第70話 ルールの理由

「……神林さん。なんで、この家は冒険者禁止なんですか?」


用意された部屋に布団を敷いていると、かずちゃんがそんな事を聞いてきた。


「ちょっと、私が生まれたすぐくらいに事件があってね。それ以来、うちは冒険者禁止になったんだよ」


1歳の時の話だから、私は全く覚えてないけれど、とても悲しい事件だった。


禁止が納得できるくらいには、悲しい事件。


かずちゃんに、ルールの理由わけを教えてあげよう。






            ☆ ★ ☆






「これは、私が1歳の時に起こった話。私のお父さんの3つ下の弟―――三吉さんって人が居てね。三男ながら、兄妹の誰よりも早く結婚して、子供が二人いたんだ」

「三男…えっと、光太郎さんが長男ですよね?」

「そう。林次郎叔父さんが次男、その下に三吉さん。そして四男の大空叔父さん。最後に末っ子の洋子さんの5人兄妹だったんだ」


そう、その日まではね。 


「三吉さんは自衛官だった。当時はまだ冒険者がそこまでいなかったから、調査隊の護衛は大抵自衛隊がやってたんだよ。三吉さんも、その1人だ」

「確かに、昔はそうでしたね」


今となれば、護衛は冒険者の仕事だけど、昔はそうじゃなかった。


まだ冒険者が子どものなりたい職業ランキングに載るような時ではなかった頃は、自衛隊が護衛をしてたらしい。


「三吉さんは、その調査隊を守る自衛隊の1人として、何度もダンジョンに潜っていたよ」

「ベテランだったんですね」

「まあね。……でも、やっぱり所詮その時代の人間。大規模なモンスターの群れに襲われ、調査隊は壊滅した」


昔の人は弱かった。


覚醒者であっても、やっぱりレベルがそこまで上がってないから、大した戦闘力はない。


モンスターの群れに襲われたら、どうしょうもないんだ。


「調査隊がそんな状況だから、当然遺体を持ち帰る事も出来ない。ダンジョンについて全く無知な私でも、これだけは知ってた。『ダンジョンで死ぬと、遺体が消滅する』って」

「そうですね……」


人も、ダンジョンで死ぬとモンスターと同じように煙になって消えるらしい。


ただし、モンスターと違って死後すぐに消滅するわけじゃないらしいから、猶予はある。


それでも、その時間が過ぎると…アウトだ。


「三吉さんは、ダンジョンに行ったきり、遺品すら帰ってくることはなかった」

「………」

「私はその時のことは何も覚えてないけれど…みんな、相当辛かっただろうね。だから、二度とそんな事が起こらないようにって、おじちゃんが、一族が冒険者になることを禁止した」


二度とそんな事が起こらないように…家族を最悪の形で失わないように。


そう願っての、しっかりとした理由のあるルール。


私はそれを、破って冒険者になった。


「賢人さんは、家族のためにそのルールを作ったんですね…」

「そうだよ。納得の理由でしょ?」

「はい」


かずちゃんも納得してくれた。


この家の『冒険者になってはいけない』というルールは、他の家とは少し違う。


失うのが怖くて禁止するのではなく、これ以上家族を失わないために禁止している。


他よりも、重みが違う。


「私はそれを知って冒険者になった。もちろん、最初は多少躊躇ったよ。でも、生活のためだからって言い聞かせて、今に至るって感じ」

「神林さんのやってることは、褒められた事ではないです。……でも、私は絶対に責めたりしませんよ」

「私と出会えたから?」

「はい。大好きですよ、神林さん」


そう言って、私の敷いた布団に倒れ込み、手を伸ばして私を呼ぶかずちゃん。


その上に覆いかぶさると、唇を重ねてかずちゃんの期待に応えてあげた。


何度も唇を重ねて愛を確かめ合うと、かずちゃんは私の胸に手を伸ばす。


「最近は胸に夢中ね」

「もう負けを認めたんです。それからはかなり楽ですよ」


負けを認めたって……まだ私に胸の大きさで勝てると思ってたの?


高2でこんなちんちくりんなのに?


「痛っ!?」


何を思ったか、かずちゃんが怒った表情を浮かべて、私の胸を思いっきり握りしめてきた。


「私の目は誤魔化せませんよ。絶対に今、『こんなにちんちくりんなのに?』とか思ったでしょ?」

「お、思いました…」

「お仕置きです。下になってください」


かずちゃんにそう言われ、布団に寝転がる。


するとすぐに私の上にかずちゃんが乗っかってきて、胸を揉みしだく。


「今日は寝させませんよ。一晩中私のことを甘やかしてください」

「この体勢で?」

「はい。ちなみに、私が嬉しい気持になれないようなら、神林さんの胸に思いっきり噛みつきます」


体勢が違うだけで、いつも通りと…


最近は、ワガママに拍車が掛かっているような気がする。


「ここはマンションじゃないんだから、自重してほしいなぁ」

「……同性愛を禁止するルールがあるんですか?」

「無いけど、実家だよ?普通しないでしょ」


うちには同性愛を禁止するルールは無い。


だから、何も問題ないし、みんなの前で堂々とイチャついても文句は言われないだろう。


でも、実家では普通自重するでしょ。


真面目な話してたのにすぐに発情しちゃって…


まあ、思春期真っ盛りだし、仕方ないのかもね。


「はぁ……仕方ないね。今日はちょっとだけ、いいことしてあげようかな?」

「え?」


私は、かずちゃんのパジャマの下に手を入れ、その素肌に触れる。


上半身を魔力を使いながら腹筋だけで持ち上げ、少しずつパジャマの下に入った手の位置を上げていく。


「――――っ!」


思わず息を呑んで顔を赤くするかずちゃんを見て微笑みながら、一応着けられているブラに手を掛ける。


いつの間にかかずちゃんは私の胸を揉むのをやめ、手をもじもじさせながら、私がナニカをするのを待っている。

 

息が熱を帯び、とても未成年とは思えない艶かしさが現れ始めた。


私もその色気にスイッチが入り、本当にブラを外そうとしたその時―――


「紫。まだ起きているか?」

「「ッ!?」」


突然声を掛けられ、私達は慌てて飛び退いた。


声を掛けてきたのは、お父さん。


「お、起きてるよ…」

「そうか。親父からの伝言だ。『やるなら静かに』だとよ」

「う、うん…」

「全く、余計なお世話だよな。あんまり気にしなくていいぞ」


それだけ言って、お父さんは去っていった。


ふすまを開けてお父さんが居ないことを確認すると、かずちゃんが布団にくるまっていた。


「興が削がれました。もう寝ましょう」

「ごめんね…多分、こうなることを狙ってたんだと思う」

「知ってますよ。それくらい」


せっかく良いところまで行ったのに、邪魔をされてへそを曲げてしまったかずちゃん。


私も残念に思いながら布団の中に入り、かずちゃんを抱き枕にする。


「いい匂い」

「神林さんもですよ」


季節は夏真っ盛り。


布団の中にふたりで入れば、嫌でも汗を掻く。


私はシャンプーの匂いのことを言ったつもりだったけど…果たして、かずちゃんはどうなのか。


無駄に効くエアコンの冷気から逃れるように、抱き合って眠ることにした。








✳近況ノートに神林紫のイメージ画像を貼って見ました。

ぜひご覧ください。

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