第87話 たけのこ
「……紫。こっちに」
「はい」
家に帰って来た私達は、かなり遅めの夜ご飯を食べようと居間にやって来た。
そこで、おじいちゃんに呼ばれて、かずちゃんを居間に残して別の部屋へ移動する。
かずちゃんに話を聞かれないよう少し離れた部屋へやって来ると、おじいちゃんが冷や汗を垂らしながら神妙な顔で口を開いた。
「お前は……今日一日何をしていた?」
「一葉とダンジョンでレベリングを……」
「そうか……一応聞くが、ダンジョンに潜る前のレベルはなんだ?」
「61です。ふたりとも」
「今のレベルは?」
今のレベルを聞かれ、私は自分のステータスと、かずちゃんに見せてもらった時に記録しておいたステータスを見せる。
―――――――――――――――――――――――――――
名前 神林紫
レベル77
スキル
《鋼の体》
《鋼の心》
《不眠耐性Lv3》
《格闘術Lv7》
《魔闘法Lv8》
《探知Lv2》
《威圧Lv3》
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名前 御島一葉
レベル81
スキル
《鑑定》
《魔導士Lv7》
《抜刀術Lv6》
《立体戦闘》
《魔闘法Lv9》
《探知Lv2》
《威圧Lv3》
《状態異常無効》
―――――――――――――――――――――――――――
……まあ、今日の成果はこんなところだ。
「私はレベルが17上がり、一葉は20上がりました。スキルレベルもいくつものスキルがレベルアップし、特に《魔闘法》の成長が凄まじいです」
「当たり前だ!第一線で通用するレベルだぞ…!?」
「そ、そうですね。あっ!あと、かずちゃんが60階層のボスを倒した時に《状態異常無効》のスキルオーブ…?というものを手に入れて、使いました」
スキルオーブというのは、使うとそのスキルオーブに込められているスキルを習得できるというアーティファクトらしい。
物によっては数100億の値がつくらしく、使用をかなり躊躇う姿を見せてくれた。
状態異常無効は、ヤツの傀儡化にも効くということで、二度目の襲撃を警戒して最終的には使っていたが…かずちゃんは、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしていたね。
「とても、冒険者になってまだ半年も経っていない新人とは思えん強さだな…」
「この成長の速さが、咲島さんの目を引いたんでしょう。次会う頃には、レベル90くらいにはなっているかも知れません」
「どうだかな…」
もう諦めた様子のおじいちゃん。
私達は仙台に居た時に似たような事があったから耐性があったけど…普通に考えて、あり得ないレベルの上がり方をしている。
一日でレベルが20も上がるなんて、それがみんなそうなら、誰も苦労しない。
「もう結構。御島君にご飯を用意して上げなさい」
「わかりました」
一度居間に戻ってかずちゃんを呼ぶと、私はそのまま台所へ向かう。
冷蔵庫を開けると、食材は色々と用意されていて、大抵の料理は作れそうだ。
「白米が沢山残ってますよ。これを使いませんか?」
「そうね……あれなんてどうかしら?」
「あれ?」
私はトースターをつけて中の温度を上げ始めると、グラタン皿を取り出して白米を入れる。
そして、その上に残り物のほうれん草のお浸しを乗せ、鰹節を振りかける。
鰹節が全体的に湿る程度にだし醤油を振り、その上にチーズをほうれん草が隠れるくらい振りかけた。
温めたトースターに入れ、10分温める。
予想以上にすぐに出来たので、何かもう一品作れないか冷蔵庫を漁っていると、美味しそうなゆでタケノコを見つけた。
「かずちゃん。たけのこ好き?」
「たけのこですか?好きですよ」
「じゃあ、これで何か作りましょう」
そう言ってたけのこを、大きさの違う2つの切り方で切る。
1つは大きめサイズ。
もう一つは比較的小さめだ。
「このタケノコを使って味噌汁を作ってくれない?」
「わかりました。お鍋使わせてもらいますね」
かずちゃんに小さめのタケノコを任せ、私は大きいタケノコを使う。
「あんまり聞かないけど、まあ不味いって事は無いでしょう」
フライパンにバターを溶かし、その上にタケノコを入れる。
元々茹でてあるので、そこまでじっくり焼く必要はない。
表面がきつね色になるくらい焼き、醤油を振りかければ完成だ。
「なんてこと無いバター醤油焼き。これが1番美味しいのよ」
「バター醤油が不味いって事は、基本的にありませんからね。お味噌汁はもう少し待ってください」
