第98話 襲撃計画その1
監視の仕事を始めて5日。
咲島さんから『早川の拠点を見つけた』との連絡を受けた。
そのため、監視の仕事を外されて、拠点に強襲を仕掛ける人員に選抜された。
「終わったらまたここに来てくれてもいいのよ?いつでも人手を募集してるから」
「もう来ませんよ。皆さんには悪いですけど」
私達がここを離れると知り、5日交代で監視をしていた仲間からめっちゃ引き止められる。
ついこの前知った事だが、ここに配属された監視員の4人は、全員覚醒者らしい。
故に、ステータスを見せてもらうとみんな《不眠耐性》のスキルを持っていて、しっかりと社畜だった。
スキルレベル自体は私より低いので、短いとはいえ睡眠時間が確保されていることの重要さがよく分かる。
「職に困ったらおいで。いつでもウェルカムだよ」
「絶対に来ないから大丈夫です!」
しつこく念押ししてくるあたり、やっぱり人手不足なんだろう。
まあ、大半は支部に人材を持っていかれるから、こんな監視拠点まで人は来ないか。
……とはいえ、私もここに再就職する気はこれっぽっちも無いけど。
「行くよかずちゃん。そろそろ出ないと、集合時間に間に合わないよ?」
「は〜い。5日間お世話になりました。さようなら」
「元気でね?神林さんも、お元気で」
「ええ。それでは」
かずちゃんの話を切り上げ、簡単に別れの挨拶だけして出発する。
集合場所は、もちろんあのパチンコ屋。
近畿支部の一新にはまだもう少し時間がかかるらしく、あのパチンコ屋が活躍している。
「…ちょっとパチンコをやってみたいって思うのは、よくないことですか?」
「今更かずちゃんがあんなのやって何になるのよ。アレで稼げると本気で思ってる?」
「いいえ?ちょっと興味があっただけです」
……ただ、こうやってパチンコに興味を持った構成員が、何人か沼に引き込まれているらしく、そこは少々問題視されている。
かずちゃんも興味を持ち始めてるから、しっかり見張っておかないと。
「あんなのにハマっちゃ駄目よ?私の友達に、父親がパチンコにハマって一家離散した子がいてね?急に学校に来なくなって以来、もう一度もあってないの」
「そんな人が……可哀想ですね」
「でしょ?かずちゃんにはそうなってほしくないから、できればやらないでね?」
「は〜い」
やりたいやりたいと、駄々をこねられたら許してしまう自信がある。
…まあ、そうやってすぐに許しちゃうからかずちゃんが生意気でワガママなんだろうけど……私は、かずちゃんのそんなところも好きだ。
「…どうしました?」
「なんでもないよ。かずちゃんは可愛いなぁって」
ちょっとまじまじと見過ぎた。
かずちゃんから目を離し、近畿支部へ向かうべく、まずは最寄りの駅へ向かった。
パチンコ屋の地下 近畿支部の会議室
「よく来たな。このボードを見てもらえれば一目瞭然だが…襲撃計画はこの通りだ」
会議室へやって来た私達を咲島さんが出迎えてくれた。
そして、襲撃計画が書かれたホワイトボードを見せてくれる。
それを見た私達は、目をパチクリさせる。
「……ここって?」
「ええ。灯台もと暗しとはこの事ね…」
襲撃計画に書かれた早川の拠点。
その在処は、実家からそう遠くない位置にある公園。
かずちゃんが、自分はこんな子供のままでいいのかと涙を流した、あの公園だ。
……正確には、あの公園にある文化会館と言うべき建物自体が、早川の拠点だった。
「あの一帯は神林家の支配領域。そんなあそこに、早川の拠点があるとは思わなかったわ」
「ホントですね。……でも、賢人さんはこの事を知らなかったんでしょうか?」
「知らなかったんじゃない?おじいちゃんがアレがあの町に拠点を作ることを許すとは思えないし」
……とはいえ、おじいちゃんが拠点の存在を知らなかったとは思えない。
神林家のお膝元であるあの街で、おじいちゃんに気付かれずに拠点作るなんて……
不可能に近いはずなのに。
顎に手を当て、そんな事が本当に出来るのか考えていると、咲島さんが真剣な表情で話しかけてきた。
「そう言えば、あなた達にはどうやってヤツの拠点を見つけたか言ってなかったわね」
「……どういうことですか?」
なにか含みのある物言いに、私は軽く圧を乗せながら返事をする。
咲島さんは涼しそうにしているが、かずちゃんは空気を読んで小さくなった。
「今回の件は情報提供者が居るんだよ。名を―――神林賢人という」
……少し話が予想外の方向に向かっている。
神林賢人という名を聞いて、雰囲気が変わった私の服の裾を掴むかずちゃんを後ろに隠し、私は咲島さんを睨みつけた。
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