第72話 従兄弟たちと遊ぼう

私に抱きついて居間で寝ているかずちゃんを撫でていると、幸太君がやってきた。


「紫姉ちゃん、冒険者なんやろ!?ダンジョンってどんな所なん!?」

「ダンジョンはとーっても怖いところよ。怖〜いモンスターが沢山いて、幸田君には行けないところだね」

「え〜?オレモンスターなんか怖くないで!!」

「私も怖くないよ。でも、とっても危ないところだから、幸太君は行っちゃ駄目だよ?」

「ブー!」


元気いっぱいな幸太君に続いて、私の従弟妹たちが集まってくる。


「冒険者って楽しい?」

「モンスターってどんなの?」

「私も…冒険者になれるかな?」


一気に話しかけられて困っていると、目を覚ましたかずちゃんが、目を細める。


「……紫さんを困らせちゃ駄目でしょ」

『っ!?』


声を低くしてそう言い放つかずちゃんの言葉には、見た目からは想像もつかない威圧感があった。


レベルが60になる冒険者が凄んでいるんだ。


いくら見た目が幼いからと言って、一般人なら訓練でも受けてない限り、受け流せるものじゃない。


従弟妹達は顔を青くして震え上がる。


「いい?私は冒険者になりたくてなった訳じゃないの。お仕事が無くて、仕方なく冒険者になったんだよ?」

「そうなん?」

「そう。冒険者なんて、ほんとはなるものじゃないよ。かずちゃんだって、家が貧しくて、自分のお小遣いを自分で稼ぐためにやってるんだから」

「そうやったんか……」


子供たちに私と同じ選択をさせないためにも、優しく諭しておく。


……これで私のせいでこの子達が冒険者になりたいなんて言い出したら、叱られるレベルじゃ済まないからね。


私でもおじいちゃんは怖いし。


「みんなは若いから、沢山勉強して普通の仕事に就いてね?」

『は〜い!』


純粋で可愛らしい小学生組達にそう言うと、私は私から少し離れたところでたむろしている、中高生組に目をやる。


二次性徴真っ最中の彼等彼女等には、かずちゃんが私に抱きついている様子は、刺激が強い様子。


女子組は興味深そうに見ているし、男子組は顔を赤くしてどこか様子がおかしい。


「かずちゃんも、あそこに混ざってくる?」

「イヤ」

「そう?ならここで待ってる?」

「それもイヤ」

「ふふっ。じゃあついておいで」

「ん」


かずちゃんを膝の上から下ろし、立ち上がって中高生組のところへ行く。


「久しぶりだね。元気にしてた?」

「まあ…はい」

「元気です…」


体力が有り余る小学生組と違い、少し成長して大人しくなった。


それに思春期ということもあって、私との接し方があまり分かっていない様子。


何より……


「……ふん」

「かずちゃん…」


自分達と同年代のかずちゃんが、中高生組を牽制している。


私よりもかずちゃんの顔色を伺っている彼等には、私と話をする余裕なんて無いかもね。


「みんなは勉強頑張ってる?いい学校に行けそう?」

「ほどほどかな…」

「はい…」


チラチラとかずちゃんを見て、しどろもどろな返事をする中高生組。


その様子が気に入らないのか、かずちゃんの機嫌が降下していく。


いったい何が気に入らないんだ…


この中高生組の手前、どうやってかずちゃんを叱ろうか悩んでいると、小学生組が集まってきた。


「紫姉ちゃん!瓦割り出来る!?」

「出来るわよ。瓦がないからやらないけど」

「かず姉ちゃんは、あの竹とか藁斬るやつ出来る!?」

「竹…?試し斬り用の青竹の事?」

「そうそれ!」


私は瓦割りを。

かずちゃんは試し斬りを小学生組から所望された。


残念なことに瓦は無いし、そんな都合よく試し斬り用の青竹や巻藁は無いだろう。


この子達の期待には応えてあげられなさそうだね…


「残念だけど、瓦も青竹も無いから、見せてあげるのは無理かなぁ」

「えぇ〜?オレ見たい!!」

「僕も!!」

「私も!!」

「でもね〜?」


小学生組からのブーイングに困っていると、親戚一同が集まってきた。


「瓦割りに試し斬りか…確かに見てみたいな?」

「そうね〜?紫、なんとかならないの?」

