第76話 夜の街

咲島さんのイメージ画像を近況ノートに載せました!

良ければご覧ください。


            ◇◆◇



刺客との戦いのあと、なんとか頑張って第25階層まで潜ることが出来た私達は、夜の大阪の街を歩いていた。


「やっぱり、この時間帯はどこも混んでるね」

「美味しそうな店は沢山あるんですけど、どこも満席。何処かにすぐにご飯が食べられる店は無いんですかねぇ…」


もうすぐ8時になる。


そろそろお腹がすき過ぎて、空腹感を感じなくなってくる頃だ。


もうこうなったら並ぶのもありだけど、出来ればすぐに座りたい。


何処かにすぐに座れる店はないものか…


「…そうだ!ビルの最上階のお店とかどうですか?あそこならここで探すよりずっといいですよ」

「確かにそうだけどさ…予約なしで入れるのかな?」

「多分いけますよ。それに、私達なら別に値段は気にならないですよね?」


かずちゃんは、ビルの最上階にあるちょっと良いお店でご飯を食べようと提案する。


確かに、そこならすぐに座れるだろうし、美味しいものが食べられるはず。


行ってみる価値はあるね。


「じゃあ、とりあえず行ってみようか」

「は〜い」


何やら嬉しそうな様子のかずちゃん。


そんなに楽しみかな?


もしかして、何か企みが……ん?


