第83話 『花冠』への支援
いつの間にか家についていたらしく、帰ってきた私達はまず寝室へ通された。
布団が1人分敷かれていて、そこへかずちゃんと一緒に潜り込むと、小一時間ほど眠ることに。
実家のような安心感とはこの事。
ゆっくりぐっすり眠る事が出来た私は、何故か私の腕を咥えているかずちゃんを起こし、顔を洗いに洗面所へ。
途中でかずちゃんに何故腕を咥えていたのか聞いたら、『スイカを食べる夢を見ていた』らしい。
私の腕はスイカのように丸くはないと抗議したくなったが、あの寝顔は可愛かったので、また同じ夢を見てくれるよう、怒りはしなかった。
後でスイカを買ってあげよう。
「それで?話とはなんだ?」
おじいちゃんの部屋へやって来ると、真剣な表情で腕を組み、私達を出迎えてくれた。
「早川照。この名前に聞き覚えはありませんか?」
「………何処でそれを?」
「私達を襲撃した犯人です」
その言葉に、おじいちゃんはこめかみに手を当てて溜息をついた。
「そうか…やはりヤツが関与していたか」
「やはりということは…あのスタンピードが人為的に起こされたものだと、知っていたのですか?」
「当然だ。第一、アレはスタンピードではない。モンスターを支配するスキルを利用した、異能犯罪だ」
異能犯罪
覚醒者が、自らのスキルや魔法を利用して起こす犯罪であり、通常よりも重い刑罰が与えられる。
しかし、覚醒者はそもそも逮捕が難しく、逮捕したとしても、強さ次第では拘束することすらままならないため、効果があったという話はあまり聞かない。
「ヤツによる異能犯罪は今に始まった事ではない。本来なら、指名手配をされてもおかしくはないのだが…」
「財団幹部の血縁者と強力な覚醒者ということで、手が出せずにいる。咲島さんから聞きました」
「そうか…彼女ならヤツに対抗する手段の1つや2つは持っているやもしれんな。何か言われなかったか?」
咲島さんがどうにかしてくれることを期待して、何か言っていなかったか聞かれる。
……残念ながら、おじいちゃんの期待には応えられそうにないね。
「今回の異能犯罪の真の目的は、『花冠の近畿支部の破壊』なんです。実際、『花冠』の1人が殺されたのを見ましたから」
「しかも、殺されたのは『松級』です。近畿支部は落ちました」
「なんと…」
私の説明だけでもかなり驚いていたおじいちゃんが、かずちゃんの補足を受けて思わず言葉を漏らしている。
……で、『松級』ってなに?
名前から考えるに…松竹梅の松の事かな?
『花冠』の階級って、松竹梅なのか……初耳。
「近畿支部が落とされた…それは、かなり不味い事になったぞ」
「それまで『花冠』に守られていた女性達が、無防備な状態になる。恐ろしいですね」
「いや、そうじゃないんだ御島君。紫、お前はどう思う?」
おじいちゃんの懸念。
私の考えていることとあっているかわからないけど、多分こんな感じのことだと思う。
「……『花冠』は女性を守る関係上、結果的に犯罪が抑えられていた。それと、咲島さんと『財団』はとても仲が悪い。だから、『財団』の暗躍もある程度は抑えていたはず…」
確認するようにおじいちゃんを見ると、腕を組んで首を縦に振った。
「そうだ。『花冠』は裏社会の抑止力。それが失われたとなれば……恐ろしい事になるぞ」
おじいちゃんの言葉に、かずちゃんが目を見開いて私のことを見上げてくる。
小さく頷くと、急に慌てだして身を乗り出す。
「神林さん――じゃなくて…紫さんは、神林家として何が出来ることは無いか考えてるんです。なんとかなりませんか?」
「難しいだろうな。神林家程度の力ではすぐに押し込められ、家が潰されかねん」
「そう、ですか…」
昨日の話を伝え、なんとかならないか頼むかずちゃんを、おじいちゃんは一蹴する。
まあ、当然といえば当然だ。
それなりに力があるというだけで、大企業と張り合えるような力は、神林家には無いのだから。
「じゃ、じゃあ!この地域に新しい近畿支部を作ったり、一時的な仮拠点を作ったりするのはどうですか?」
「それも難しいな。そういった話は、君が知らないだけで裏社会ではあっという間に広まる。すぐに我々の背後関係も知れ渡るだろう」
そうなったら、神林家はタダでは済まない。
そういった事も考えると…やっぱり私達で出来ることをするしか無いんだろう。
「……私達が個人的に動く分には、問題ないよね?」
「そうだな。元々咲島と繋がりがあり、『花冠』からも重要人物として見られているお前なら、神林家がどうという以前に、動くのも納得だ。……だが、それがどういう意味か分かっているのか?」
「分かっているからこそ、個人的に動くの。無理言ってごめんなさい」
そう言って立ち上がると、かずちゃんを立たせて部屋を出る。
「すまないな」
「気にしないで。私も、もとより自分でどうにかするつもりだった。ダメ元で聞きに来ただけ」
謝るおじいちゃんにフォローを入れ、かずちゃんを連れて荷物が置かれている自分の部屋へ戻る。
そして、布団の上に倒れ込んだ。
「私達が個人的に動くと言っても…なにするんですか?神林さん」
「そうだね〜……まあ、まずはレベリングかな?今の私達じゃ、裏社会の闇へ潜るには弱すぎる」
咲島さんという、純粋ステータス最強を筆頭に、ユニークスキル込みでランキング2位の『紅天狗』、そしてまだ見ぬランキング1位。
そんな彼等でさえ軽い気持ちで手を出すことができない、『反逆者』早川。
『花冠』の中でも最上位の力を持つ『松級』や、それに匹敵する力を持つであろうAランク冒険者。
どれもこれも、出会ったらまず勝ち目のない相手ばかりだ。
この騒動に首を突っ込むには、私達は弱すぎる。
「しばらくは堺ダンジョンでレベリングをするよ。そして、そこで得た魔石やアーティファクトを近畿支部再建のための資金の足しにすればいい」
「そうすれば、私達は強くなれますし、『花冠』としても予算を多めに使えて嬉しい。まさに、一石二鳥ですね」
私の隣に寝転がってきて、ぴったりくっついてくるかずちゃん。
こんなに甘えていても、ちゃんと真面目な話は出来るみたいだ。
「そして、強くなれば一時的に『花冠』のピンチヒッターとして活動すればいいわけだからね。一番大変な人材確保にも貢献してあげられるよ」
「いいですね。やっぱり神林さんは天才です!」
「褒めてもヨシヨシしてあげるくらいしかないよ〜?」
「んにゃ〜♪」
私に抱きしめられながら撫でてもらい、嬉しそうに鳴き声を上げるかずちゃん。
方針は決まった。
帰ってきたばっかりだけど、すぐに大阪に戻るとしよう。
そして、そこでレベリングだ。
かずちゃんをお姫様抱っこしながら起き上がると、流石に恥ずかしいので床におろし、お父さんを呼びに行く。
『もう行くのか』と驚かれたが、善は急げ。
勢いで言いくるめて駅へ向かい、急ぎで大阪へ向かった。
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