第84話 新しい武器
時刻は午後1時。
ダンジョンに入ってもうすぐ3時間になる。
ようやく第50階層へ到達し、私達のレベルも上がりやすくなってきた。
ノンストップでサーチ&デストロイを繰り返し、ボス部屋の前までやって来た私達は、10分ほど休憩を取る事に。
「はぁ……さっき電車で調べた限りでは、第50階層のボスは、《ウシノカシラ》という二足歩行の牛らしいですよ」
「牛?こんな、見るからにダンジョンな迷宮型の階層で?」
「ミノタウロスって奴ですね。迷宮のボスとしては定番ですよ」
「へぇ〜?」
ミノタウロスって、なんか聞いたことある気がするけど、正直よくわかんない。
どんなボスなんだろ?
……いや、さっきかずちゃんが二足歩行の牛って言ってたんだけどさ。
「かなり大きいらしく、10メートル近い身長を持ち、その巨体と同じくらい大きい戦斧を武器として使うそうです」
「なるほどね〜。じゃあ、パワータイプってわけだ」
巨体でパワータイプのモンスターは、かずちゃんの攻撃が通じるかどうかで大きく変わる。
こういうモンスターは大抵硬いから、かずちゃんの攻撃が通じないことがある。
そして、ボスなので途中で逃げることも出来ない。
かずちゃんの攻撃が効かなかったら…超持久戦で倒す他ないのだ。
「さて行こう。時は金なり!」
「もう少し休みましょうよ〜」
まだゆっくりしていたいかずちゃんが文句を言ってくるが、この程度で音を上げていては、現代日本では生きていけない。
散歩から帰りたくない犬のように抵抗するかずちゃんを引っ張り、ボス部屋の扉を押すと、ギギギギ!という音を立てて大きな扉が開かれる。
凄まじいパワーで踏ん張るかずちゃんを無理矢理引っ張ると、そのままの勢いで先にボス部屋へ放り込んだ。
「きゃっ!?神林さ〜ん??」
「うわ、広いわね〜」
見たことがないほど広いボス部屋に、もはや殺意すら感じられる怒りの目を向けてくるかずちゃんのことなんか、頭から抜け落ちていた。
今にも噛みついてきそうなかずちゃんには目もくれず、とんでもなく広い部屋を見渡していると、『ズン……』という地響きが広がり、臨戦態勢を取る。
壁に掛けられた松明が一人でに火を灯し、等間隔に配置された篝火が部屋を照らす。
そして明るみになった、この部屋の主の姿。
「アレが《ウシノカシラ》。通称ミノタウロスです…」
「そう…アレが、ね……」
知立に匹敵する巨躯を持ち、悪魔のような捻じれ角を二本生やす、二足歩行する巨大な牛。
荒々しく鼻息を吹き、恐ろしい目でこちらを見下ろす化け物は、全身の筋肉を隆起させ、2トントラックのような大きさの戦斧を振り上げた。
「行くよッ!!」
「はいッ!!」
かずちゃんに合図を送ると、私も全力で走り出す。
ミノタウロスも戦斧を構えたまま、こちらへ突っ込んでくる。
そして、私達がその巨大な戦斧の制空圏に入る直前。
「ブモオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
牛の鳴き声のような、そうでないような咆哮を上げ両刃の戦斧を横に凪ぐミノタウロス。
かずちゃんは寝そべるように体を低くし、私はギリギリでジャンプして戦斧を回避する。
あんなのを喰らえれば、《鋼の体》ごと体が粉砕される。
かずちゃんなんか、なんの抵抗もできず真っ二つだ。
「振り終わりは、隙ができる!!」
…が、そんな心配は無用。
何故なら私達のほうがずっと早いし、アイツの動きはしっかり見えている。
振り終わりの隙を狙って、かずちゃんが一気に足元に転がり込むと、流れるように両足の腱を斬る。
そして、まるで忍者のように軽やかな動きでミノタウロスの巨躯を駆け上がり、頭まで登った。
「私の勝ちッ!!」
そう叫ぶと同時に首に刀を突き刺し、首の骨をへし折るかずちゃん。
「ブモオオオオオオオオオオオオオオ???!!!!」
断末魔を上げるミノタウロスの首を、アイテムボックスから取り出したもう1振りの刀で斬り裂き、大量出血を引き起こす。
流石にミノタウロスもタダではやられまいと、手を伸ばしてかずちゃんを掴もうとする。
