第78話 火竜の戯れ
「――――チッ!」
「ゴアアアアアアアアアアアア!!!」
飛んでくる火炎を避けつつ、ドラゴンの直接攻撃も躱す。
モンスターも魔法を使うとは聞いていたけれど、実際に使われるとかなり厄介だ。
ステータスで劣り、種族的に劣り、更には魔法まで使える。
そんな正真正銘の化け物相手に、ここまで無傷でいられている私は、相当すごいはずだ。
「神林さん!!」
「了解ッ!!」
右手からかずちゃんの声が聞こえ、チラッとそちらを見ると、かずちゃんが手から電気を放っている。
雷魔法を使おうとしてるんだ。
その事をすぐに理解し、私は姿勢を低くする。
そこへドラゴンが前足を振り上げ、私を押しつぶそうとしてくる。
―――が、その前にかずちゃんから雷が放たれ、ドラゴンの体を貫く。
「グエッ!?……グアアアアアアアアアアア!!!」
「くっ!マジか!!」
雷撃を受け、ドラゴンが一瞬怯むが、すぐに攻撃を仕掛けてきた。
なんとか怯んだ一瞬の隙をついて逃げたものの、かなり不味い。
だって……
「ぐうっ!?」
ドラゴンの火炎魔法によって、私の体は焼かれ、息が出来なくなる。
《鋼の体》があっても、高火力の炎で焼かれたら酸欠になる。
それに、灼熱の熱気を吸い込んで喉や肺が痛い。
「こっちだ!!」
そこへかずちゃんがやってきて、すごい勢いで道路標識が飛んでくる。
その道路標識を食らったドラゴンがよろけ、一旦私からの距離を取った。
……まじ?
予想外の攻撃に驚いていると、かずちゃんのアイテムボックスから出てきた大量の水によって、《鋼の体》に纏わりついていた炎が消えた。
「大丈夫ですか!?」
「直接焼けてるわけじゃないから大丈夫……で?あの標識は?」
「斬って持ってきました」
…捕まらないよね?
ドラゴンに壊されたって事にすれば、大丈夫だよね?
絶対器物破損だけど……まあ、あのドラゴン地面とかビルとか壊しまくってるし、きっと大丈夫。
「『木を隠すなら森』です。いい感じに誘導して、街が壊れれば、標識の1つや2つ壊しても問題ありません」
「その発言が問題アリアリなのよね…」
かずちゃんにツッコミを入れつつ、ドラゴンが破壊したアスファルトを広い、思いっきり投げつける。
――――が、相手は高い知能を持つモンスター、ドラゴン。
アスファルトは躱され、虚しく飛び続けるアスファルトの塊が、路上に放置された車に衝突し、スクラップに変えた。
「あっ…」
「これでもっと街を壊さないといけなくなりましたね?」
「はぁ……かずちゃんは心が痛くないの?」
「いえ全く?」
「えぇ…?」
かずちゃんに街を壊す事に対する罪悪感というものは無いらしい。
《鋼の心》を持つ私でさえそういう気持ちはあるのに…
『これだから最近の若者は』って言われるのも分かる共感性だね。
……まあ、それを他人にかずちゃんが言われたら、ソイツを殴り飛ばす自信あるけど。
「あのドラゴン、ずっと格上なのに、しっかりこっちの事を警戒してますよね?」
「そうね。ここでブレスを連発されたら私達なんて消し炭になるのに…」
「《傀儡化》の影響ですかね?」
……まあ、その可能性が一番高いよね。
《傀儡化》
なんでまた、そんな状態になってるんだか…
「鑑定してみます」
「お願い。無駄にこっちを警戒してくれてる間に、出来るだけ情報を集めよう」
こちらも警戒心を緩めずドラゴンをにらみつつ、かずちゃんが鑑定してくれるのを待つ。
すると、かずちゃんの目の色が変わり、一気に表情が険しくなった。
何か、良くないものを見たらしい。
「神林さん。《傀儡化》の鑑定結果です」
「ありがとう。どれど――――これは…?」
かずちゃんから渡された《傀儡化》の情報を見て、私も思わず眉を顰める。
――――――――――――――――――――――――――
《傀儡化》
スキルやアーティファクトによって、使用者への服従意思を植え付け、従わせる状態異常。
影響下にある存在には《念話》や《思念伝達》が常時可能であり、影響下にある存在を通して周囲を把握することも可能。
――――――――――――――――――――――――――――
これはつまり…『そういう事』、なんだろうか?