「まだトースターが終わってないから、急がなくても大丈夫よ。それに、出来たては熱くて食べられないから少し冷やすし」
お箸を2膳持ってきて、トースターが焼き終わるまでの間、タケノコのバター醤油焼きを食べる。
こっちは出来たてを食べたほうが美味しいから、これで良い。
「コリコリで美味しいです〜」
「やっぱりタケノコは良いわね。大きめに切って正解だったわ」
ビールを持ってきて、酒のつまみにしながら食べていると、トースターが『チン』と鳴った。
「出来たわね。あとは、少し冷やしましょう」
《鋼の体》を使って手を保護し、グラタン皿を鍋敷きの上に置く。
「熱くないですか?」
はたから見れば、熱々の皿を素手で触っているように見えるはず。
心配そうにそう聞いてくるかずちゃんに、少しいじわるすることにした。
「全然熱くないよ。あの巨大な火の玉に比べれば」
「むぅ…あれは何度も謝ったじゃないですか。それに、あれくらい耐えられるって、神林さんへの信頼あってこその行為なのに」
「だとしても、何も言わず爆破してきたのは悲しいなぁ」
「もう!いつまでそれを言い続けるんですか!!」
「あ痛っ!?ご、ごめんって」
かずちゃんに思いっきりお尻を叩かれて、すぐに謝る。
手加減してくれないから、叩かれたところがヒリヒリ痛む。
「もう……お味噌汁も出来たので、食べに行きましょう」
「は〜い」
鍋敷きを2つ持って居間へ向かうと、それに続いてかずちゃんが味噌汁と箸を持ってきた。
鍋敷きを横に並べ、その上に本日の晩御飯、即席ドリアを乗せる。
「これは昔お母さんが作ってくれたドリアで、東京にいるときもたまに作ってたんだよ?」
「そうなんですか?私は食べたこと無いですね」
「まあね。おかずがあれば、ご飯はこんな手間を掛けなくても美味しく食べられるもの。そんなに頻繁に作るものでもないわ」
私の隣に腰掛けるかずちゃんにそう説明しながら、手を合わせる。
「「いただきます」」
声を揃えそう言うと、お箸でドリアのチーズをかき分ける。
「スプーンのほうがよかったかな?」
「これくらいお箸で食べられますよ」
そう言って、ドリアをお箸で食べるかずちゃん。
一応少しは冷やしたけれど、それでも熱い。
思っていたよりも熱かったのか、ハフハフしながらなんとか飲み込んだ。
「熱いですけど、美味しいですね、コレ」
「でしょう?次はもう少し冷やしてから食べてね」
私は熱くても問題ないので、普通に食べる。
昔から熱い料理にも耐性があって、なんなく食べられる。
色々な人から羨ましがられる能力だ。
一通りドリアを食べると、今度はかずちゃんが作ってくれた味噌汁に手を伸ばす。
まずはタケノコを食べてその食感を楽しみ、次に汁を飲む。
だしの効いた、舌を包み込むようなまろやかなかずちゃんの味噌汁は、一口のんだだけなのに、体から疲れが消えた気がする。
体がポカポカするのを感じ、また一口口に含めば、今度はネギの香りが鼻をくすぐる。
濃口に作りがちな私とは違い、薄口のかずちゃんの味噌汁は、とてもリラックスできるものだ。
「う〜ん…やっぱり、すまし汁のほうが良かったかなぁ?」
「そうかしら?私はこれで良いと思うけど」
とてもリラックスしている横で、何やら味噌汁に不満があるらしいかずちゃん。
確かに、タケノコといえばすまし汁だけど、味噌汁も悪くない。
私はこっちのほうが好きかもしれないくらいだ。
「もうちょっと素材の味を楽しめるように、すまし汁にしたほうが良かったと思うんです」
「素材の味……ずいぶん難しい事を考えるわね」
素材の味なんて…タケノコは別に香りを楽しむ食べ物じゃないし、味わって食べるものでもないはず。
どちらかと言うと、食感を楽しむものだと思うけど……かずちゃんは、タケノコの味を楽しみたいらしい。
なかなか通な舌をしてるね。
「じゃあ今度、タケノコのすまし汁を作りましょう。できれば、旬の季節に」
「その時までに七輪と炭を用意しないといけませんね。炭火焼きを食べたいので」
……かずちゃんの舌、だいぶ肥えてきたね。
お金は山ほどあるし、美味しいもの、沢山食べたいよね。
私は美味しけりゃなんでもいいけど。
旬のタケノコを楽しみにするかずちゃんの横で、美味しかったら何でもいい私は、濃い味付けのバター醤油焼きをビールのツマミとして頬張るのだった。
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