第73話 再び

大阪府堺市


「よーし、着いた」

「なんか……神林さんの実家のキレイな空気に慣れた後だと、汚れてますね」

「都会だからね。仕方ないよ」


田舎のキレイな空気を存分に吸ったかずちゃんは、大阪の空気に苦言を呈す。


東京も似たようなものだと思うけどなぁ。


「堺ダンジョンのゲートウェイ。お盆休みということもあってか、人で溢れてますね?」


私達がやってきたのは、堺市にあるダンジョン。


そのゲートウェイだ。


「近畿に住む冒険者はみんなここに来るもの。さて、早くいきましょう。私達の取り分が無くなる」

「そうですね」


京阪神の冒険者が一気に集まってくるから、それはもう人で賑わっている。


東京よりも多いんじゃない?ってほど、沢山の人がいる。


沢山の人の人の群れを掻き分け、なんとかゲートウェイを抜けると、ダンジョンの入口が見えてきた。


「今日中に20階層まで行けると良いわね?」

「ですね~」


堺ダンジョンは初めてだから、1階層から降りていかないと行けない。


モンスターをフル無視して行ったとしても、今日中に20階層行けるかどうか…


そんな話をしながら私達の順番を待っていると、なんとも言えない感覚に襲われた。


「ん?」


振り返ると、帽子を深く被り、サングラスにマスクという、いかにも怪しい男が出口へ向かっていくのが見えた。


「どうかしましたか?」

「いや、なんでもない」


かずちゃんに余計な心配をさせないためにも、適当にそうやってはぐらかす。


ただ、やっぱりあの男は気になる。


(気にも留めてなかったとはいえ…あんな妙な気配を放つ男とすれ違った事に気付かなかった?)


かずちゃんの様子からしても、気付いていないみたいだし…


私達の探知を掻い潜れる程の猛者。


あるいは、その手の人間か…


……万が一、『財団』の刺客がダンジョンで襲ってきたら嫌だし、やっぱり情報共有しておくか。


「かずちゃん」「神林さん」

「「あっ…」」


かずちゃんにさっきのことを話そうとしたら、丁度かずちゃんもなにか話そうとしていたらしく、重なってしまった。


「どうぞ。何かあった?」

「実は…さっきから何かに狙われてる気配を感じるんです」

「え?」


警戒レベルを上げ、それらしい気配を探る。


すると、確かにこちらを狙う2つの気配を見つけ、また警戒心を高めた。


「私達をピンポイントに狙ってるあたり、『財団』の関係者でしょうね」

「そうね。全く、お盆休みだったのに、嫌ね」


そんな話をしていると、私達の番が回ってきて、ダンジョンの中へ入る。


あいつらも私に続いて入ってくるだろうけど……迎え撃てば良いだけの話。


……私達の手に負える相手だと良いんだけど。






ダンジョンに入ってそろそろ1時間が経つ。


今は12階層におり、周囲に人の気配がない。


仕掛けてくるならここだろう。


「かずちゃん。警戒を怠らないでね」

「分かってますよ。―――っと、噂をすれば、です」


刀を抜き、気配のする方向へ構えるかずちゃん。


その方向からふたりの男が現れ、彼らも獲物を抜く。


「なんだ。あなた達か…」

「これなら、まだ勝率がありますよ」


私達を狙っていたのは、いつぞやの暗殺者。


リベンジマッチをしにきたようだ。


「酷え言いようだなおい。爺さん、舐められてるぜ?」

「それはお前もだろう。予定通り、剣士は私が殺る」

「はいはい。まあ、オレもリベンジしたかったところだし、そっちは好きにしてくれや」


老剣士は私のことなど眼中になく、ただまっすぐかずちゃんを狙っている。


それなら好都合。


私はかずちゃんの隣から離れ、もう一人のチンピラ風の暗殺者と向かい合う。


「一対一で私と戦って勝てるとでも?」

「悪いな。今日のオレはしっかり対策してきてるぜ?その不可視の鎧を過信しない事だな」

「あっそ。ならその対策とやらを、見せてもらいましょうか?」


ナイフを抜いた男に対し、私は丸腰。


でも、それで全く問題ない。


「徒手とか舐めてるだろって最初は思ったが、お前、格闘家なんだよな…」

「そうよ。どうやら私に武器は向いてないらしい」


握り拳を作り、ステータスと魔力で強化された身体能力を使って一気に距離を詰める。


《鋼の体》を発動し、金剛石よりも硬い拳を男の顔面に叩き込むが、ギリギリで外された。


「悪いな。お前の動きはもう見えてる」

「そう……まあ、そっちの攻撃も意味は無いみたいだけどね」


私のパンチを外してすぐに、脇を狙うようにナイフを振り抜いた男だが、その攻撃はまるで意味をなさない。


私の守りを突破する策とやらがあるらしいけど…今のところはそんな気配ちっともっ!?


「なにこれ…?」


《鋼の体》に異常を感じ、男から距離を取る。


よく見てみると、男のナイフを防いだ部分の鎧が溶けていて、守りがかなり薄くなっている。


「効果あり、といったところか?」

「あんた…何をした?」


私がそう聞くと、男は下衆な笑みを浮かべる。


「魔力を乱す効果を持つナイフだ。お前のその鎧、魔力で出来てるんだろ?」

「なんて厄介な…」


まさか本当に教えてもらえるとは思っても見なかったけど、それ以上にあのナイフの効果に驚く。


魔力を乱すナイフなんて…私と相性最悪じゃないか。


アレをどう攻略するかが、この勝負のカギになるだろう。


「じゃあ、こっちから行くぜ!!」


男が素早い動きで私との距離を詰め、ナイフを振りかぶる。


その様子を注意深く確認し、私はギリギリでナイフを躱した。

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