第77話 火竜
貼り付けをミスして、一話飛ばしていました。
失礼しました。
◇◆◇
帰りの電車を待っていると、突然警報が鳴り出し、周囲が騒がしくなる。
「何事?」
「この警報……スタンピード?」
確かに、この警報はスタンピードの時のものだ。
だけど、スタンピードが起こるなんて聞いてない。
なんなら…
「そんなにモンスター少なかった?」
「いえ。普通だったと思いますよ」
ダンジョンに居たモンスターの量は普通であり、スタンピードの予兆は起こっていなかったはず。
突然始まったスタンピードとか?
「どうしますか?私達も一応見に行きます?」
「いや、なんとかなるでしょ?まだ冒険者は沢山いるでしょうし」
ここは天下の台所、大阪だよ?
きっと、なんとかなるって。
そんな軽い気持ちで電車が来るのを待っていると、少し離れたところからとんでもなく嫌な気配を感じた。
「っ!!かずちゃん!!」
「はい!!」
この気配…あの地竜と似ている。
となると、地竜に匹敵するモンスターが出現したって事で……流石に見て見ぬふりは出来ない。
かずちゃんにはすぐに戦闘態勢に入ってもらい、その気配のする方向を睨む。
「まあ、その程度なら負けることはないか」
「っ!?」
突然背後から男の声が聞こえ、反射的に拳を振り抜く。
―――が、私の裏拳は空を切り、そこには誰もいなかった。
「幻聴…?いや、そんなはず――――」
「神林さん!!」
「っ!?」
突然かずちゃんにすごい力で引っ張られ、体勢を崩した私はかずちゃんの方へ倒れ込む。
その直後、ゴウッ!!という音と共に、背中が熱くなった。
そして、何かが爆発したかのような轟音が聞こえてくる。
「な、なにこれ…」
「それどころじゃないです!!すぐに《鋼の体》を!!」
そう叫ぶかずちゃんは、刀を鞘から抜き、気配のする方へ構える。
悲鳴が響き渡る中で、振り返った私は、自らの目を疑った。
「ドラゴン…!」
紅色の鱗に覆われた巨躯から翼が生え、こちらを睨む怪物。
暴力の権化、ドラゴン。
翼を羽ばたかせ、口から火の粉が舞う状態で一店に渡しを見つめるドラゴンは、いきなり加速して襲い掛かってきた。
「ヤバイ!?」
「神林さん!?」
ドラゴンの攻撃を間一髪躱し、かずちゃんとともに逃げる私。
人で混み合う駅でドラゴンと戦うなんて正気じゃない。
一般人が巻き込まれる危険性があるんだから、出来るだけ人が居ないところに移動する必要がある。
……実際、最初のブレスと突進で、何人かが犠牲になった。
これ以上犠牲者を出さないためにも、少なくとも人が密集する駅にはいられない。
そうしてやって来たのは、比較的人が少ない大通り。
もちろん、いないわけじゃないけど、駅に比べたら密度は低い。
私は深く息を吸い込むと、全力で声を張り上げて叫ぶ。
『ここから離れてください!!!』
声に魔力を乗せ、空気の振動を大きくすることでより遠くまでよく聞こえるようにする技術、『魔力拡声』を使い、一般人に避難を促す。
そして、《鋼の体》の出力を最大まで引き上げて、地竜の攻撃でも一発は耐えられる様な装甲を作ると、振り返って飛び上がり、ドラゴンの頭に拳を叩き込んだ。
「グエッ!?」
「かずちゃん!!」
「はい!!」
頭頂部を殴られたドラゴンは、凄まじい勢いで頭が下がる。
そこにかずちゃんの魔法が飛んできて、顔が爆発した。
しかし―――
「嘘っ!?」
「マジかぁ…」
ドラゴンは全くの無傷。
魔法が効いている様子はない。
「まさか…!」
何か知っている様子のかずちゃんは、鑑定を使用した。
そして、そのステータスを見て何かを確信した様な顔を見せ、私にもドラゴンのステータスを共有してくれた。
――――――――――――――――――――――――――
種族 火竜(傀儡化)
