第86話 躍進
「ふふふふ……あはっ!あはははははははははははははは!!!!」
……かずちゃんがおかしくなった。
それはそれは、いい笑顔で返り血を浴びまくってモンスターをズタズタに斬り裂いている。
「脆い脆い!こ〜んなに簡単に壊れるなんて脆いなぁ!」
「かずちゃん…?大丈夫?」
「見てくださいよ神林さん!モンスターが豆腐みたいですよ!」
たった1振りで真っ二つにされるモンスターを見て、改めて上級アーティファクトの恐ろしさを目の当たりにした。
(こんなのを咲島さんや『紅天狗』は複数持ってるんだもんね…もしかしたら、ヤツもそうなのか?)
モンスターの大群に一人で突っ込み、全て一刀両断しているかずちゃんを見つめながら、そんな事を考える。
私も、かずちゃんが打ち漏らしたモンスターを本気のパンチで倒していると、別のモンスターの気配を感じた。
「あっちは私が倒すわ」
「わっかりました〜」
とっても楽しそうなかずちゃんから目を離し、こちらへ迫りくるモンスターを迎え撃つ。
「所詮、獣畜生。フンッ!!」
「グギャッ!?」
茂みから飛び出してきたモンスターに正拳突きを撃ち込み、その肉体を破壊する。
モンスターが煙と魔石に変わり、討伐を確認すると、急に魔力制御がしやすくなった。
「もしかして…?」
―――――――――――――――――――――――――――
名前 神林紫
レベル65
スキル
《鋼の体》
《鋼の心》
《不眠耐性Lv3》
《格闘術Lv5》
《魔闘法Lv6》
《探知Lv1》
――――――――――――――――――――――――――――
レベルとスキルレベルが上がり、新しいスキルも生えている。
早くもレベリングの効果が出てきているみたいだ。
「かずちゃ〜ん?ステータス見せて〜」
「は〜い!」
モンスターを殲滅したかずちゃんを呼び、ステータスを見せてもらう。
返り血を浴びた笑顔で走ってくる姿は、ちょっとホラーの気配を感じる。
――――――――――――――――――――――――――
名前 御島一葉
レベル70
スキル
《鑑定》
《魔導士Lv6》
《抜刀術Lv5》
《立体戦闘》
《魔闘法Lv8》
《探知Lv1》
―――――――――――――――――――――――――――
え?つよ…
なんか…短期間で強くなりすぎじゃない?
レベル差開いてるし、魔闘法Lv8?
早川とか『紅天狗』より高いじゃん。
これ…私がかずちゃんと戦ったら勝てない気がする。
「う〜ん…ちょっと私が倒しすぎましたか?」
「かもね。……で、この魔闘法のレベルはなに?」
「あ〜…なんか上がってました!」
なんか上がってました…
にしてはレベルが高すぎる。
最上位冒険者と同じスキルレベルって、相当なんだけど…
「今の私、最高に調子がいいんです!もっと深い階層に行きましょうよ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねながら、次の階層へ行こうとねだるかずちゃん。
色々と聞きたい事はあるけれど、強くなれるなら何だっていい。
次なる階層へ向かって、ポータルを探し始めた。
5時間後
「もう帰りましょう…今夜の8時だよ?」
「まだまだですよ!今日は本当に調子がいいんです。この機を逃すわけにはいきません!」
勢いにが付いたかずちゃんは、その後破竹の勢いで次々と階層を踏破し、第60階層のボス部屋を目前に控えていた。
「第60階層のボスは、《ジョロウグモ》。世間的に、アラクネと呼ばれる半人半蜘蛛のモンスターです」
「明らかにヤバそうじゃん」
「大丈夫ですよ!レベルは85ですし、脅威になり得るスキルもありません。私の敵じゃないですよ!!」
ブレーキが壊れたかずちゃんは、止まることを知らない。
あっという間に第60階層を駆け抜け、ボス部屋の前にやって来た。
「レッツゴー!」
「ちょっ!?かずちゃん!?」
