力者だ。


かずちゃんが戦闘態勢をとり、私も《鋼の体》の強度を大幅に上げて、迎え撃つ準備をする。


私達がこちらへ向かってくる存在に気付き、構えたことを悟ったのか、相手も隠密かなにかで気配を隠すことをやめ、堂々と角から現れた。


「若様の敵……ここでその命、散らすといい」


現れたのは、見た目40歳ほどの顔つきをした、大柄な男。


服の上からもわかるほどの筋肉の装甲を持ち、両手に剣を握っている。


そして、纏うオーラは咲島さん、『紅天狗』、早川に並ぶ、レベル100超えの強大な気配。


まるで、武神が人の姿を借りてこの世に現れたかのような、とんでもない力を持つ男だ。


「神林さん。ステータスです」

「ありがとう」


男のステータスを抜いたかずちゃんが、それを共有してくる。


――――――――――――――――――――――――――――


名前 元山雄介

レベル106

スキル

  《剣豪》

  《魔闘法Lv6》

  《探知Lv6》

  《隠密Lv6》

  《魔法攻撃耐性Lv2》

  《物理攻撃耐性Lv2》


――――――――――――――――――――――――――――


すごいステータスだ…一対一なら絶対勝てなかっただろうね。


それに何より……


「こいつ…《傀儡化》を受けてないのか…」

「つまり、自分の意志で早川に付き従っていると……なんで、そんな事を?」


男は傀儡化されていない。


つまり、早川へ従っているのは自らの意思だ。


早川がどんな人間か、こいつだってよく知っているはず。


かずちゃんの問いに対し、男は表情を変えず返す。


「俺の一族は代々早川家に仕えてきた。俺もそのうちの一人。それだけだ」

「生まれついて、そっち側の人間ということね…」


早川家を守る一族。


うちも昔は居たらしいけど、今は居ない。


まあ、必要ないからね。


そんなことより……


「レベルはおよそ80といったところか?そして濃密な魔力…高レベルの《魔闘法》。流石は『氷華』の駒だな。……まあ、俺の敵ではない」

「「っ!?」」


凄まじい速度で距離を詰めてくる男。

―――元山といったほうが良いかもね。


元山はレベル差を活かし、純粋なステータスで押し切るべく、両手の剣を振り、とてつもないパワーを持った斬撃を繰り出してきた。


かずちゃんは《魔闘法》で身体能力を強化して対応するが、私は対応出来ず《鋼の体》で受ける。


「防御スキル…若様の言ったとおりだな」

「くっ!!」


《鋼の体》で直接のダメージは抑えたが、衝撃までは防げない。


とっさに前に出した腕が衝撃で震え、力が入らない。


「シイッ!!」

「それは甘いな」


私に気を取られた隙に、かずちゃんが反撃の一太刀を振るうが、片手で防がれる。


やはりステータスの差が厄介。


いくら魔闘法や人数差で押そうにも、そもそもの強さで負けているのなら話にならない。


重装甲の戦車に、剣を持った人間が何人突っ込んだところでどうしょうもないのと同じだ。


……かずちゃんや咲島さんなら、重装甲とか全く気にせず切り裂きそうだけど。


「くっ!ううっ!?」

「中々の剣の腕だ。努力の剣、嫌いではないぞ」


二刀流の剣士が、片手でかずちゃんを圧倒している。


もう片方の手は、私の対応だ。


かずちゃんの《抜刀術》のレベルはかなり高い。


それなのに、片手で抑えてしまう圧倒的な剣術……《剣豪》のスキルか。


「お前は邪魔だな。少し離れろ」

「なっ!?」


《剣豪》のスキルについて考えていると、突然凄まじい蹴りを食らい、吹き飛ばされる。


その隙に元山はかずちゃんとの戦闘を本格的に始めた。


「悪くないな。ひたすら努力を積み重ね続けた剣。俺の好きなものだ」

「それは良かったねッ!!私は才能で上り詰めたヤツは嫌いだよ!!」

「威勢も十分。ここで殺すのが本当に惜しい」


なんとか抵抗を試みるが、まるで話にならない。


あまり剣に才能のないかずちゃんでは、元山と剣で正面から戦って勝ち目はない。


抵抗虚しく、体に傷が増えていく。


「かずちゃん!一人で戦っちょ駄目!!」


急いで間に入ろうとするが、元山はかずちゃんを押しながら私の接近を妨害してくる。


ヤツの制空圏入った瞬間、凄まじい速度で剣が迫ってきて、後ろへ飛んで逃げざるを得なかったのだ。


あの威力、《鋼の体》を突破されかねない。


だから、不用意に近づけないんだ。


でも、私は接近戦しか出来ない。


「くっ!背に腹は代えられない!!」


ダメージ覚悟で突っ込むが、元山は顔色一つ変えず対応する。


予想に反して《鋼の体》は一撃耐えてくれたが、次はないだろう。


無理やり私の間合いまで詰めると、元山の顔目掛けて拳を振り上げる。


しかし……


「くっ!?」

「甘いんだよ。お前達は」


私がパンチを放つより早く、元山の裏拳が私の顔面を捉える。


ダメージは無いとはいえ、いきなり顔に拳が迫ってくれば、動きが鈍る。


それを見逃してくれるほど、元山は優しくない。


「くうっ!?」


さっき攻撃されて防御が薄くなったいた場所を斬られ、出血した。


それを見た元山は、私の防御が完璧ではなく、攻撃が通ることを理解してしまった。


「やはり同じ位置の攻撃は通るようだな。ならば、お前の討伐は容易い」

「っ!!」


かずちゃんを膂力で弾いた元山が、雷のような2連撃で私の首を攻撃してきた。


その2連撃で首の《鋼の体》がごっそり削れ、カッターナイフでも突破できそうなぐらい薄くなった。


元々他よりも厚めに纏っておいて本当に良かった……


「離れろ!!」

「ふん…」


回し蹴りで攻撃し、元山に回避を強制すると、すぐに反対の足で後方へ飛ぶ。


その瞬間、かずちゃんが背後から斬り掛かってきたため、元山はそっちへ対応を変更したが…すぐに私を狙い始めた。


かずちゃんと連携しながら戦うために、焦って前に出た事が裏目に出たらしい。


「腕の1本や2本!!うぐっ!?」

「ほう?大した胆力だ」


首を狙った双剣による2連撃を、腕を犠牲にして防ぐ。


骨が半分切れるほど深くやられたが、なんとか首への攻撃は回避した。


私を攻撃した事で生まれた隙。


私はそこに賭けて、腕を犠牲にしながら思いっきり前に出る。


「うわああああああああああ!!!」

「いい雄叫びだが…無意味だ」

「くっ!?」

「なっ!?」


完全に隙を突いたはずのかずちゃんの一撃は、それほど腕の深くまで入っていなかった方の剣を抜いて防がれ、私の突進も簡単に受け止められる。


捨て身の攻撃は失敗。


未だにこいつには切り傷1つ負わせられていない。


格の違いというものを思い知らされるとはこの事だろう。


かずちゃんは、絶望から表情を歪ませ、私は焦りから冷や汗を流すのだった。

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