「させないよ」
ミノタウロスの筋肉を足場に駆け上がると、肩に全力の踵落としを叩き込み、骨を粉砕して腕を使えないようにした。
どうやら、私の攻撃も効くらしい。
しかし……
「なんか、可哀想に見えてきたなぁ…」
かずちゃんに斬り裂かれ、私には骨を簡単に砕かれ…攻撃できたといえば、最初の1振りだけ。
なんだか、凄く可哀想だ。
「これで!終わりッ!!!」
「オオオオオォォォォ………」
ついにかずちゃんに首を斬り裂かれたミノタウロスは、最後に弱々しい声を上げて肉体が崩れる。
かなりの高さから落下したけど、私達はこの程度で死んだりしない。
普通に着地すると、そこには宝箱が置かれている。
「ドロップ宝箱か…大きさ的に武器だね」
「刀が入ってると良いなぁ。あのゴミカスのせいで、新調した刀がボロボロになったので」
「アレは特別不運だったのよ」
ミノタウロスに刺していた刀を回収したかずちゃんは、宝箱の前に走ってきて私の方へ期待の眼差しを向ける。
「開けていいよ」
「やったー!」
無邪気にはしゃいで宝箱を開ける姿は、出会って間もない頃から何も変わらない。
最近はちょっと大人になってきたかなと思ったけど…ふふっ、根っこは何も変わっていないみたいね。
ニヨニヨと微笑みながらかずちゃんを見守っていると、お目当てのものが入っていたのか、満面の笑みを見せてくれた。
「見てください!刀ですよ!!」
「ホントね。魔力を感じるし、アーティファクトの類いかな?」
かずちゃんがずっと前から欲しがっていた、アーティファクトの刀。
売ってないわけじゃないけど、大した性能があるわけでもないのに、アーティファクトだからめっちゃ高い。
だから買ってなかったんだけど…さて、これはどうかな?
「……見てください」
「ん〜?どれどれ…」
―――――――――――――――――――――――――――
名前 チヲクラウヤイバ
等級 上級
スキル
《吸血》
《成長》
《破壊耐性》
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「上級アーティファクトじゃん。良かったね」
「………」
「どうしたの?嬉しくないの?」
何故かうんともすんとも言わないかずちゃん。
上級アーティファクトなんて、早々お目にかかれない代物だ。
それこそ、上位冒険者でもないと持ってないし、そもそも見つけられない。
私達は相当運が良いと思うんだけど……何か不満があるのかな?
「《成長》」
「ん?」
「《成長》持ちかつ《破壊耐性》…?」
何かボソボソ言って、私の話は右から左へ抜けていっている。
あんまりにも反応してくれないから、背後から手を回してぺったんこな胸を揉んでみる。
「ちょっ!?やめてください!」
「それは反応するんだ?」
「当たり前じゃないですか!」
流石に胸を触られるのは駄目らしい。
普通に怒られちゃった。
「で、何がそんなにびっくりする原因になってるの?」
「えっ?…ああ、この刀の事ですね。《成長》と《破壊耐性》ですよ」
さっきボソボソ言ってたし、やっぱりそれか。
私にはその凄さが分からないね。
「このスキル、どっちかがついてたらアーティファクトとしては大当たりなんです。《成長》なんて、下級のアーティファクトでさえ、使い続ければ上級になりますから」
「使い続ければ強いと…そして、使い続ける上であると便利な《破壊耐性》が備わっている。…《吸血》は?」
「付着した血を吸収し、それに応じて一時的に強くなるスキルですね。あと、微量ながら自己修復効果があるので、ほんのちょっとだけなら傷や凹みを治せます」
饒舌にスキルの説明をするかずちゃん。
とにかくいい武器が手に入ったって事は理解できた。
これはレベリングが捗りそうだね。
素晴らしい武器を手に入れてニヤニヤ笑っているかずちゃんの後ろで、私も笑みを浮かべてこれからのレベリングを想像していた。
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