躊躇いなくボス部屋の扉を開け、某配管工のようなポーズで部屋へ入っていく。
私もそれに続いてボス部屋へ侵入すると、すぐに顔に蜘蛛の巣が絡まった。
「うぅ…!?」
「うえぇ…気持ち悪い…」
かずちゃんも蜘蛛の巣にやられたらしく、顔に付いた糸を必死に取っている。
蜘蛛の巣を取ると、奥に人影が見え、目を丸くした。
「かずちゃん!奥に人が!!」
「うぇっ!?こんなところに人なんて……っ!!神林さん!防御を!!」
「っ!?」
急いで《鋼の体》を発動すると、白いなにかが迫ってくる。
私はそれを躱すことが出来ず、あっという間に体が白いモノに包まれた。
そして、勢いよく引っ張られる。
「うわっ!?―――――っ!!まさかこれは…!」
引っ張られたどり着いた先は巨大な蜘蛛の巣。
そこに張り巡らされた、ロープのように太い蜘蛛の糸に体がくっつき、動けなくなった。
…いや、飛んできた白い蜘蛛の糸によって絡め取られてるから、元々身動きなんて取れないんだけど。
なんとか脱出できないか身をよじっていると、さっきの人影が現れた。
「ケケケケケ…」
「なるほどね。確かに半人半蜘蛛だわ」
軽自動車程はありそうな巨大な蜘蛛の体から、人間の女性の上半身が生えたモンスター。
確かに、半人半蜘蛛と呼ぶに相応しいモンスターだ。
ジョロウグモは鋭い牙を見せ、完全に私を餌と認識している。
逃げようにも糸の強度が想像以上に高く、まるで抜け出せない。
「不味いなぁ…これが蜘蛛の巣に囚われた蝶の気分か…」
そんな呑気なことを言っていると、物凄く嫌な気配が背筋に氷水を掛けてくる。
それはジョロウグモも同じようで、目を見開いて私のそばから飛んで逃げる。
その直後、びっくりするほど大きな火の玉が、私目掛けて飛んできたのだ。
「やばっ!!」
《鋼の体》を過去に類を見ない程の出力で使い、目と口を閉じて爆発に備える。
次の瞬間、凄まじい衝撃と熱波によって糸が焼き切れ、糸の拘束から抜け出し、地面を跳ねる。
「アチチ……髪焦げてないよね?」
あの熱波で髪が焦げていないか心配しつつ、周囲の様子を確認する。
すると、かずちゃんとジョロウグモが切り合っている様子が目に入った。
「よくも神林さんを!!」
「キエェェェェェェエエエ!!!」
どこで拾ったのか、かなり切れ味の良さそうな剣を二本持ち、かずちゃんと切り合うジョロウグモは、牙をむき出しにして強い怒りをあらわにしている。
そんなジョロウグモと対峙しているかずちゃんも、私を食べようとした事に怒っているのか、顔を真っ赤にして怒涛の連撃を繰り出す。
私を爆殺しかけたってのにこの子は…
「ふぅ…さて、加勢するべきか……」
加勢できなくはないけれど、今の私だとジョロウグモの相手は少し厳しい。
となると、様子見をして隙をつくのがいいか。
しかし、ジョロウグモは何をあんなにキレてるんだ?
家を焼き尽くされてマジギレとか…?
完全に焼き尽くされた蜘蛛の巣を見て、かずちゃんの容赦無さと、これを耐えきった私の防御力を再確認する。
あたりを見渡していると、焼け焦げた蜘蛛の死骸を見つけた。
しかも、その死骸は消えかかっているものの、何処か人間の上半身のようなモノがあったように見える。
「まさか…あいつの子供?」
それならあのジョロウグモが怒るのも納得がいく。
巣を破壊された上に、子供まで殺されたんだ。
母親として、怒らないはずがない。
これだけ見れば、完全にこっちが悪者だね。
……まあ、だからといって殺される気はないし、かずちゃんには端からそんな事考える気など無い。
数度の切り合いの後、振り終わりの隙をついたかずちゃんの斬撃がジョロウグモの首を捉え、一撃で倒してみせた。
「これでまた差が開いちゃったかな…」
そんな事を考えながら、消え始めたジョロウグモの死骸を蹴るかずちゃんに合流した。
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