第99話 襲撃計画その2
「おじいちゃんが情報提供者?…知っていること、全て吐いてもらいますよ」
今にも掴みかかりそうな勢いで、咲島さんにそう言い放つ神林さん。
そんな神林さんの後ろで、私は火の粉がこっちまで飛んでこないように小さくなって隠れていた。
「知っていること、ね……そう言っても、私だってついこの前知ったのよ。だから、今分かっている範囲だけでいいかしら?」
「それで構いません。ですが、決して嘘はつかないでください」
いつもは慎重な神林さんが、咲島さんに対して全く物怖じせず強気な言動を繰り返す。
その異様な光景に圧倒され、私に出来ることはないので更に小さくなって隠れる。
「あなた達は不思議に思わない?どうして神林家のお膝元に、早川の拠点があるのか?」
「それが気になるから今こうして聞いているの。早く話を進めてください」
「せっかちだね。……先に言っておくと、神林賢人は早川の拠点があの場所にあったことを、ずっと前から知っていた。知らなかった訳では無いんだよ。その事を念頭に置いてね?」
「……わかった」
賢人さんは、早川の拠点があることを知ってたのか…
なら、なんで私達に言わなかったんだろう?
……いや、理由は明白か。
「神林賢人は、あそこに拠点があることを知っていて、その事を誰にも共有してはいなかった。当然だ。早川自身も恐ろしいし、『財団』の後ろ盾もある。下手に話して情報が漏れ、家を潰されたらたまったものじゃないだろう」
「そうね。だから、知っていて話せなかった」
「そう。私があなたの家に行ったとき、あの人はよそよそしかったのは、そういう事なんだろう。『情報がどこかから漏れたのか?』って、気が気じゃなかったはず」
……あの時賢人さんが冷や汗を滝のようにかいていたのは、咲島さんが恐ろしいからじゃなくて、早川に家を潰されるかも知れないという焦りからだったのか。
そりゃあ、あんな風に冷や汗をかくよ。
「まあ、黙っていた事についてはそれで納得がいくとして……何故、拠点が作られている事を容認したのか?それについて、話すべきだと思う」
「……単に圧力を掛けられて訳では無いと?」
神林さんがそう尋ねると、咲島さんは会議室の椅子を1つ出してそれに腰掛ける。
神林さんも椅子を出し、私の分も用意してくれた。
立ってるのは疲れたし、ちょっとゆっくりできるね。
「結論から言うと、神林家と財団―――特に、早川派はグルだ」
「えっ!?」
「……なんですって?」
私の驚きの声のあとに、訝しげな神林さんの声が続く。
咲島さんの嘘を疑ったが、その目を見るととても嘘をついているようには見えない、真剣そのもの。
多分、本当の話なんだろう…
「話を聞く限りでは、神林賢人が現役の時代、『財団』に大きな借りを作っていたらしい。その内容までは教えてもらえなかったけど、あの街に拠点を作ったのは、その借りを返すためだそうだ」
「そんな理由が…」
「その他にも、神林家と早川には昔から繋がりがあったらしく、実は『財団』側でもあったんだ。……まあ、お互い昔縁があった家、としか認識してないみたいだけど」
神林家が、『財団』側…
その事を、神林さんは知らなかったのか…
にしても、まさかこんなところに繋がりがあったなんて……世界は狭いね。
「……ならどうして、おじいちゃんは今になって早川の情報を?」
神林さんが恐る恐るそう聞くと、咲島さんは腕組みをした。
「あなた達が早川に襲われたと聞いて、『もう駄目だ』と思ったそうよ」
「「?」」
「ただでさえ、早川派の計画を一度邪魔したのに、今度は変に警戒したせいで気取られたと勘違いした早川と戦闘。しかも、その時にステータスを盗み見たと来た。流石にこうなってくると、『あの子は知らなかった』と言うだけでは許してはもらえない。最悪の場合、あなたを排除するためにまずは神林家の人間が排除される恐れがあると、神林賢人は思ったそうよ」
つまりは……私達のせい?
「なんとしても家を守りたかった神林賢人は、『財団』を敵に回す覚悟で私達に近付いてきた。そして、早川の情報を提供する代わりに、『財団』に代わって後ろ盾を提供してほしいと頼み込んできた」
「なるほど……『財団』を裏切ったのか」
「そうね。正確には、裏切られたのは早川派だけで、『財団』自体は今後も神林家になにかするということは無いらしい。……そもそも、他派閥からすれば、『誰?』って感じだし」
いや…まあ、そうだよね。
グループの中の一人にずーっと昔に縁のあった人が居て、その人に裏切られたとしても…他のグループメンバーからすれば、「誰?」でしか無いもんね。
なんならその人が仲介役を連れて、グループに謝りにやって来たとしても「えぇ…?」としか言えないだろうし…うん、まあ?
なんとかなってよかったね、神林さん!
「というわけで、『財団』は何か知らないうちに早川が自爆してラッキー、私達は早川の拠点を早期に発見できてラッキー、神林家は危ない縁を断ち切れてハッピー。全員に利のある結果となったよ」
「……状況は理解出来たわ。すごく納得し難いけど」
「ですね。……まあ、良かったじゃないですか?結果オーライですよ?」
複雑そうな表情で頭を抱え、なんだか疲れた様子の神林さん。
私からしたら、『ほえ〜?そんな事になってたんだ〜?』だけど、神林さんはそうじゃないはず。
実は自分の実家が敵とグルで、自分のせいで実家が危うくなったから、仕方なくその敵を裏切ってこっちの味方に助けを求めたという状況。
衝撃の事実過ぎて、頭が追いついてないんじゃないかな?
神林さん、馬鹿だし―――
「痛っ!?」
何故か私の頭に神林さんの拳骨が降ってきた。
なんで?ちょっと悪口言っただけなのに!
……理由は明白。
「とりあえず…実家は無事なんですね?」
「ええ。襲撃拠点を作るのに協力してもらうために、あっちに沢山人員を割いたから問題ないわ。『青薔薇』もすでに配置済みだし、万が一にもあなたの実家が潰されることはないから安心して」
着々と準備は進んでるみたいだ。
なんなら、『青薔薇』まで居るのか……神林さんは誰かわかってないみたいだけど。
『青薔薇』
『花冠』の最高戦力に与えられる称号で、咲島さんに匹敵する実力者らしい。
武装が同じなら、『紅天狗』に勝てる可能性すらあるって言われる化け物らしいし……奴が賢人さんを襲っても問題ないだろう。
ちなみに、この話はあの精神年齢8歳の成人女性こと、町田愛から聞いた。
「聞きたい事はそれだけでいい?君達にも、早く配置についてほしいんだ」
「わかりました。……あっ、そう言えば少し質問したいことが―――」
「それは今じゃなきゃ駄目?」
「―――いえ、後で大丈夫です」
前々から聞こうと思っていた事を、丁度いいから今聞こうと思ったのかな?
私としても聞いてほしかったけど…あんな言い方されたら後で大丈夫って、私も言っちゃいそう。
仕方ないね。まだ今度にしよう。
もはや追い出される形で会議室を出ると、ホワイトボードに書かれていた私達の配置場所へ急ぐ。
「何あの言い方?自分が『他に聞きたいことある?』って聞いたくせに…」
「そうですね〜」
珍しく神林さんがイライラしているけど、きっとそのうち良くなるでしょ。
…というか、下手に触れたら爆発しそうだから、私は何もしないでそっとしておこうと思う。
今日わかった事はこれだね。仏のような広い心を持つ神林さんでも、理不尽に怒られたらキレる。
私は神林さんを怒らせないようにしないと。
……絶対怖いし。
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