レベル90
スキル
《竜鱗》
《竜力》
《鋭爪Lv5》
《咆哮Lv10》
《火炎魔法Lv2》
《火炎耐性》
―――――――――――――――――――――――――――
「なるほどね…耐性か」
どうやら、このドラゴンには炎系の魔法が効かないらしい。
それで、かずちゃんの炎魔法が効かなかったんだ。
……でも、この《傀儡化》っていったい―――
「ガアアアアアアアアアアアア!!!」
「っ!!」
私に噛みつこうとするドラゴンから離れ、近くに落ちていた空き缶を蹴って、口の中へ放り込む。
「ガアッ!?」
すると、異物が飛び込んできた事に驚いたドラゴンの動きが止まり、私はそこへ回し蹴りを叩き込む。
「セイッ!」
回し蹴りを食らったドラゴンに、かずちゃんは容赦なく目を狙って刀を突き出すが、間一髪外された。
「くっ!新しくしたばっかりなのに!!」
悪態をつきながらドラゴンの顔を何度も斬りつけるかずちゃん。
まとまったお金が手に入ったので、少し良い刀を新調したところなのに、こんな敵と戦わされる。
きっとこの戦いが終わる頃には、かずちゃんの刀はボロボロになってるだろうね。
可哀想だし、新しいのを買ってあげるか。
可愛い可愛いかずちゃんの為に―――って!!
「っぶな!?」
「何よそ見してるんですか!」
「だってぇ!!」
ギリギリのところでドラゴンの尻尾を躱し、かずちゃんに怒られた。
今は戦いに集中すべきだと再認識した私は、アイテムボックスから濁った液体の入ったペットボトルを取り出す。
そして蓋を開けてそれを火竜の顔に掛ける。
「ガッ!?ガアアアアアアアアアアアア!!!!」
液体が目や鼻に入った瞬間、火竜は顔を掻きむしって暴れ始めた。
「ほんとはかずちゃんにイジワルするためのもの何だけどね!」
「んん!?ちょーっと聞き捨てなりませんね!?」
イジワル用の液体がかかり、苦しんでいるドラゴンに斬りかかりつつ、私に説明を求める視線を向けてくるかずちゃん。
いかにドラゴンといえど、どうやらこの液体には耐えられないらしく、少し余裕がある。
教えてあげてもいいか。
「私特製の激辛汁だよ。大量の唐辛子の辛味成分を抽出した激辛汁だから、万が一目に入ったりしたら……」
「ひっ!な、なんでそんなもの作ったんですか…?」
「かずちゃんが悪さした時に、仕返しで料理に混ぜようと思って…」
「怖っ!?」
ドラゴンが悶え苦しむ程だから、我ながら相当辛い物ができたね。
…私は食べる気ないけどね?
「理由はどうあれ…まあ、お陰で隙ができましたが……鱗が硬すぎて話になりませんよ」
「魔法は?」
「全力の攻撃が効かないのに、それより威力が低い魔法が効くはずないじゃないですか。それに、《竜鱗》のスキルのせいで、魔法が効きにくくなってるんです」
《竜鱗》にそんな効果があるのか…知らなかった。
……という事は、私達はどう足掻いてもこのドラゴンには勝てないって事ね。
「うちの火力担当が無理って言ってるという事は……」
「まあ、助けが来るまで耐えましょう。きっと来ますよ。なにせドラゴンですから」
そう言ってドラゴンに向かって刀を構えるかずちゃん。
その勇ましい姿に惚れ惚れしていると、見るからにご立腹のご様子な火竜が、目を血走らせてこちらを睨みつけてきた。
「……大丈夫だよね?」
「多分……きっと……おそらくは…」
ドラゴンから魔力が溢れ出し、空気がビリビリと震える。
ブチギレ本気モードになったドラゴンを前に、かずちゃんは私の後ろに逃げてきてしまった。
……まあ、怖いよね。
かずちゃんを守るべく、私はドラゴンの血走った目を睨み返し、最大まで《魔闘法》の出力を上げた。
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