もしこれをそのまま受ける取るのなら……これは、誰かが意図的に私達にドラゴンを焚き付けた事になる。
周囲への被害なんて顧みず、ただ私達を始末するためだけにこのドラゴンを差し向けた。
……いや、それだけじゃない。
「あの予兆のないスタンピード……まさか、あれも狙って?」
「ドラゴンが町中に出現したとなれば、すぐにでも上位冒険者が派遣されます。そして、レベルから考えてこのドラゴンは上位冒険者であれば討伐できるはず。ならば、上位冒険者が来るまでの時間稼ぎをしないといけない。……例えば、突然のスタンピードのような、非常事態を引き起こして、そっちに対応させるとか……」
すでに別の非常事態の対応にあたっているのなら、少しは時間稼ぎが出来る。
ならば…レベルで劣る私達を倒せるかも知れないって事か。
でもそれは……
「かずちゃん…」
「なんですか…?」
かずちゃんの目を見て、同じことを考えているんだと思い、意見をすり合わせる。
「もしこれが誰かが意図してしたことなら…」
「その人物は少なくとも《傀儡化》を行えるスキル、アーティファクトを持っていて…」
「私達のレベルを把握している…」
「でも何故そんな事を?」
「決まってるでしょ。何か不味いことをしたのよ。私達は」
私達は今、消されそうになってるんだ。
誰がやっているかはわからない。
でも、候補はある。
「《財団》か?……いや、でも奴らが私達ごときにこんな大掛かりなことをするとは思えない」
「ですね。あまりにも利がありません。となると、別勢力。あるいは別人ですね」
《財団》にしては、やることが壮大過ぎる。
出来なくはないだろうけど、コストがかかり過ぎる上に、得られるものはなにもない。
強いて言うなら、復興支援でいい顔を見せる場を作るくらいか…
《財団》という可能性を排除すると、一人の人物が脳裏をよぎる。
「……あの男か?」
「あの男…?……ああ、神林さんが変な気配を感じたという?」
「そうよ。ドラゴンが攻撃してくる直前、男の声が聞こえたの。…その男と確定した訳じゃないけど」
怪しい…怪しすぎる。
私に秘めたるものを気取られ、それが広まることを恐れた奴が、私達を抹殺するためにドラゴンを送り込んできた。
個人がやることにしては規模が大きすぎるけど、私達を始末しつつ、何か他の目的もこなせるのなら…おかしな話ではないはずだ。
「――――おそらくですが…私達も『ついで』なんじゃないですか?」
「どういうこと…?」
あの男がやった可能性を考えていると、かずちゃんがそんな事を言い出した。
「その男を初めて見たのはゲートウェイですよね?ということは、少なくともダンジョンに用事があったはず。《傀儡化》したモンスターを集めるためか、何か別の目的があるのかは分かりませんが、ダンジョンに用事があった」
「まあ、そうでしょうね」
「そして、次に見つけたのは町中。しかも、あんな殺人現場の近くです」
殺人現場…そう言えば、あの男が入っていてから、悲鳴が聞こえてきたな…
「ただ単に絡まれただけかも知れませんが、もとから彼らを殺すことを画策していたのなら?」
「それを邪魔してきた私達は、始末したい人間かもね。…でも、こんな大掛かりなことをする?」
「わかりませんよ?殺したい相手が、まだいるのかも知れません。スタンピードに注意が向いている隙に、事を済ませようとしてるとか…?」
「だとしてもね…」
かずちゃんの言いたいことは分かるけど、いささかやっていることが壮大過ぎる。
普通に暗殺すればいいのに、わざわざスタンピードを起こす理由は何?
相手が上位冒険者とかなの?
だとしたらある程度納得はいくけど…
「スタンピード中の混乱に乗じて、何か火事場泥棒をしようとしてるんじゃない?例えば、ギルドに保管されているアーティファクトと―――っ!?誰だ!!!」
「えっ?」
途中まで言いかけて急に後ろから気配を察知し、私は振り返りながらそう叫ぶ。
かずちゃんもそれに驚いて振り返ると、そこにはあの例の男が立っていた。
すぐにかずちゃんも戦闘態勢を取り、注意深く相手様子を伺っている。
それに対し、男は柔らかい笑みを浮かべて、敵意や殺意を全く感じない様子で話しかけてきた。
「うちのペットを通じて、話は聞いているよ。君たち凄いね。僕の仲間にならない?」
そして、そんな提案をしてきたのだ
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