「あれは…」


見覚えのある服装に、何処かで感じた気配を放つ男。


私はその男が裏路地へ入っていくのを見て、歩みを止める。


「どうかしましたか?」


私の様子がおかしい事に気付きたかずちゃんは、私の手を引いてそう聞いてくる。


「あいつ……あの時の!」

「えっ!?ど、何処に行くんですか!?」


急いで走り出し、男を追いかけると、かずちゃんが慌ててついてきた。


「ちょっと神林さん!何処に行くんですか!?」

「ちょっとね。放っておくとヤバイって、私の勘が言ってる!」

「そうですか!厄介事じゃないですよね!?」

「間違いなく厄介事だよ」

「駄目じゃないですか!?」


かずちゃんがそう叫び、視線で必死に引き返すよう頼んでくる。


しかし、すぐにその視線も消えた。


「キャー!!」

「「っ!?」」


女性の悲鳴が聞こえ、かずちゃんも目の色を変えたからだ。


…そして、ハンドサインで誰かに何かを伝えていたのも、私は見逃していない。


多分『花冠』だろう。

以前みたいに、私達には手に負えない陰謀が渦巻いている場合、守ってほしい的なサイン。


早くも咲島さんの庇護下にある事をうまく活用してるみたいだ。


そんな事を考えているうちに、ある場所へ辿り着いた。


「大丈夫ですかっ!?」

「これは…!!」


私達が辿り着いた場所には、血を浴びて腰を抜かす女性と、3人の首を切断された男性の死体が居た。






「―――つまり、悲鳴が聞こえて来てみたら、こうなっていたと?」

「はい」

「そっちのお嬢ちゃんも、それであってる?」

「私は神林さんについてきただけなので」


あの後私達は、かずちゃんが支援を要請した『花冠』の勧めもあり、警察へ通報することにした。


あまりにも綺麗な切断面。

間違いなく冒険者か、元冒険者の仕業であり、現場には数十人の警察とその関係者がやって来てかなりの大事になった。


「神林紫さんだったかな?君はまあいいとして、御島一葉ちゃん。君はよくこれを見て平気だったね?」

「私達も冒険者なので、こういうのは慣れっこですよ」

「なるほどね」


警察の人がかずちゃんがケロッとしている事に驚いていたが、私達が冒険者だと知って、納得したようだった。


……が、すぐに表情が変わり、目つきが鋭くなる。


「さっき、職業『無職』と言っていたが…冒険者は違うのかい?」


かずちゃんにはその目を向けず、私には鋭い目つきでそう問いかけてくる警察の人。


「クランに所属しない冒険者なので、無職が妥当かと思いまして…」

「ふむ…フリーの冒険者か……」


警察の人はまだ疑いつつも、職業欄を無職からフリー冒険者に変えているようだった。


「フリーの冒険者なら、ランクはあまり気にしていないと思うが、ランクはなんだ?」

「ランク…?」

「ずっと前に説明しましたよね?アプリ残ってます?」

「ああ!あれか!」


かずちゃんに言われて思い出し、冒険者アプリを起動して自分のカードを読み込む。


「…設定してなかったんですか?」

「設定って何?」

「はぁ……登録冒険者設定です。アプリを開くと冒険者としての情報が色々と出てくる設定ですよ」

「へぇ〜?後でお願いできる?」

「神林さんにやらせるのは怖いので、私がやりますよ」


かずちゃんに呆れたように言われ、警察の人には苦笑いをされる。


少し恥ずかしく思っていると、私の冒険者カードの内容が表示された。


「ん?あれ?」


そして、私は表示されたカードの内容を見て、首を傾げる。


『登録番号 18695

 神林 紫

 ランクD

 レベル61 (8/11更新)

 最高到達階層51 (8/11更新)』


「これ、勝手に更新されるの?」

「そんなわけ無いでしょう?私が定期的に更新してるんですよ。神林さんがやらないから…」

「そうなんだ…ありがとう」

「今度やり方を教えるので、自分でやってくださいね?」


私が最初に見た時と内容が変わっていたのは、かずちゃんが色々としてくれたかららしい。


その事に感謝しつつ、もう一つ気になる事があったので、それも聞いておく。


「ランクDってあるけどさ、これいつの間に上がったの?」

「売った魔石に応じて、功績が溜まっていって、勝手に上がるんです。ただ、ランクC以降は試験があるので、勝手には上がりませんけど」


どうやら、ランクは勝手に上がるらしい。


でも、ランクC以降は試験を受けないといけないようだ。


……試験か。


「ランクCの試験って私受けられる?」

「規定は満たしてるはずなので、受けられますよ。やって損はないと思います」


なるほどね〜。


また今度受けるのもありかも。


「ランクC相当のフリー冒険者ね。一応、それも書いておくよ」

「お願いします」

「しかし、レベル61か……それなりに強いな」


目配せで他の警察の人にその事を共有すると、分かりやすく私達に対する態度が変わった。


危険人物を見るような、警戒心の高い対応。


まあ、この中に覚醒者は居ないし、その気になれば全員を一人で制圧できる実力者が目の前に居るんだから警戒するよね。


「とりあえず、今日の聴取は以上です。また何かあれば連絡しますので、署までお願いします」

「分かりました。……あの女性は?」

「あー……状態が状態なので、また今度ですね」


私達が見つけた女性は、錯乱して話にならないので、聴取はされなかった。


また落ち着いてからされるんだろう。


……あの男について、何か知ってると良いんだけど。








「あの女性がその時のことを話したら、それを私達にも共有してくれませんか?」


帰り道、誰も居ないところにそう話しかける。


「めちゃくちゃなお願いやなぁ。まあ、任しとき」

「ありがとうございます」


暗がりから返事が帰ってきて、私はその人物に感謝する。


「あの人は私が雇った護衛ですよ?」

「別に良いじゃない。今回の分の追加料金はワタシが払うわ」

「当たり前じゃないですか。全く!」


プリプリ怒るかずちゃんを見て微笑んでいると、かずちゃんは何かを見て、チラッと私になにか言いたげな表情を見せた。


「……行かないわよ」

「え〜?」


かずちゃんが見たものはホテル。


そんなところに行くわけ無い。


「さあ、家に帰りましょう。お腹ペコペコよ」

「神林さんが厄介事に首を突っ込むからですよ」

「ごめんって」

「許しませんよ。た~くさんナデナデヨシヨシしてくれないと許しません」

「はいはい。だったら早く家に帰りましょうね」


手を繋いで駅へ向かう。


とても楽しい時間だ。


……そんな時間を壊そうとする輩が居ることに、その時は気付かなかった。


「……まあ、ええか」

「ん?なにか言いましたか?」

「なんでもないよ。好きなだけイチャイチャせい」


私達の後ろを着いてくる『花冠』が何かとつぶやいた様な気がしたが、気にするなと言われた。


なので特に気にすること無く、私達は駅へ向かった。

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