「ものが無いことにはなんとも……でも、模擬戦みたいな感じで、私とかずちゃんが戦う様子なら見せられるよ?」


そう言ってかずちゃんに確認を取ると、普通にオッケーしてくれた。


相変わらず私にベッタリで、中々の甘えっぷりを見せるかずちゃん。

……まあ、平常運転だね。


「いいな。模擬戦。やってみてくれ」

「じゃあ庭に出ないとね。行こうか、かずちゃん」

「は〜い」


玄関から出て無駄に広い庭にやって来ると、おじいちゃん含め、沢山のギャラリーに見守られながらかずちゃんと向かい合う。


すると、かずちゃんは普通に防具を取り出して、普通に着始めた。


首を傾げて様子を見ていると、なんと当たり前のように真剣を抜いた。


「えちょっ…模擬戦だよ?」

「この方が、かっこいいじゃないですか?」

「そうだけどさ…流石に真剣は不味いって!」


ギャラリーの方を見ると、大人たちは全員動揺ているが、子どもたちは『刀だ!』『本物だ!』と大喜び。


今すぐにでも木刀か竹刀に返させようと、かずちゃんの方を向いた瞬間―――――


「先手必勝!!」

「えっ!?はあ!?」


いきなりかずちゃんが斬り掛かってきて、咄嗟に《鋼の体》を発動する。


腕をクロスして頭を守ると、丁度そこには刀が振り下ろされ、甲高い金属音が鳴り響く。


「ううっ……相変わらずの硬さですね」

「ちょっ!?威力がガチなんだけど!?」

「そりゃあ、本気でやってますからね。でも、安心してください。この刀は廃棄予定の鈍らなので」

「それでも平気で人殺せるのよ!!」


ガチで殺りに来てるかずちゃんにビビりつつ、後ろの様子を見ると、大人たちは顔を青くし、子どもたちは目を輝かせている。


……子供には好評っぽい。


「ほらほら!反撃してみてくださいよ!」

「くっ!?ちょっと!怒るよ!!」

「怒るなら殴ってみてくださいよ。まあ、ノロマな神林さんのパンチなんて、当たる気はないですけどね?」

「あ?言ったな?」


魔力を使って脚力を強化し、一気に懐に潜り込む。


そして、最速で拳を振り上げるが、かずちゃんはそれを紙一重で躱す。


そのまま私の腹を蹴って強引に距離を取ると、風の魔法を発動する。


「『風撃』!」

「効かないねぇ!!」


風の塊が私に襲い掛かってくるが、平気で防御する。


そんな甘っちょろい魔法が、私に効くはずがないのだ。


距離を詰め、蹴りの先端が当たる間合いに近付くと、防具を着ている胴体目掛けて回し蹴りを放つが。


「見えてますよ。お返しですっ!!」

「ちいっ!!」


狙いを見透かされ、反撃をもらってしまった。


蹴りをした直後の隙をつかれ、私の腹に強い衝撃が走る。


《鋼の体》がごっそり削られた。


流石に危ないと思い、今度は私がかずちゃんから距離を取る。


そこへ、かずちゃんの魔法が放たれ―――ることは無かった。


「そこまでッ!!!」

「「っ!?」」


おじいちゃんの声が響き渡り、私達は手を止める。


その方向を見ると、眉を顰めたおじいちゃんがこちらへ歩いてきていた。


「状況は理解している。実に面白い余興だが…このまま続けさせては、家が壊れる。そこまでにしなさい」

「はい…」


まだどこも壊してないはずだけど……まあ、いつ壊れてもおかしくない。


どこか壊して怒られる前に、やめておくとしよう。


「まあ、こんな感じかな?面白かった?」


私がそう言うと、幸太君が目を輝かせ元気に答える。


「すっげーー!!ふたりともめちゃくちゃカッケーやん!!」


私達の事を褒めてくれる幸太君を見てほっこりする。


それに続くように、他の従兄弟たちもそれぞれの感想をいい、特に中高生の男子組はそれはそれは楽しそうだった。

 

とてもいい反応を見せてくれる従兄弟たちを見て『やって良かった』と、とても嬉しい気分になった。


 

……もちろん、子供たちが居なくなった後で両親や叔父さん達にしこたま怒られた事は、言うまでもない。


流石にやり過ぎたね。

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