第100話 襲撃計画その3

襲撃計画の配置についた私達は、その時をワイワイ雑談しながら待っていた。


「何したらそんなに短時間で強くなれるの?」

「レベルが上のモンスターを狩ることかな?」

「ジャイアントキリングかぁ……でも、それで貰える経験値って、微々たるものじゃなかったけ?」

「確か、対して変わらないはずだよ。100人の冒険者で検証してたけど、普通はレベルが10上がるところが、11とか12くらいらしいし」


ここに居る人達はみんな『花冠』の暗殺者らしい。


暗殺の仕事がない時は、通常業務をやってるかダンジョンに潜って自己研鑽に励んでるんだとか?


つまり、普段は冒険者であり、同業者にしてライバル。


それは相手も同じことだから、新進気鋭の私達からなんとか成長の秘訣を聞き出そうと、ずーっと話しっぱなしだ。


「日々の生活になにか秘訣があるとか?」

「いや?普通の生活を送ってるけど…」

「じゃあ、恋人が居ることが大事だったりするのかな?」

「複数人だと、人数分経験値が分割されるから、あんまり関係ないと思う」

「そもそもそのレベルアップの速さの理由って、あなた達は把握してるの?」

「それが……把握できてないの」


このレベルアップの速さの理由は未だにわからかないし、咲島さんに聞こうとしても、色々あって未だに聞けてない。


…今日なんて、聞こうとしたら意味わかんない理由でキレられて、それはもうイライラした。


その事を『花冠』のメンバーに伝えると、『聞けばよかったじゃん』と、文句が殺到した。


あの状況は聞けないって…


止まらない質問に困っていると、私達が待機している班のリーダーがやって来て、パンパンと手を叩く。


「はいはい。お喋りはそこまで。あと5分で出発よ。さっさと準備して」


その言葉に全員が私の元を離れ、各々準備に取り掛かる。


ようやく開放された私は、私とは別の場所で同じ目にあっていたかずちゃんを回収して、準備の最終確認をする。


「ひ、酷い目にあいましたよ…」

「お疲れ様。持ち物の確認はした?」

「そんな遠足じゃないんですから…持っていくものなんて、武器とポーションだけですよ?確認するまでもありません」

「かずちゃんがそれをアイテムボックスに入れ忘れるとは思えないわね。なら、大丈夫か」


心配性の私は、もう一度アイテムボックスの中身を確認すると、リーダーの元へ駆け寄る。


「神林紫と御島一葉だな?お前達は徒歩だな。ランニングで来た体を装って建物へ接近しろ」

「徒歩?車で行く距離ですよ?」

「冒険者ならそれくらい走れ。体力は有り余ってるだろう?」


かずちゃんが抗議するが、リーダーは聞く耳を持たない。


結局走って行くことになり、かずちゃんのテンションはダダ下がりだ。


途中ジャージに着替えてそれっぽさを出すと、夜のランニングのつもりで公園へ走る。


冒険者としての筋力とスタミナを駆使して、車で行くような距離を、車と何ら変わらない時間で走りきった。


「で?これからどうするんですか?」

「とりあえず、合図が出るまでそれっぽく外周をランニングしましょう。ほら走って」

「は〜い」


適当にお喋りしながらランニングを続けること10分。


体がだいぶ温まってきたなぁ、なんて考えていると、合図が来た。


私とかずちゃんは、できる限りの隠密をしながら建物へ接近する。


すると、中で誰かが戦っている気配があり、私達も正面から突入した。


「くそっ!こっちにも来やがった!」

「こいつ等後ろの奴より強え!!正面玄関から逃す気はないってか!?」

「やってやろうじゃねえかこの野郎!!」


入ったすぐに早川派の人間とかち合い、すぐに戦闘へ入る。


かずちゃんはまるでモンスターと戦うときと何ら変わらない様子で戦っている。


私はと言うと、まだ少し抵抗はあるが、咲島さんの采配ですでに人殺しを経験し、それを何度もした事があるため、足を引っ張る事はなかった。


「くそっ…!どうなってんだ……なんでこんな事に!!」

「それは、あんたがついて行く人を間違えた結果だね。恨むなら、自分の人を見る目の無さを恨みなよ〜」

「ま、待って――――」


命乞いをする男を斬り伏せたかずちゃんは、警戒を1段階上げて周囲の気配を探る。


こっちに逃げてくる奴が居ないかの探知をしてるようだ。


「あれ?制圧されてる」

「これ、私達の仕事ない感じ?」


遅れでやってきた暗殺者が、私達を見てそんな事を言い出した。


この人たちが、本来の正面玄関を抑える役なのかな?


「ここは私達が抑えとくから行っていいよ。仕事変わってくれてありがと」

「監視はこっちでやっとくから。行ってらっしゃい」

「わかりました。さあ、行きますよ神林さん」

「ええ」


正面玄関はあとから来た人達に任せ、私達は先を急ぐ。


かなり薄いが、早川らしき気配もある。


ここで畳み掛ける為にも、他に早川派の人間が居ないか警戒しつつ、先を急いだ。





           ☆ ★ ☆





―――??視点―――


「攻撃が開始されました」

「見たらわかるわ。雑魚の露払いは順調そうね」

「滞りなく」


早川派の拠点が見える、公園の遊具ゾーン。


その中の遊具の1つ、ジャングルジムの上に一人の女性が立っていた。


「私の出番は、まだなのよね?」

「封印装置が作動していないので、もう少し後かと……」

「ふ〜ん………それはそうと、その口調どうにかならない?」


ジャングルジム上の女性が、自分に話しかけてくる女性に、口調を変えるよう抗議する。


しかし、その頼みは首を横に振られ、拒否された。


「かっこ良くていいではありませんか。それを言うなら、そのすぐ高い位置から見下ろそうとする癖を何とかされては?」

「これは私の趣味よ。癖じゃない」


反撃を食らった事に不快感を示しながら、趣味だと言い張る。


それに対し、溜息がどこからか聞こえたが、聞かなかったことにする。


「私が行ったほうが早いと思うけど…」

「転移で逃げられては元も子も無いでしょう?まずは奴が対応できる程度の戦力で攻めるという作戦ではありませんか」

「知ってるよ。装置が作動するまで暇ね?って話」


ジャングルジムを飛び降り、体を伸ばす。


その様子を見て、また溜息が聞こえた。


「我々の最高戦力ともあろう貴女様が、そんな緊張感のない様子でよろしいので?」

「どの口が言うか。あなただって、ナンバー2じゃない」


緊張感のない様子というのは二人共であり、もしここに他の構成員がいれば、少しばかり不安になった事だろう。


だが、誰も居ないから問題ないとばかりに、ふざけ合う二人。


「一応お聞きします。『青薔薇』様。準備はよろしいでしょうか?」

「問題ないわよ。『牡丹』」


名前ではなく、コードネームで呼び合う。


『花冠』の最高戦力の1位と2位。


『青薔薇』と『牡丹』は、自分達の出番はまだかと、暇を持て余すのだった。




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